今年の梅雨は、始まりが遅くて、降雨量が多い。関東地方では、平年の梅雨入りは6月上旬で、7月下旬には梅雨明けになる。梅雨の時期は約6週間である。今年は、この10年間で梅雨入りがもっとも遅い6月14日だった。気象庁のデータ(1951年~)を見ているが、70年間で梅雨の入りと明けの時期が変わったという証拠はないらしい。
しかし、梅雨に対するわたしの個人的な感覚は、公式データとは異なっている。上京したころ(1970年)の数年間は一人暮らしだった。洗濯も料理も、身の回りのことは全部ひとりで片づけていた。洗濯ものが乾かないと、近くのコインランドリーで洗濯機に下着類を投入して、乾燥機のドラムから衣類が出てくるのをじっと待っていた。その間は、小説などの本を読んでいた。
最初に上京した年は、杉並区の東高円寺のアパートで従兄と同居。2年目に都立大学のアパートに引っ越した。3年目からは、文京区西方で下宿生活を経験した後は、文京区湯島のマンションで下の弟(晋平くん)と二人で共同生活をした。
結婚する直前に、千葉県市川市に移って、今度は実の妹(道子さん)と二人暮らしになった。彼女はすぐに板橋の開業医に嫁いで、姓が近藤に変わった。わたしはその翌年(1979年)に、いまのかみさんと結婚した。兄弟やかみさんとの暮らしの中で、雨の記憶がまったく出てこない。
対照的に、秋田で暮らした18年間では、梅雨や秋の台風が思い出の中で鮮烈に蘇ってくる。魚釣りや遠足など、楽しいことが雨で中止になったからだ。わたしの中では、雨の日と図書館、読書と書店が、記憶の底で深く結びついている。
いま振り返ってみると、大学の学部時代の4年間(1970年~1974年)は、梅雨を経験した記憶がない。実際に、気象庁のデータを拾ってみると、この期間の梅雨はほぼ平年並みである。結婚するまで、その後の二年間も、雨が降っている風景についてはなんの思い出の痕跡も残っていない。
1970年から1973年まで、梅雨入りと梅雨明けの時期と降雨量のデータを見てみる。
年 梅雨入り 梅雨明け 降雨量(対平年比%)
1970年 6月11日ごろ 7月20日ごろ 110
1971年 6月 3日ごろ 7月29日ごろ 73
1972年 6月12日ごろ 7月19日ごろ 115
1973年 6月 6日ごろ 7月 5日ごろ 66
平年 6月7日 7月 日 100
しかし、コロナがやってくる2年前あたり(2018年)から、地球温暖化の影響なのか、雨と風が従来よりも激しくなっているように感じる。千葉から都内に移住してからは、梅雨の期間が長くなり、雨も激しくなっている。秋台風で、千葉でも都内でも洪水が増えている気がする。データ的にも、このことは確かめられる。
年 梅雨入り 梅雨明け 降雨量(対平年比%)
2019年 6月 7日ごろ 7月24日ごろ 131
2020年 6月11日ごろ 8月 1日ごろ 174
2021年 6月14日ごろ ??
このままいくと、今年の梅雨は、平年比で200%近くになりそうだ。昨日の熱海の土石流での被害にみられるように、地盤が緩んでいるところに連日の雨が続くと、傾斜地のがけ崩れや土石流が怖い。データは、梅雨時のものであるが、秋の降雨量も同じではないだろうか?
気象庁は、21世紀の終わりにかけて、梅雨時期の降雨量が増加することを予測している(遠藤洋和(2015)「異常気象と気候変動」『地球温暖化』5月号、44~45頁)。気球温暖化の影響で、海面から上昇する大気中の水蒸気量が増えているからである。梅雨の時期にはとくに、偏西風で運ばれてくる水蒸気量が増加するからだ。
いまわたしたちが経験している梅雨後半の雨の増加は、あきらかに温暖化の影響を受けている。梅雨の期間も、さらに長くなるかもしれない。わたしは、若いころには台風や洪水の影響が少ない時期を経験した。甚大な被害に遇われた方には申し訳なく思うが、個人的にわたしは雨と雷が好きである。
唐突な話だが、梅雨から連想する唯一の場所は、土手の伊勢屋である。明治期に創業した浅草大門前のてんぷら屋は、お家騒動の余波で、いまは昼だけの営業になっている。おもしろいことに、わたしが伊勢屋を訪問する時は、例外なく梅雨時なのである。そのことに気が付いたのは、おでんの呑喜(@東大農学部前)が閉店した2015年に、かみさんと伊勢屋を訪問して、天丼の(ハ)を食べたときである。
家に帰ってから、手帳で過去の訪問データを調べてみた。伊勢屋で天丼と食べた日は、すべて6月上旬から7月下旬までで、一度も例外がない。さらに、その後(2015年~)に土手の伊勢屋に行ったのも、すべて梅雨時である。つい最近も、6月の最終週に入ってから、急に伊勢屋の天丼が食べたくなった。
大胆に推測してしまう。わたしの生理的な現象で、しとしと降る雨と高い湿度が天丼を食べたくさせているのではなかろうか? わが食欲と天丼の関係を、科学的に解明できないものだろうか。その傍証として、てんやの売り上げが梅雨時に最大になるとか(*てんやのHPで月次売上を調べたが、仮説は見事に却下!)。伊勢屋のてんぷらは、良質なごま油と海鮮のネタ(あなご、きす、えび、いかなど)を使っている。これらの江戸前の魚介類は、梅雨時が旬なのではないだろうか。
そういえば、冷やし中華を食べたくなるのは、梅雨が到来する直前である。普段あまり行かないセブン-イレブンで、梅雨前になると、ミニ冷やし中華を買ってしまう。食いしん坊のわが体が、旬の食材を求めているのではないだろうか。江戸庶民の舌の遺伝子が、いまのわたしに残されているのだろうか?
<追記>
本ブログに登場する「土手の伊勢屋」の記事を検索してみた。2014年から2019まで、浅草大門前の天丼が登場したのは4回。いつも記事書いているわけではないが、例外が一回もないという記述は、当たっていた!
2019年7月1日、2017年5月29日、2016年5月30日、2014年6月28日。17年と16年は5月最終週だが、5月末から7月上旬まで2か月間に必ず入っている。