大学を去っていった先輩諸氏に、「歳をとると行動半径が狭くなる」と言われていた。退職してからは、通勤というルーチンがなくなった。先達の言っていた通りだった。それでもランナーなので、近所の土手や公園まで足を延ばしている。しかし、うっかりすると、スマホアプリの歩数計が一日2000~3000歩ということもある。
ショッキングなデータを毎日見ている。朝早くから仕事や取材や授業で、大きな「まぐろ」のように泳ぎ回っていたころにはとても考えられない活動量だ。気が付くと、電車に一度も乗らないままに過ごす日が増えている。ひとりになってから3週間。日々の行動半径が少しずつ縮んでいくことを、どこかで楽しんでいる自分もいる。
新しいルーチンとご近所さんたちとの交流が始まっている。これまではほぼ休むことなく、毎日のように見知らぬところへ、興味の赴くままに出撃型の人生を歩んできた。いまは自転車と徒歩で行く場所が増えている。新しい発見もある。微妙に毎回ちがいはするけれど、ほぼ同じ繰り返しの時間をそれなりに心地よく過ごしている。
わたしの場合、定型的な活動として定着しつつある場所ができた。そんな場所と自分の行動を、試みにリスト化してみることにしよう。移動手段(乗り物)ごとに、一覧表を作ってみる。
部分的には、千葉県白井市から葛飾区高砂に移住してきたころからはじまっていた現象だ。退職イベントは、その傾向を強めたようだった
1 自転車で移動する場所
頻繁に自転車で行く先は、葛飾区役所や葛飾税務署など。公的な建造物の事務所である。このカテゴリーには、年金事務所や銀行なども含まれる。京成高砂駅は特急電車が停まるのに、肝心な役所の出張所や大手の銀行などの窓口(ATM)がない。せいぜい南口に地区センターがある程度だ。ここに移住してくる前は、こんなことはまったく予見できなかった。
ネットバンキングや、e-Taxのシステムで確定申告の情報を自宅のPCから入力すれば、銀行のATMや税務署に自転車で出かけていく必要もない。しかし、全部ネットで完結してしまうと、街に出ていくチャンスを失ってしまう。それは精神上は大いにまずい。
自転車のペダルを踏んで、街の空気を吸い込みに行きたくなる。この街と日々どこかで接点をもっていたい。そう思っている自分がいる。下町の住民になったのだから、この街にどっぷりと馴染みたいと思っている。
2 歩いていく場所
日常的に自分の足で歩いていける場所は、自宅から半径1KMの範囲に限られる。時間にして、15分から20分程度だ。いまやむかしのようにスタスタとは歩かない。背筋を伸ばして、道の両サイドの風景を眺めながら、ゆったりおっとりと構えて歩く。
自宅から高砂駅までは、幸いにして徒歩4分である。歩いてよく行く場所は、駅前のドラッグストア(ぱぱす)やスーパー(セルカ、ヨーカ堂)になる。「サプリメント大魔王」のわたしは、マツモトキヨシのヘビーユーザーである。4種類のサプリメント(チョコラBB、セサミン、コエンザイムQ10AA、フェルガード)の他に、ユンケルやアミノバイタル(ゼリー)などもよく飲む。
小売店で歩いてよく行く場所は、高砂7丁目の「セブン‐イレブン高七店」。赤ワイン500円では大失敗したが、ここのメンチカツとコロッケは安くてうまい。ただし、ニチレイの冷凍コロッケを揚げているだけだが。それでもよしとしよう。
スーパー・セルカの入り口には、「わくわく整骨院」が入っている。少なくとも週一回、場合によっては2回、宮國院長の施術を受ける。宮國さんは、わたしのインスタグラムのフォロワーだ。足腰の施術を受けながらの会話は、わたしが前日に食べた「映える料理」のことになる。よく出る話題が、南口にある寿司ダイニングすすむさんのネタのことだ。宮國院長も常連客である。
すむさんのお店は、ヨーカ堂高砂店からさらに3分歩いたところにある。わが家からでは、10分弱かかる。わたしたちが歩いて行ける場所としては、もっとも遠いお店である。
南口のすすむさんの近くには、「HANA-TO-MIDORI」というフラワーショップがある。下北沢(世田谷区)の有名店「花広」を退職して、東京下町の高砂駅前に花店を開いたご夫婦がやっている。わたしが花の業界団体の会長をしていることを話すと、「下町のこんなところで、こんなにも花が売れるなんて感激です」と、人ごとのようにご主人が話していた。下町には珍しい洋花類を扱っている。素敵な花屋さんだ。
逆に、自宅から歩いてもっとも近いレストランは、イタリアンバルの「ナルバル」さんだ。ここまでは、歩いて2分もかからない。コロナの2年間、ナルさん(苗字らしい)は店を休んでいることが多かった。サーフィンで九十九里あたりをふらふらしていたようだが、リオープンしてからは、店舗がきれいに改装された。それだけではない。メニューが刷新されて、全般的に料理が美味しくなった。
鉄板焼きの「HOKUHOKU」は、自宅と駅の中間点になる。ここには引っ越しす前から、樽のウイスキーをキープしている。サントリーの角びんを小さなオークの樽に移したものだ。オークの樽からウイスキーに香りが移って、なぜだか香ばしくなる。ここも、コロナ後にメニューが刷新された。
この街の飲食店は、若者たちが店を開いている。中高時代に同級生だったのが、いったん外で働いてから戻ってきて、この街で新しく店を開いている。お互いに知り合いだ。また、メニューや店の運営を工夫している様子が見えて、頼もしく感じることがある。昔からの年寄りだらけの街だと思っていたが、若くて活気のある街に瀟洒なレストランが増えている。
わたしとしては、そろそろ新しい店も開拓せねばと思うこのごろである。
<(2)の予告>
都心の「オフィス(わん)」に行く時間が来てしまった。これから、JFMAの理事会で、「小川先生を囲む会」を開いてもらうことになっている。わたしの退職を祝ってくれるとのことだ。バーのオーナーの岩崎秀樹さんが、リモート会議用のモニターを設置してくれているはずだ。そろそろ神田小川町に向かわねば、、、
明日の予告である。「3 走っていく場所」「4 電車に乗っていく場所」「5 車でドライブする場所」と続く予定になっている。本日は、ここまで。