【特別寄稿】「withコロナ/ postコロナ時代のビジネスモデル(後編):POSTコロナを生き抜く企業群」 『想像の架け橋』(四国生産性本部・機関誌)2021年5月号

 前編では、DX対応で業績を伸ばしている日本マクドナルドと、業界の常識を覆している花産業の2社(日比谷花壇とクランチスタイル)のビジネスモデルを解説した。後編では、コロナ禍でも勢いのある3つのタイプの企業を紹介する。外食の「物語コーポレーション」、ワイナリー事業の「ココ・ファーム」、DXの成功をテコに業績を伸ばしている「スシロー」である。

 

「withコロナ/ postコロナ時代のビジネスモデル(後編):POSTコロナを生き抜く企業群」

『想像の架け橋』(四国生産性本部・機関誌)2021年5月号

 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)

  

 <リード文>

 本稿の前編では、コロナ禍の環境変化を整理して、DX(デジタル・トランスフォーメーション)で対応した典型例として、日本マクドナルドのケースを紹介した。また、従来の業界常識を覆す形で、事業領域を業務用から日常使用に変えていった花産業の2社(日比谷花壇とクランチスタイル)のビジネスモデルの革新性を解説した。後編では、コロナ禍でも勢いのある3つのタイプの企業を紹介する。ダイバーシティ経営をめざす外食の「物語コーポレーション」、障碍者施設からワイナリー事業を興した「ココ・ファーム」、そして、DXの成功をテコに大きく業績を伸ばしている回転すしチェーンの「スシロー」である。

 

 

2 ビジネスモデルの転換(前編から続く)

(2)ダイバーシティ経営企業:「物語コーポレーション」(*1)

 <コロナ禍での雇用情勢の変化>

 新型コロナウイルスの感染拡大で、社員やパート従業員の働き方が大きく変わってしまった。この間、大手メーカーやIT業界では在宅勤務が浸透しているが、店舗施設を持つ小売サービス業では、接客などの現場作業を完全には回避することができない。とはいえ、電子マネーの普及を促したり、セルフレジを積極的に導入するなど、非接触型のサービスシステムを採用する方向で業界は動いてきた。

 前編で取り上げた日本マクドナルドのように、イートインに加えてテイクアウトを充実させたり、ウーバーイーツを活用するなど、宅配業者と提携する道を選択している企業も少なくない。また、ECシフト(ネット販売)で苦境から脱しようとする企業も増えている。ところが、皮肉なことに、非接触型のサービスが浸透すればするほど、女子従業員や非正規雇用、外国人労働者がコロナ禍で職を失うことになる。ほんの一年前までは、人出不足を補うために期待されていたのが、「女性・非正規・外国人」のグループだったのである。

 しかし、世間一般の風潮に抗して、従業員の多様性を高めようとしている企業も存在している。例えば、外国人を積極的に雇用している代表的な企業としては、従業員のベトナム人比率が高いラーメンチェーンの「日高屋」を挙げることができる(組合員のうち約30%がベトナム人)。また、以下で取り上げる外食チェーンの「(株)物語コーポレーション」は、外国人労働者やマイノリティ(LGBT:Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)に門戸を開いて、彼らを積極的に雇用して戦略化することを社是としている。

 

 <ユニークな経営理念>

 「(株)物語コーポレーション」(本社:愛知県豊橋市)は、基幹ブランドの「焼肉きんぐ」などの主要4業態を、国内529店舗(FC221店)、海外11店舗(中国)で展開する外食チェーンである。特徴的なのは、ラーメン (客単価900円)、お好み焼き(同2,300円)、焼肉(3,000円)、寿司・しゃぶしゃぶ(3,000円)という複数のカテゴリーで、バランスよく業態を展開していることである(図表2)。同社の業態開発力は、外食企業の中では群を抜いて高い。また、既存業態を壊して創り変える「業態改善力」に強みを持っている。

