「都市近郊の植物工場から花を供給することは可能か?」『JFMAニュース』2022年11月20日号

 短い丈の花に対する需要が増えている。潜在的なニーズはあったと思うが、短茎の花を大量に使用する業態や販売手法を開発する企業家が登場しなかった。販売側でビジネスが成立しないところでは、短い花を生産して供給する動機は生まれようがない。

 

 ところが、サブスクのサービスが普及したことで、短い花の供給が大量に必要とされるようになった。20~30CMの長さの花が品不足になる状態が続いている。短い花のほうが、立派な長い花より市場で高値が付く逆転現象も起こっている。

 1年ほど前に、サブスクのトップランナーである「ブルーミー」の武井社長にインタビューしたことある。「全国にビジネスを拡大しようとしているが、最大のネックは短い花が調達できないことだ」と武井さんは述べていた。

 そんなことを考えていた折に、先日(11月17日)、JFMAのフラワービジネス講座で「大田花き」の宍戸純さんと対論をする機会があった。宍戸さんの「キーワードで読み解く花のトレンド」という講演に続くパネルディスカッションでのことである。

 日本の花産業の今と未来について議論が終わりかけるタイミングで、わたしから宍戸さんに、「国産の花の供給がそれほど不足しているなら、植物工場で短い花や小さなサイズの葉物を栽培する可能性があるとは思いません?」と供給不足に対する一つの解決法を投げかけてみた。

 宍戸さんの返事は、「それもありですよね」だった。千葉大学などが先導した植物工場の栽培技術で、日本は世界の フロントランナーだった時期がある。しかし、いまや米国やドイツのベンチャー企業がはじめた「都市型の植物工場モデル」(Indoor Urban Farming)で日本は後塵を拝している。

 一般に、植物工場のイメージは、人工光とエネルギーと液肥を多量に使う「人工的で非SDG’s」のモデルと思われている。しかし、実際は違っている。たとえば、オランダに本社があるInfarmの場合、通常の野菜供給システムと比べて、都市型の垂直農法には5つの優位性がある。すなわち、①使用する水を95%削減、②肥料(液肥)を75%削減、③化学合成された農薬の不使用、④輸送コストを90%削減、⑤栽培空間を99%削減できることが謳われている。実際には、環境負荷の低い農業生産の形態なのである。

 垂直農法は通常は野菜を栽培するためのシステムなのだが、短い花という条件ならば、都市部で花を生産することができる。多段棚方式(12~20段)なので、賃料の高い都心部(倉庫地帯)や地方都市の郊外で花を栽培して供給することができる。

 国産・輸入ともに、生産・物流コストが高くなっている。ホームユースの花では短茎の花の回転率は、播種から採花まで90日程度である。短いものであれば、品目と品種を選べば採算は充分に取れそうである。サブスクの覇者たちに、このアイデアをすでに提案してある。

 都市型植物工場の回転率は年4回である。新品種の栽培実験とテストマーケティングが通常より迅速にできる環境にある。日本の都市部で、花の栽培・供給事業として成り立つかどうかは、数年のうちに結論が出てくるように思う。