早朝に、義嫁の梓さんから、家族LINEにメッセージが入った。朝起き出して来た孫の夏穂が、頭が痛いらしい。熱はないとのこと。かみさんは、午前中に墓参りをしてから、葛西の美容院に行くことになっている。わたしが急遽、病人の夏穂を預かることになった。
わたしも午後2時までには、家を出なければならない。八丁堀の「かわすみ歯科医院」で歯の治療がある。割れて亀裂が入っている右下の奥歯に、頑固なウイルスが忍び込んでいるらしい。痛みは感じないのだが、膨れた歯ぐきから膿のようなものが出ている。抗生物質で抑え込んではいるが、定期的な治療が必要なのだ。
これで3週連続で、八丁堀の歯科医院に通うことになる。夕方からは、アフターゼミ(大学院卒業生のために毎月実施しているセミナー@神田小川町のオフィス)を開催することになっている。本日のプレゼンターは、サントリーの松尾英理子さんだ。プレゼンの他に、ワインの試飲会も行う予定だ。1本5000円のワインを4本持参するそうだ。
ところで、急遽学校を休むことになった夏穂は、小上がりの座卓に座って勉強している。パジャマ姿のまま、学研のチャレランの「9×9」を復習している。配布されているタブレット端末の学習プログラムは、感心するくらいよくできている。快調なテンポの音楽に乗って、「いんいちが1、いんにが2、、、」と夏穂が発音していく。
答えが正しいと、「ピンポーン」か「正解!」と端末が応えてくれる。答えがまちがっていると、タブレットは沈黙する。「ぶぶー」ではない。何も言わないのだ。夏穂が抱えているタブレットの画面がわたしの寝室兼書斎からは覗けない。わたしの部屋からは、タブレットの声(音?)が聞こえないだけなのかもしれない。
午前10時を少し回った。30分ほどタブレットで学習していた夏穂に、「そろそろ休憩にする?」と呼び掛けてみた。わたしの「飲み物はいつものココアにする?」の問い掛けに、夏穂は「うん」と即答した。ココアを提案したのは、かみさんと穂高(兄)と一緒に休憩する時は、いつも夏穂が温かいココアを飲むことを知っているからだ。
ところが、わたしはココアの袋がどこに置いてあるか知らない。1階リビングのキッチンの後ろの戸棚のどこかにココアはあるはずだ。わたしは、孫たちと居間で遊ぶことがあまりない。だから、ココアがある場所が皆目見当がつかなのだ。
踏み台を運んできた夏穂には、”勝手知ったる”一階のリビング・ダイニングである。正確に言えば、夏穂が踏み台にしているのは、ひじ掛けがついていない丸椅子である。踏み台によじ登って、キッチンの後方にある真ん中の戸棚の2段目から、白いバスケットを取り出した。
プラスティックのバスケットの中には、確かにあるある。夏穂が探してきたココアの袋には、少量の粉末が残っていた。
T-falのポットでお湯を沸かす。ブラウンシュガーをミルクココア(森永)の粉末に混ぜる。夏穂と相談して、もっと甘みを強くするためだ。わたしと夏穂のために、ココア用のカップは2杯分を用意する。ココアミックスにお湯を注いで、牛乳を混ぜる。
夏穂の大好きなミルクココアが完成した。と思ったが、それで終わりではなかった。「ココアにクリームを入れていい?」と夏穂。冷蔵庫の最上段から、ホイップクリームを取り出してきた。わたしが”2日目の”コーヒーに投入しているのを見ているからだろう。最後の最後に、贅沢なホイップクリーム入りの甘いミルクココアが出来上がった。
テーブルに腰掛けて、ふたりでフーフーしてココアを飲んだ。そして、ミルクココアを飲みながら、ガトーフエスタ・ハラダの「グーテドロア」を一緒に齧った。どこかからお土産でもらったものだが、最後に残った貴重な一枚だ。
ご存知のように、グーテドロアとは、表面にコンデンスミルクを塗布したラスクである。最後の一枚だったので、真ん中から割ってふたりで「半分こ」にした。夏穂にとっては初めてのホワイトチョコ塗りのラスクだった。
体調が万全ではないらしい夏穂は、それから布団に横になっている。いつもよりやや顔面が青白く見える。頭痛は去ったらしいが、油断は禁物だ。
そろそろ、かみさんが美容院から戻ってくる。わたしの仕事がそこで終わる。昼休みには、仕事の合間に梓さんも戻ってくる。4人でランチになるだろう。子供の頃、病気で休みになると、なんか特別な気持ちになったものだ。特別扱いだった。
冬に風邪を引くと、ミカンか桃の缶詰が出された。布団から起き出して、そっと食べた桃の缶詰の特別な甘い味が忘れらない。わたしにとって、桃の缶詰は家族からの愛情を確かめるための特別な食べ物だった。
桃の缶詰のように、夏穂はミルクココアのことを覚えてくれているだろうか?初めて孫のために作ったミルクココアのことだ。最初で、たぶん最後のミルクココアのことだ。
【ふたりの休日】孫娘の夏穂とわんすけの休養日
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