研究を指導した院生のテーマが、本わさびの市場開拓だった。当初は、わさび博士の岐阜大学・山根京子先生から持ち込みネタだった。院生のプロジェクトは無事に終了した。ちょっとした偶然から、糸魚川市でわさびを温室栽培している「SKフロンティア」の澁谷一正社長と知り合うことになった。澁谷さんの栽培施設の訪問記は、12月1日のブログで紹介している。
コロナで対面で施設を訪問することができなかったのだが、初年度(2020年)は、ズームで院生の二人(金子さん、松井さん)を交えて、画面越しで澁谷さんと話すことができた。そのときは、学生の研究に役立つ情報をいただいただけだった。まさか、翌年(2021年秋)になって、スケールの大きな共同事業を提案することになるとは、夢にも思わなかった。
なぜか、施設見学を終えた宴席で、わたしから澁谷さんに、「富山県でフランチャイズでわさびの温室栽培をはじめてみませんか?」と提案してみた。4年前から学生のフィールドワークで、富山県と魚津市との交流が続いていた。橋渡しをしてくれたのが、わさび研究のふたりと同期の学生で、当時はJTB名古屋にいた木村ともえさんだった。
彼女は、大久保あかね先生(静岡県立大学教授:観光サービス業が専門)のご紹介で、わたしども経営大学院に入学してきた。それも、わざわざJTBからJR東日本企画に転職しての入学だった。
そんな縁もあり、彼女の人脈とチャネルを突破口にして、北陸2県を横断する一大プロジェクトを、今月になって起案することにした。澁谷さんの栽培技術(栽培技術特許)と、富山の水資源を組み合わせた「わさび産地形成プロジェクト」(富山おいしい本わさびPJT)である。
プロジェクトの詳細は、木村さんに託した提案書をご覧いただくとして、本プロジェクトに使用するインプットは、(1)富山県、(2)SKフロンティア(澁谷社長)、(3)法政大学チーム+ミヨシ種苗からなる。
(1)①富山県の水資源とわさび栽培に適した冷涼な気候、
②若手の農業人材と有効活用できる土地資源
(2)③澁谷さんの栽培技術(栽培技術特許)
④SKフロンティア(澁谷代表)の栽培施設の建設と運営のノウハウ
(3)⑤メリクロン苗を供給するミヨシ種苗のグローバルなネットワーク(三好正一社長の協力)
⑥法政大学チーム(金子+小川)の販路開拓力
⑦経営コンサルティングの経験とFC運営のネットワーク(小川)
以上の組み合わせにより、従来は、主として静岡県(沢わさび)と長野県(畑わさび)が中心だったわさびの栽培地に、富山が加わることになる。しかも、澁谷さんが新潟県糸魚川市の栽培施設(温室栽培に伏流水を利用する)で実証したように、これまで栽培の適地とは考えられていなかった北陸地方(富山県)に、グローバル市場に向けて本わさびを栽培する一大産地形成のチャンスが生まれる。
富山でわさびを栽培する強みは、水資源と地形と気候である。これに加えて、澁谷さんの技術で、生産性が2倍以上で高品質の本わさびが栽培できることが実証されている。富山県にこの方法を適用すると、品質がさらに向上して、わさびの面積当たりの生産性が3倍になることが予想できる。
というわけで、とりあえず、富山県と魚津市にこの企画提案書を提出することになった。本日、木村さんから、村椿・魚津市長と山本・とやま観光推進機構の専務理事に、企画提案書が手渡されることになっている。
ふたりに宛てたわたしからの手紙(上申書)は、以下のとおりである。
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魚津市市長 2021年12月13日
村椿 晃 様
(公社)とやま観光推進機構 専務理事
山本 公生 様
いつもお世話になっています。法政大学の小川(孔輔)と申します。法政大学経営大学院で、マーケティングと流通経営論を教えています。
添付の提案書(略)を、元大学院生の木村ともえ(JR東日本企画)に託します。村椿市長は覚えていらっしゃると思いますが、2019年の「魚津しんきろうマラソン」に出場したとき、会場でお会いしています。前年には、ゼミ生がフィールドワークで、地元の若いシェフの方たちに協力をいただきました。魚津とは、なにかと縁が深いのだと思っています。
山本専務理におかれましては、元院生の木村ともえが御社でお世話になっています。以下の提案を含めて、今後ともよろしくお願いします。
今回、木村に「企画提案書」(富山おいしい本わさびプロジェクト)を託しましたのは、富山県が「わさびの産地」として、世界的に見て優位性があることを発見したからです。提案の理由は、魚津市を訪問して感じた「富山の気候」と「豊富な水資源」にあります。
プロジェクトで必要とされる「わさびの栽培技術」(温室と設備の建設とセット)は、糸魚川市の「㈲SKフロンティア」(澁谷一正代表)から提供されます。澁谷社長は、わさび栽培の技術特許を取得しておられ、しばしばメディアにも登場するベンチャー起業家です。
富山県(魚津市など)で、本わさびを温室栽培すると、静岡で本わさびを栽培するより、生産性(単位面積当たりの収量)が倍を超えることがわかっています。なお、澁谷社長が糸魚川市で大規模に事業展開ができないのは、栽培施設に転用できる広い土地と、安定した温度(14℃)の伏流水が十分に利用できないからです。
富山県ならば、富山湾に向かって扇状地が広がっています。わさび栽培に必要なミネラル分を多く含んだ伏流水が豊富なこともわかっています。何よりも、国際的な食市場をターゲットにした競争力のある商品の産地形成で、若い担い手に新しい雇用機会が提供できます。
なお、本わさびは、メリクロン苗で栽培されています。プラグ苗供給で世界NO.1は、「ミヨシ種苗」(山梨県)です。三好正一社長は、わたしの友人です。「富山がわさびのグローバルナ供給基地になるのであれば、苗供給と海外市場の開拓で協力を惜しみませんよ」と言ってくださっています。
チューリップではオランダに押され気味ですが、わさびは日本固有の植物です。国際競争力がある事業に育てることができます。ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。
法政大学経営大学院
小川 孔輔(教授)