【柴又日誌】 #3:こちら亀有警察署から”両さん”が表敬訪問

 「ピーン、ポーン」。玄関のインターフォンが鳴った。朝の9時ごろ。一階リビングのパネル画面に、警察官らしき人物が映っている。「亀有警察署のものですが、引っ越しされたと伺いましたので、、、」。こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出署)の両さん(両津勘吉)に似た警官が、玄関下の道路わきに、自転車を抱えてのっそりと突っ立っている。

 

 連想ゲームで、思わず吹き出してしまいそうになった。「こち亀」の両さんのようにゲジゲジ眉ではないが、いかにも下町にいそうな優しい風体の制服姿の警察官。そうか!ここ高砂は葛飾区で、亀有警察署の管轄なのだ。

 ”両さん”がわたしに差し出したのは、「巡回連絡カード」だった。住所と同居人の性別・生年月日を記載するだけのカードである。我が家についてすでに調べはついているようだった。

 「二世帯住宅でしょうから、息子さんの分も置いていきます」と両さん。こちらから、「息子の引っ越しは12月なので、回収は一カ月先になりますよ」と伝えてみた。それでも、なんの問題はないらしい。巡回中に寄ってみたらしく、ほんわかした雰囲気の方だった。

 本名は、平山克之さん。調査票の担当者欄に、名前が書いてあった。亀有警察署の亀田橋駐在所のおまわりさんだ。ちなみに、”こち亀”のモデルになった「亀有公園前派出署」は、葛飾区には実在していない。

 

 たぶん近所から事前に情報を収集したのだろう。「お医者さんだと伺ってますが、、、」。「いや大学の教員ですよ」とわたしが法政大学の名刺を差し出すと、照れ笑いをしながら恐縮していた。土地を取得した時と、住宅に着工しはじめたとき、そして引っ越しが終わったあとの3回、近所にあいさつ回りをしていた。

 そのときのことだろう。名刺を渡して歩いた際に、大学教授が医者に化けてしまったと思われる。世間的には、教授も医師も似たような職業なのだろう。立ち話で、平山巡査からとても良い話を聞いた。

 「このあたりは、葛飾区でも110番のコールが少ない場所なんです」。つまり犯罪とか空き巣とかが、ほとんどない地区だということなのだ。ちょっと安心したので、家族lineにそのことをアップした。白井に住んでいたときは、日本橋までの毎日の通勤時間が長かった。ふたりとも、真っ暗闇の中を帰宅していた。

 かみさんは、ひったくりにあったこともあり、怖がってタクシーで帰ることが多かった。その心配はもうない。親切な”こち亀”も、葛飾区高砂地区では頼りになりそうだ。

 「古くからのかたが住んでらっしゃいますから、町内会もしっかりしてます。早々に入られたらいかがでしょうか」と平山さんは町内会の勧誘もしてくれた。ありがたいことだが、相互監視が行き届いているのだろう。

 

 ここ葛飾区に移住してきて、とても驚いたことがあった。それは、ごみの分別が緩いことだった。千葉県は、可燃ごみ以外に、ビン・缶、プラゴミ、燃えないゴミなどなど。分別のカテゴリーがかなり細かかった。さらに、ごみの種類によって、出す日がちがっていた。わたしなどいちいち覚えるのが大変だった。

 ところが、東京都は分別のカテゴリーがほとんどなきに等しい(本当はあるらしいのだが、実際のルールはそうなっていないらいし)。ごみに関しては楽勝なのだ。「東京都には強力な火力の焼却炉があるので、何でも燃やせるのです」と誰からから聞いた記憶がある。森下の住んでいたときだった。

 そんなわけで、わたしの部屋には、いまやゴミ箱は一種しかない。千葉の自宅では、わたしの部屋だけで3種類のゴミ箱があった。たとえば、缶についていてば、アルミ缶とスチール缶は分けていない。

 

 「ごみの分別の種類が少ない分、当日のゴミ出しが多くなる。だから、カラスなどの被害にあわないのでは?」。かみさんのお見立てである。きっとそうなのだろう。細かな分別になると、週一回とか、ゴミ出しのチャンスが少なくなる。ルール違反になるが、前の日にごみを出しておきたくなる。そこをカラスにねらわれる。

 住む場所がちがうと、かくも住み方のルールがちがうものだ。いまさらながら、結果として、わりに安全な場所に移住してきたことに感謝である。

 なお、ここ高砂8丁目は、葛飾区の中ではここだけが「不思議な小さなトライアングル」(=液状化になりにくい場所)になっているらしい。幸いにも、神様に守られている場所に移住してきたのだ。