【書評】土屋哲雄(2021)『ホワイトフランチャイズ』KADOKAWA(★★★★★)

 この先の取材のために、参考資料として読んでみた。今週の七夕の日に、ワークマンの上野事務所で、林知幸部長と書籍の打ち合わせがある。「アンバサダー・マーケティング」という本なのだが、同社のフランチャイズシステムについても、事前に下調べをしておこうと思って、秘書の内藤に購入を頼んでおいた。

 

 偶然なのだが、この先に出版を予定している2社の経営理念と、ワークマンの経営システム(FCシステム)が酷似していることに気づいた。コンビニエンスストアの「ローソン」と外食チェーンの「物語コーポレーション」と、ワークマンのFCシステムの設計思想が似ているのだ。 

 物語コーポレーションとワークマン(ベイシアグループ)の現役経営者の方に、本書を読了した後で、以下のメールを送ってみた。例えば、物語コーポレーションの創業者、小林佳雄さんには、次のようなメールを送付して、わたしの印象の確かさを尋ねてみた。

 

 こんにちは。小林さん。

 ブログに紹介文は書いてないのですが、本日、少し前に買った本を読み終えました。ワークマンの本で、知り合いの土屋哲雄専務の『ホワイトフランチャイズ』です。偶然ですが、いま書こうとしている3社とも、フランチャイズ主体の企業です。ワークマンの企業文化が、物語コーポレーションやローソンと似ているなあと思いました。

 加盟店の店主さん第一、地域貢献、社員の自主性尊重、でも、イノベーションには積極的に取り組む企業風土。小川より

 

 さきほど、小林さんから返信があった。

 「はい、たしかにそれを感じます。ローソンにもです。」(小林さんから、7月3日早朝)

 

 土屋さんの本の「まえがき」に、3社のフランチャイズシステムが、同じ理念で運営されている証拠が述べられている。引用してみる。

 (P.9)既存店をワークマンプラスに変えていく順序は、投資効率から考えるのではなく、売上げ面で苦戦している店舗を優先的に選んでいるのだ。また、「いまの売上げには満足しているので、これ以上は忙しくなりたくない」という店長がいれば、無理にワークマンプラスに変えることも勧めない。

 

 (P.10)今後、(ワークマンプラスが)都心にも出店するなどして店舗数がさらに増えれば、宅配は廃止して、店舗受け取りのみにするのもいいのではないかと検討している。

 店舗受け取りであれば、売上げは加盟店のものになり、店舗に足を運ばれたお客様が他の商品を購入したり、リピーターになってくれることもあり得る。一方、ネット販売での宅配は直販になるので、加盟店にとってのメリットがない。加盟店が脅威に感じるようなことはできるだけやりたくないのである。

 

 加盟店を優先するという考え方について、物語コーポレーションの小林さんから、数年前に伺った話を思い出した。「ホワイトフランチャイズ」(優しい加盟店対応)とはよくぞ言ったものだ。

 そのときの小林さんの言葉を要約すると、ほぼこんな風になる。

 「通常、FC本部は加盟店からの苦情などは避けたいものだ。しかし、物語ではフランチャイジーの意見をできるだけ尊重して、誠実に対応するようにしている。消費者の苦情が「宝」であるように、加盟店からの要望は業務改善の「ヒント」になると考えるのである」。

 小林さんらしいコメントだった。物語コーポレーションの場合は、直営店と加盟店がほぼ半々である。そのバランスも絶妙であるが、本部主導でものを考えるのではなく、通常は弱い立場にある加盟店の都合を優先する。真の意味で、共存共栄を目指していることがわかった。

 ワークマンも、本部主導ではなく加盟店を中心に考える。その観点からでは、物語やローソンと共通する空気(社風)を感じる。ローソンの出店の仕方も、不利な立場にある加盟店を助けることを優先させている。競争が厳しい場所や業績の良くない立地の加盟店を、優先的に移動させる方針を採用しているのである。

 

 ローソンがかつて取り組んだ「冷蔵品の店舗受け取り」の際に、本部の担当者から伺ったインタビューを思い出した。「ローソン フレッシュ ピック」(2018年)はテスト段階で終わった実験だった。宅配ではなく店頭ピックアップにした理由として、わたしはワークマン(土屋専務の本)と同様な説明を担当者から受けた。

 店頭ピックアップ(BOPIS)では、もちろん宅配のコストが低減できるという理由も大きい。しかし、消費者に直接デリバリーすると、加盟店の売上にならない。フランチャイジー側のメリットがない。だから、フランチャイジーの利益を優先して、ネット直送はやめたという説明を受けたのである。

 

 3社の比較を述べたが、土屋さんの本は、全編が加盟店(店主とその家族)への愛情にあふれている。まるでラブレターを読んでいるようだった。以前に、土屋さんの本『ワークマン式「しない」経営』を読んだことがある。そのときに受けた文章の硬さが、今回の本にはみじんも感じられなかった。

 ベイシアグループのマネージャーさんからは、ワークマンのルーツに関して興味深いコメントが返信されてきた。最後にそのメールを引用して、内容(中身)をきちんと解説していない書評(すいません!)を終えることにしたい。

 

 「小川先生、こんばんは。ワークマンは創業当初から三方よしを実践してきていることが何よりも素晴らしく、その軸がいまに至るまでブレることなく続いているのですよね。ローソンや物語コーポレーションも同じ姿勢を持たれているとのこと。企業の社会貢献の本質であり、素晴らしいことですね」(A.N.@カインズ)

 ワークマン創業者、土屋嘉雄氏(元会長)の遺産なのだろう。フランチャイジーと地域の利益を優先して、商売を考えることに全くブレがない。そのままの形で、ワークマンは第2創業期を迎えることができている。本書の中で、12人の加盟店主たちの生の声を聴くことができる。