【柴又日誌】#166:わがスマホ、起動せず。その後に起こったこと。

 突然、わたしのスマホが起動しなくなりました。一昨日(3月10日)の夕方のことです。iPhoneの最終更新の際に、何らかの不具合が生じたようです。この時点では、「故障の原因は、ソフトウエアの更新に失敗したから?」は、単なるわたしの仮説でした。
 不便極まりないので、朝起きてすぐにauショップへ駆け込みました。ショップは、京成立石駅のアーケード街にあります。最寄りの高砂駅から立石駅は、2駅ほど先になります。携帯電話が壊れてみて、われわれの生活がいかにスマホに依存しているのかがよくわかりました。
 その日から先のスケジュールはすべて、スマホのスケジューラー(office365)に入力されているからです。これにアクセスできないと、まったく仕事にならないのでした。
   
  
 <ミーティングを延期する> 
 まずは、午前中に約束していた「zoomミーティング」を延期しました。携帯がないと、どこにも連絡ができません。PCからのメールで、相手方に延期を伝えました。元院生の小平君はレスポンスが早いので助かりました。相手がちがうと、連絡が取れずにひと悶着があったかもしれません。
 小平君との面談は夕方からにリスケして、auショップの開店時刻の午前10時に合わせて、順番を取るために並ぶことになりました。運よく待ちの枠がすぐに取れて、親切な男性の店員さんが対応してくれました。
 彼の推測は、「充電ができていないのでは?」でした。起動時に初期画面に現れる「アップルのマーク」が延々とついたり消えたりしているからだと思います。そこで、ハードウエアのチェックを試みましたが、販売店では問題は解決しません。
 埒が開かないので、店員さんがコールセンターに電話してくれました。それでも、問題は解決しないままに終わりました。わたしのiPhoneは、何をどうやっても、アップルのマークが点滅しているだけです。画面は真っ黒のままで、うんともすんとも反応しません。
 最後の手段として、コールセンターに店員さんが電話してくれてました。結局は、午後12時半に、わたし自らが「銀座のApple Store」にiPhoneを持ち込むことになりました。

 ところで、コールセンターのお姉さんとは、販売店の電話を借りて話すことになりました。電車に乗って行く先が決まり、店舗は銀座のiPhone直営店です。行先の候補は複数ありましたが、銀座の直営店がもっと近い場所でした。住所を彼女から教えてもらいました。
 住所は、中央区銀座8丁目9-7。最寄り駅は新橋です。立石駅から都営浅草線で20分弱。ところが、新橋駅から徒歩4分のiPhoneショップに到達するまでの道順がわかりません。そうなのです。スマホが手元にあれば、住所を入力だけで、店舗の場所が地図の画面に表示されます。
 しかし、スマホが壊れているので、店舗へのアクセスは紙で解決するしかありません。auショップの店員さんから差し出されたメモ用紙に、新橋駅から博品館経由で銀座8丁目のショップへたどり着くまでの地図を、手書きで記入しました。もちろん、店員さんのスマホを見ながらです(笑)。
 新橋駅から銀座にかけては、わたしがふだんからよく歩き回っている場所です。土地勘があるので、店員さんのスマホ上の地図(ショップまでの経路)は、簡単に手書きで写すことができました。これが吉祥寺や渋谷など、よく知らない場所だとたぶんアウトでした。
 
 <アップルストアに到着>
 さて、12時半にショップに到着すると、青いシャツを着ているアップルストアの店員さんが、3階のフロアを歩いています。案内係の男性に、小川の名前と予約時間を伝えました。フルネームをiPadに入力すると、大きなテーブルに案内されました。
 数分後に、わたしの担当をしてくれる男性が現れました。まずは、作動しないわたしのiPhoneを、店員さんのPCにケーブルでつなぎます。ハードウエアのチェックをしましたが、数分後に問題がないことが明らかになりました。ソフトウエアの問題です。
 もしもハードウエアの故障が原因の場合は、別室にある部屋で修理をすることになるのだそうです。それでも、直らない重度の故障の場合は、修理工場にiPhoneを送ることになります。その場合は、無償で代替機を貸与してくれるそうです。
 銀座の直営店ビルは、建物の1階から7階までアップルが借りています。余談になりますが、青いシャツを着ている店員さんは、見たところ3階のフロアに10人ほどいます。それ以外に、全体をコントロールしているマネージャーさんらしき人(白い着衣)が、3階の修理フロアに、2~3人ほど立っていました。1階から3階までが、アップル製品の販売と修理対応のフロアになっていました。
 
