大学の学部ゼミに、45年間で3人の留学生を受け入れた。台湾(男子)とマレーシア(女子)、そして韓国(男子)である。わがゼミは、日本と英語でテキストを輪読するのと、フィールドワークがあるので、留学生にとってはやや敷居が高いと思われていた。
それでも、やる気と志のあるアジアからの留学生は、何人かわたしのゼミの門をたたいてくれた。いまはどうしているかわからないが、台湾からの男子学生は自営業の子息だったと記憶している。マレーシーアからの女子学生は、中華系のアグネスチャンのような小柄な女子学生だった。現地で西友に就職したはずである。
一番最後にゼミ生になった留学生は、7年前。韓国から留学生の高盛文君だった。彼は軍隊から戻って、日本に留学生してきたので、結構な年齢になっていた。帰国してから一度、韓国から連絡をくれたが、その後はどうしているかわからない。彼が書いた読書感想文を今回は、北羽新報で紹介してみた。た
故国へ戻って行った大学院生の中には、コロンビアからきたホルヘくんや、ベラルーシから来たロシア人女性(実際は、平石ゼミ)がいた。戦火の今、どうしているのだろうか?本人も両家の子女だったが、金持ちと結婚したと風の便りには聞いている。
なお、今回のコラムは、2015年のブログ記事(7月3日)で紹介されている(「韓国人留学生が見た、日本人と韓国人女性の歩き方のちがい」(kosuke-ogawa.com)。
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「韓日衣服比較文化論:歩く後ろ姿で国籍が分かる!」『北羽新報』2022年11月号
文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)
2015年卒業のゼミ生に、高盛文君という韓国人からの留学生がいました。軍隊入隊後に日本に留学してきたので、日本人の学生からするとややお兄さん的な存在でした。
最初は慣れない日本語の発表で苦労していましたが、4年生のときの読書感想文で、念願の優秀賞を獲得しました。感想文は、「韓国人留学生が見た、日本人と韓国人女性の歩き方のちがい」という表題でした。課題図書は、矢嶋孝敏著『きものの森』(繊研新聞)でしたが、感想文の中では、本の内容についてほとんど触れられていません(笑)。
しかし、彼の考察はなかなか興味深いものでした。彼の主張は、「女性が歩く後ろ姿を見ただけで、日本人か韓国人かわかる」というものでした。女性の後ろ姿で国籍が判別できる根拠は、身体を包んでいる衣服にあるというわけです。
日本の着物も韓国のチマチョゴリも、伝統衣服です。ふだんは着衣することがないはずですが、歩き方の特徴は伝統衣服を反映したものだというものでした。「なるほど!」と感激したものです。「韓日衣服比較文化論」を要約して紹介することにします。
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「きものの森」を読んで(高盛文)
私は不思議に思っていることがあります。町を歩いていて、女性の場合、後姿を見ただけで、日本人なのか韓国なのか分かる気がします。韓国の女性のほうが、日本の女性より身長や体格が大きい気がします。しかし、日本での暮らしが長い女性は、日本ではやっている服を着ている場合が多いと思います。服装やヘアー(特に後ろ姿の場合)からは、その違いを感じることが出来ないと思います。一体何が違うのでしょう。
私はこの疑問を解決するために、女性の後ろ姿をよく観察してみました。そして、あることに気付きました。ただし、立ち止まっている後ろ姿をみても、その人が日本人なのか韓国人なのか区別することができませんでした。ところが、歩き出したときの姿を見ると、「あの人は韓国人だな」とわかりました。つまり、一番の違いは「歩き方」だったのです。
韓国の女性の歩き方は、足先が体の外側に向くような姿。「八」の字を描くような歩き方。反面、日本の女性の歩き方は、体の内側に足先が向くような様子。「11」という数字のように歩く特徴があることが分かりました。また、日本人は、足先が体の内側に向くような歩き方をする女性を見かけます。
ではなぜ、二つの国でこのような違いが生まれたでしょう。それは、伝統衣装の影響かもしれないと私は思いました。日本の着物は、体にフィットして足を自由に動かせる幅が狭いです。そのため、着物で歩くときは、自然に足先の向きが体の内側に向くようになります。反面、韓国の伝統衣装(チマジョゴリ)は、日本の着物とは違って余裕のある形をしています。そのため、足が自由に動けます。
このように、伝統衣装が作り出した歩き方が、現在でもつながっているのではないかと私は思います。この本を読んで、伝統衣装には、国の文化や生活習慣などが込められていると思うようになりました。女性の歩き方を見て、文化の「力」を感じることができました。