 2020年6月期で、グループ売上高は約900億円(FC比率約40%)。コロナ禍で外食産業が軒並み苦戦している中で、「スシロー」と同様に、売上高は前年を大きくクリアしている。2020年度上半期(7月~12月)では、全店売上高が対前年度比で110.7%、既存店売上高は同101.1%である。

 同社の経営理念は「Smile&Sexy」である。上場企業としてはかなりユニークである。Smile&Sexyとは、「個を尊重しながら違いを認めること」で、「思ったら言うこと」「感じたら表現すること」「やるべきと思ったらやること」である(小林佳雄取締役特別顧問の小林語録から)。(*2) 会議や社内メールでも、自分の意見を明言することが強く奨励されている。

 互いの違いを認めながらも、社員全員が自分の考えを積極的に他者に伝えようとすることで、自由闊達な社風が形成されている。結果として、人財の多様性(ダイバーシティー)を高めようとする組織文化が定着している。そうした組織の風土の中では、多様な意見や異質な発想が排除されない。ユニークな業態や新しい商品が誕生してくる素地ができあがっている。例えば、昨年35歳になったばかりの加藤央之氏が、2020年9月の株主総会で経営トップに抜擢されたことからもそれがわかる。

 コロナ前の外食チェーンの強さは、単一の業態を素早く多店舗展開することだった。しかし、コロナ後の経営環境下では、物語コーポレーションのような組織運営が理想形になるだろう。なぜなら、柔軟で自由闊達な発想こそが、会社組織の中に女性(25.9%)、外国人(10%)、キャリア採用者(46.3%)など多様な人材を抱えることで生まれてくるからである。多業態で多ブランド展開がこの先は有利になるはずである。そのためにも、開発部隊や店舗運営に異質で多様な人材を抱えることが必要とされる。

 

 <<図表2 現在の店舗展開(郊外型レストラン529店舗の内訳)>>

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部門  業界順位  ブランド

店舗数 総店舗数 (直営店舗) (FC)

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焼肉 2位 焼肉きんぐ、焼肉一番カルビ、焼肉一番かるび、熟成焼肉肉源

 252 153 99

ラーメン 5位 丸源ラーメン、二代目丸源、熟成醤油ラーメンきゃべとん

 163 72 91

お好み焼き 4位 お好み焼本舗

 31  16  15

寿司・しゃぶしゃぶ 4位 寿司・しゃぶしゃぶゆず庵

 78  62  16

専門店 ― 魚貝三昧げん屋、しゃぶとかに源氏総本店、牛たん大好き焼肉はっぴぃ

5 5 0

海外店 ― 北海道蟹の岡田屋総本店、薪火焼肉源の屋総本店、焼肉王

11 ― ―

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出典:投資家向け会社案内(2020年6月)

  

(3)地域社会から応援してもらえる企業:「ココ・ファーム・ワイナリー」

 <社会的に意義のある事業への支援>

 コロナ禍でも健全にビジネスが運営されている3番目のカテゴリーが存在している。去年の今頃、コロナ禍で行き場を失った農産物の販売先を確保するため、生産者を支援するネットワークが忽然と立ち上がった。地域を超えて全国的に「共助」の場を、仮想空間上に設定する動きであった。

 一方で、事業理念に共感した地域の人たちが、自分たちのコミュニティ内で社会的に意義のある活動を行っている組織を支える事例が増えている。代表的な事例が、栃木県足利市の「㈲ココ・ファーム・ワイナリー」である。ワインの産地と聞くと、長野や山梨を連想するだろう。しかし、同社は、ブドウの産地としては異例の栃木県で、1958年にブドウの栽培を始め、1984年からはワインの醸造をスタートさせている。

 筆者が足利のワイナリーの存在を知ったのは、栃木県に住んでいる親しい友人から、「風のエチュード」(白ワイン、2980円)というワインをお歳暮に贈ってもらったことがきっかけだった。高品質でリーズナブルな価格のワインは、洞爺湖サミット(2013年)やメイ英首相歓迎夕食会(2017年)など、外国の要人を招いて開かれる晩餐会で振る舞われ定番ワインである。