 朝から緊張の連続でした。急に尿意を覚えたので、トイレの場所を尋ねました。
 案内にしたがって、7階までエレべーターで昇っていきました。トイレに行く途中、なんの表示もない部屋がたくさんあることに気が付きました。おそらく、販売/サービスのフロア(1~3階)の倍くらいの数です。
 わたしの担当の男性に尋ねたところ、このビルで働いているアップルの社員は、約200名。フロアで接客に当たっている人は、全体の3割くらいだとのことでした。想像するに、残りは修理部門や事務方の社員さんのようです。
 一瞬にして、会社の組織図とオペレーション体系、従業員のサイズが想像できてしまうのは、職業病(経営学者としてのリサーチ病)かもしれません。これが楽しみで、あえて銀座までいそいそと修理に来たのでした。

 <スマホの復活>
 余計なことに話が逸れてしまいました。
 つぎに、ソフトウエアのチェックです。どうやら、ソフトウエアのチェックでは、最初に述べた小川仮説(ダウンロードした更新プログラムの不全)が正しかったようです。
 担当者からは、スマホ内のデータをクラウド上に保管しているかどうかを尋ねられました。当然のことながら、「イエス」です。大量のメールと画像データがあるので、こまめに保管をしているはずです。実際に、データは前日の分までクラウド上に、安全に保管されていました。
  その後の対応は簡単でした。ソフトウエアをダウンロードし直して、クラウドに置いてあるデータを復旧させることです。その操作には、かなり時間がかかりそうでした。ダウンロードが始まると、スマホが熱をもって来た様子です。大量のデータを復旧する作業が続きます。

 その間も、担当の社員さんが、自身のスマホからどこかに連絡をしている様子です。しかし、ダウンロードが完了するまでは、わたしの傍を離れることができないようです。わたしも暇なので、ちょっとしたいたずら心から、彼にインタビューを始めることにしました。
 彼はアップルに勤めてから、10年ちょっとだそうです。年齢は、30代後半から40代前半。ほぼわたしの息子たちの世代に見えます。当初は、(都市)銀行に勤めてから一度、IT企業に転職。その後、いまのアップルに再度転職したようです。もともとがアップルユーザだったらしく、自然な転職だったと説明していました。
 いまの同僚たち(「外資系」と呼んでいました)もそうだという説明でした。アップルという企業で働くためには、必ずしも特別なIT知識を必要としていない。ITの知識よりも、ここで働くために必要なのは、むしろ接客技術の方だとのことです。経験的にも納得です。
 たしかに、この場で気持ちの良い接客を受けられるかどうかの方が大事です。修理の原因を突き止めて、素早く仕事を終わらせるより、それは重要なことだとは誰でもが想像ができます。

 <アップル社員の働き方>
 クラウドからの大量データのダウンロードが、なかなか終わりません。
 そこで、アップル社のサービスオペレーションについて、さりげなく質問を続けることにしました。修理担当のフロア(3階)のオペレーションについてです。
 わたしの担当にアサインされた彼は、本日はわたしのスマホの不具合をチェックして、ソフトウエアを修復する手伝いの仕事をしてくれました。しかし、ふだんはハードウエアの修理も担当するのだそうです。他の従業員も同じで、マルチタスク(多能工)で仕事をこなしているとのことです。全体的には、むしろ故障対応の接客よりも、機械修理や部品交換などの作業時間の方がメインらしいのです。
 昨日、彼はわたしの担当「銀座店、12時半~のスロット」に割り振られました。なので、どのようにシフトが組まれているのかを尋ねてみました。3階のフロアで差配しているマネージャーの役割と、彼自身のアサインのされ方について、おもしろいことを教えてくれました。

 銀座の店舗に来る前に、わたしはau販売店からコールセンターに電話をしました。そこで、「銀座のアップルストアで、12時30分からの故障サービス対応」が決まりました。店舗に到着する前に、わたしの担当者が決まっているものだとばかり思っていました。
 ところが、接客担当の割り振りは、事前に決まっているわけではありません。直営店での故障サービス対応のシフトは、驚くなかれ、シンガポールのアジア本部で組まれていました。前日に、(日本の)各直営店に出勤する人数と見込み客の予想で、サービス対応ができる「コマ」を先に決めてしまうようです。
 元銀行員の彼が、わたしの担当者にアサインされたのは、全くの偶然でした。
 フロアマネージャーが、その時間に空いていた彼を、わたしの担当に割り振っただけのことです。コールセンターのオペレーターからは、auショップから電車で行ける都内の直営店のリストが提示されました。そして、可能な限り早い時間に、サービスを受けられる時刻を告げられました。
 オペレーターは、PC画面でそのリストを見ながら、わたしと会話していたはずです。その大枠は、前日にシンガポールで組まれていたものなのでした。ひょんなことから、iPhoneのソフトウエアの不具合を直す修理サービスが、グローバルなネットワークで組み立てられていることを知ることになりました。
 スマホが壊れて一瞬は困ったのですが、想像していた通りに、勉強になる一日を過ごすことができました。なんでも物事は聞いてみるものです。それも、事前に立てた仮説があったればこそでした。

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