その昔、わたしが「日本マーケティング・サイエンス学会」の学会誌編集長だったころ、若手で活躍していた3人と門前仲町で会うことになった。仲介役は、法政大学キャリアマネジメント学部教授の酒井理くん。彼は、わたしの修士課程の大学院生だった。わたしが私小説を出版したので、アマゾンなどネットで購入してくれた学会仲間2人と、サイン会を開いてくれた。
集まってくれた他の二人は、野沢誠治くん(共立女子大学ビジネス学部教授)と大西浩志くん(中央大学ビジネススクール准教授)。わたしの大学院生の中では、教授になった学生が20人ほどいる。この3人は能力が高い組で、成績上位校で教授職のポストを掴んでいる。
野沢君は、わたしの博士課程の元院生で、キリンビールの調査部に勤務していた。会社に所属しながら、パートタイムながら、京都大学のビジネススクールでも教えていた。昔から、彼の教え方には定評があった。
大西君は、大阪大学の大学院から米国に留学して、ドクター号を取得して日本に戻ってきた。留学前に途中で、電通やビデオリサーチに勤務していたこともある。わたしが法政大学で研究会(土葉会)を組織していたころ、酒井君たちとも研究仲間になっていたらしい。帰国後はしばらく、東京理科大で教えていたが、いくつか大学を渡り歩いている。
研究者であればとくにそうなのだが、職場(大学)を変わることがふつうに行われている。わたしなどはその例外で、法政大学に助手として採用されてから、他大学からの誘いをすべて断ってきた。義理堅いけれど、採用側からすれば融通が利かない「一穴主義者」である(笑)。
企業組織であれ大学の社会であれ、人と人との間の関係はわからないものだ。酒井君が、野沢君と大西君とそれほど近しい関係にあったとは知らなかった。また、3人がわたしの本を購入しれくれたことで(3人にはLINE経由でわたしから宣伝していた)、門前仲町で久しぶりに会う機会を酒井君が設定してくれるとは思わなかった。
酒井君は法政大学に所属しているから、学校の行事などで会う機会を作ることもできるだろう。しかし、大西君と野沢君とは、こんなこと(サイン会)でもなければ、会うこともなかったかもしれない。どんな形であれ、本は出し続けるものだ。
先ほど、ネットで「歌手の大橋純子さんの死去」(代表曲は「シルエットロマンス)を知ったが、最後に彼女が友人とすれ違ったときに、「これが最後になるかも」と言って別れたらしい。人の死は突然に訪れるものだ。わたしたち4人も、昨夜の門前仲町が最後になるかもしれない。
さて、昨夜は、3人から購入してもらった本に、会うなりさっさとサインをした。愛用のモンブランの万年筆で、さらっと「小石川一輔」のペンネームでサインをしておいた。しごく簡単に、本の特徴を3人に説明した後ではあった。ごくあっさりとサイン会は終わった。いや、終えた。
昨夜は、11月に入ってようやく、男鹿半島できりたんぽ鍋を食することができた。今秋でお初のきりたんぽ鍋である。
久しく口にできなかった比内地鶏のスープに河戸川の白神ねぎ、そして、堀さんが焼いて作った自家製のきりたんぽである。酒井君は、門前仲町が二度目のはずだが、大西君と野沢くんは初めてだった。とんぶり(ほうきの実)やなた割りガッコ(おしんこ)、さもだし(地のキノコ)で秋田料理を満喫して帰った。
最後は、店主の堀さんが囲炉裏端に座って、独演会が始まった。なかなか聞き取りにくい秋田弁に、三人は戸惑ったかもしれない。雨上がりの門前仲町、秋田料理の店じまいは早い。わたしたちが最後の客になった。それでも10時前にはお開きになった。
今度はいつ会えるのだろうか?大橋純子さんとコンサート仕事仲間のように、これは最後になるのだろうか?