 わたしが受け取ったワインの箱に封入されていた説明書には、ココ・ファームの母体である障碍者施設「こころみ学園」の成り立ちとワイナリーを作るに至った経緯が記されていた。パンフレットを読んで、わが友人は、地元の障碍者施設が運営するワイナリーを支えるため、ギフトとして購入しているにちがいないと思ったものである。

   

 <<図表2 ココ・ワイナリー年表 >>

 

 <自立のため、ピンチをチャンスに>

 はじまりは、1958年だった。特殊学級の中学生たちとその担任教師(故川田昇氏)が、急傾斜地でブドウ畑を開墾することになる。ブドウ畑で働く農夫は、自分の名前さえ書けない子供たちとその教師たちだった。どんなに辛くても、一年中空の下でブドウの栽培に取り組んでいることが、彼らの誇りだった。1980年に、障害者支援施設の園生(利用者)の自立をめざして、父母たちの出資によって設立されたのが「ココ・ファーム・ワイナリー」である。地域のコミュニティが、物心両面から醸造所の運営とワインの販売に協力することになる。ココ・ファームのブランド力とは、社会から応援してもらう力であった。

 ところが、ピンチは突然訪れる。滑り出しは順調だったが、1989年にブドウ畑が大雨に見舞われる。自社農園での収穫が絶望的になったが、ワインの予約が5万本ほど入っている。そこで、ぶどうを輸入して醸造することを思いつくことになる。困難な状況の中で方々とコンタクトとるも、唯一ブドウの購入に応じてくれたのが、カルフォルニア州ソノマの農業主フレッド・クライン氏だった。サンフランシスコ大地震の年である。

 この出会いが、ココ・ファーム・ワイナリーの品質を確かなものにした。同年、カリフォルニア・ソノマに5ヘクタールの葡萄畑が確保できて、フレッド氏の弟マット氏が技術指導のために来日することなった。マット氏の紹介で、ガットラヴ氏がコンサルタントとして来日、1991年には正規スタッフになり、20年間近くココ・ファームのワイン醸造に携わることなった。

 そこまでの成功物語は、図表3に示された通りである。ローカル・コミュニティの人々が、障碍者施設と園生が働くブドウ畑とワイナリーから生産されたワイン販売を支えていく。地域の支援に支えられた良きビジネスが、ナショナルブランドの構築に成功してきたのも、地域社会の人々の共感を呼び、それが事業構築のコアバリューになっていった。

 

(4)DXに果敢に挑戦している企業:「スシロー」

 前編では、日本マクドナルドのことを、「隠れたDX優良企業」であると述べた。同様に、コロナ禍で注目されているのが、回転すしチェーンの「スシロー」である。スシローを運営する「(株)FOOD and LIFE COMPANIES」(4月に「スシローホールディングズ」から社名変更)は、コロナ禍で一時期は苦戦していた。しかし、2020年12月以降は業績が持ち直して、全店売上高が前年同月を上回るようになった。(*3) 第2節で取り上げた「物語コーポレーション」とよく似た業績の推移を示している。

 『日本経済新聞』(2021年3月30日)の解説によると、売上高の回復を下支えしているのが、「デジタル技術を活用した接客の自動化」である。より具体的には、「受付や精算業務のかかる人手を片付けなどに回し、客席の回転率を高めたこと」が業務効率を高めた要因とされている。

 個人的な話になるが、筆者の場合も、近所に義母(80歳代後半)が一人住まいをしている。コロナで老人は外出がしにくいので、お寿司が好物の彼女のために、わたしたち家族はスシローのテイクアウトサービスを頻繁に利用している。休日のランチタイムがほとんどであるが、誰かがスマホで事前に予約しておく。注文しておいた商品を、昼ごろに車でピックアップに出かける。時間指定のテイクアウトなので、混雑を気にしてウエイティングエリアで十数分間も待つ必要がない。

 

 <コロナ禍でのオペレーションの変化>

 本稿の前編で、「コロナ禍での環境変化と消費者行動の変化」をリストアップした(図表1)。その中で、環境変化と企業の変化対応を類型化している。スシローのケースに当てはめてみると、⑥事前注文でスマホ決済されるので、①店での人的接触は最低限に抑えられる。家族が商品を引き取りに行くので、③店舗側に物流費がチャージされないメリットがある。

 スシローの店舗の入り口には、セルフレジが標準装備されている。店舗で注文をする場合でも、決済には電子マネーやクレジットカードを利用するのがふつうである。個人的にも、スシローでは現金で支払った記憶がない。近年は、フロアやレジ周りで働いている従業員の姿を見かけることがなくなった。受け付けの順番待ちも自動化が進んでいる。

 フロアへの案内(順番待ち)や自動精算機も無人になりつつある。人間が皿の枚数をカウントしていたが、いまやAIが自動的に人間の仕事を代替している。店舗の回転率を高まり、業務効率が改善しているのは、背後でデジタル技術が応用されているからである。店舗オペレーションが効率化され、商品の受注管理がマーケティングと連動する仕組みに変わりつつある。2019年ごろから着手してきた、業務のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が、コロナ禍で本格化して経営効率を高めることに貢献している。

 

 <焼き肉きんぐのタブレット端末>

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)に対する同様な対応は、物語コーポレーションの店舗運営にも見ることができる。同社もまた、マクドナルドやスシロー同様に、DX優良企業である。

 同社の「焼き肉きんぐ」の店舗では、食べ放題のコースが基本である。来店予約は、基本的にスマホ経由である。スシロー同様に、混雑度を事前にチェックすることができる。入店後は定額制でグレードが異なる3種類のコース(2680円、2980円、3980円)のどれかを選択する。食べ放題の2時間制で、着席したらテーブルに置いてあるタブレット端末から商品を順番にオーダーしていくだけである。

 定額制のメリットは、注文を取る店員の作業が不要になることである。オーダーを取る際の注文ミスは起こりようがない。その上で、コロナ禍で懸念される従業員と客との人的接触は最小限で済むことになる。スシローではその時間を片付けなどに充てていたが、焼き肉きんぐでは、従業員が焼き方の説明などコミュニケーションに時間をかける。

 

  

3 まとめ:3つの優良会社の業績変化

 最後に、事例を整理して本稿を終えることにしたい。前編と後編を通して、コロナ下で起こった環境変化に上手に対応してきた6社の事例を取り上げてきた。そのうちの3社は、新型コロナウイルスの感染拡大で苦しんでいる外食産業に属している。

 3社(マクドナルド、FLC、物語コーポレーション)は、いずれも従来から業績好調の企業ではあった。しかし、スシロー(FLC)と焼き肉きんぐ(物語コーポレーション)は、2回に渡る非常事態宣言下で、一時期は売上高が前年を大きく割り込んでいた。

 図表3に、大手外食チェーンの直近の業績を示しておく。2021年1月の全店及び既存店の対前年比の売上データである(『日経MJ』2021年3月31日号から抜粋)。3社が属しているのは、ファストフード、すし、焼き肉の3つの業態である。同業他社と比較して、3社の業績が際立って良いことが確認できる。

 3社に共通しているのは、コロナ以前から店舗作業の効率やデジタルマーケティングに注力してきたことである。もちろん、経営理念の徹底や働き方改革があるものの、改革の中心にはDXへの先駆的な取り組みがあるように思う。

 

 <<図表3 大手外食チェーンの直近の業績 >>

 

<注>

*1  本節の記述については、小川孔輔(2021)「物語コーポレーション(上)(中)(下)」『食品商業』(1月号~3月号)を参照のこと。

*2  小林佳雄語録は、「Smile&Sexyで日本に革命を起こそう!」から。小林佳雄(1999)「Smile&Sexy:発信するということ」『The Monogatari』(1999年6月1日)。

*3  「スシロー、緊急事態宣言でも増収」『日本経済新聞』(2021年3月30日号)。