「(続)インファーム:都市型室内農場の国内事業に手応えあり」『食品商業』2012年4月号(連載27回:「農と食のイノベーション」)

 インファーム(日本法人)の「スマート栽培ユニット」が、2月8日にサミットストア五反野店に設置された。連載では、(上)と(下)の二回で、すでに本社ドイツと日本事業の説明を終えている。今回は、開店後、筆者が実際にサミットの五反野店を視察した記録を紹介する。

 

「(続)インファーム:都市型室内農場の国内事業に手応えあり」     V2:202103010

『食品商業』2012年4月号(連載27回:「農と食のイノベーション」)

 

 <リード文>

 スーパー紀ノ国屋2店舗に続いて、年明けに「インファーム」(Infarm – Indoor Urban Farming Japan 株式会社)の野菜売り場が、サミットストア五反野店にオープンしました。事業発表会から約1年、新型コロナウイルスの影響で、事業のスタートが遅れましたが、ビジネスは順調な滑り出しを見せています。このビジネスは大きく伸びる可能性を感じさせます。InStore Farm(スマート栽培ユニット)設置から二週間後の2月8日、サミットストア五反野店の野菜売り場を現地調査してきました。今回の続編は、その観察記録になります。

 

 <インファーム・ジャパンの事業構造>

 事業の仕組みを簡単に説明します。インファームは、ドイツのベルリンに本拠地を置く「都市型室内農場」(Indoor Urban Farming)を運営する会社です。欧州の大都市を中心に、スーパーやレストランに、スマート栽培ユニットを設置して、ハーブやレタスなどの葉物野菜を販売している会社です。詳しくは、本連載の第22回をご覧ください。 

 世界各地の植物工場のほとんどは、農業地帯の田舎立地です。インファームの特徴は、地価の高い都市部の店舗にスマート栽培ユニットを設置して、

 店内で栽培した野菜を消費者が購買できる点です。大都市で野菜を栽培して販売するので、輸送コストがほとんどかかりません。

日本法人の代表者は、法政大学大学院の同僚、平石郁生講師(ドリームビジョン社長)です。野菜の苗生産と本格展開時の物流を担うのは、提携先の「株式会社ムロオ」(山下俊一郎社長)です。ムロオは、冷蔵帯の加工食品や生鮮品の輸送で関西ナンバーワンの物流企業です。

 

 <売り場に立って観察を始める>

サミットストア五反野店では、スマート栽培ユニット設置から2週間ちょっと経過していました。店舗到着は14時半ごろでした。都市部のスーパーでこの時間帯は、客数が一日の平均になります。店頭観察には最適な時間帯です。

 店の正面入口から入って真っ直ぐが、野菜売り場でした。正面には生育途中の野菜のスマート栽培ユニットが設置されていました。お客さんから目につきやすい場所です。

 

  <<この付近に、野菜栽培ユニット@サミットストアの写真を挿入>>

 

 正面入口から入って左側は、縦一列に20台ほどのレジが並んでいます。五反野店は左回りにワンウエイコントロールがなされています。右奥が野菜売り場で、野菜売り場とレジの真ん中に、栽培ユニットが配置されています。来店客の視線は、必ずそこに向かいます。このレイアウトからは、インファームに対するサミットストア側の期待のほどがわかります。

 観察を始めてすぐに、野菜を補充している店員さんに声をかけてみました。店員さんに警戒されないためです。こちらから先に質問してしまうのが、フィールド調査の鉄則です。

 「このコーナーを運営している経営者の友人なのですが、栽培ユニットの中の植物は販売していないのですか?」と質問をしてみました。店員さんの答えは、「週に2回、マネキンさんが来て、14時から夕方まで収穫しています」でした。前を見ると販売用の什器(黒のコンテナ、各6穴)に、「火曜と金曜の14時から収穫します」とあります。

 もう一人の店員さんに別の質問をしてみましたが、インファームのことはよくわかっていない様子でした。店員さんが、什器と野菜に興味を示さなかったことに驚きました。どうやら「委託販売」(欧州でもスーパーとは同じ契約方式を採用)なので、パート従業員さんは、インファームの栽培システムと販売の仕組みがよくわかっていないようです。

 さて、14時半少し前から、常温の野菜コーナーから観察を開始しました。売り場の反対側の棚(右奥の通路沿い)では、冷蔵ケースでレタスなどの普通の野菜が売られています。スマート栽培ユニットの中とその前の什器(黒色のコンテナ)で陳列されている商品は、パクチー、イタリアンバジル、クリスタルレタスの3種類です。売価は198円で、値段もお手頃です。

 

 <売り場の観察記録>

 以降は、約30分間、売り場を観察したメモです(14時28分に観察スタート)。

① 14時30分、60代のご夫婦がイタリアンバジルを購入。奥さんの方が、「育てる、根がついてるから」と旦那さんに話しています。リピーターと見えて迷わず購入。

② 14時33分、30代男性がイタリアンバジルを購入。サラリーマン風で、購入前に少しだけ逡巡。

③ 14時42分、50代の女性がパクチーを購入。その直後(14時45分)、夫婦2組がじっとバジルを手に取ってじっと見るも、購入せず(典型的なパターン)。

④ 14時56分、30代女性がパクチーとバジルを2個購入(396円)。かなり迷って商品を出したり戻したり触っている。その間は30秒ほど。

⑤ 14時58分、20代男性が、イタリアンバジルを購入。インテリ風で料理男子に見える。パスタに入れるのだろうか?慎重に商品を吟味して購入。

  

 <小川の所見>

 観察時間内(30分間)では、5人(5組、6個)が野菜を購入していた。購入客は、年寄り夫婦づれと若者が多い。30歳代から40歳代前半の若い主婦(OL)がちらほら。

① 一時間当たりの販売額は約2,400円(端数切捨て)になる。売れ筋は予想通り、イタリアンバジル、パクチーの順。クリスタルレタスは、隣にある常温の大玉レタスが118円だからあまり売れない。10時間営業では、一日の売上推定額は2万4千円。12時間営業だと3万円弱と推定できる。

② 知り合いのバイヤーに、調査後に販売金額について聞き取りを行う。食品スーパーの基準値では、日販2~3万円は良くもなく悪くもないレベルとのこと。事業の立ち上がりとしては悪い数値ではない(コンビニの冷凍ケースは、日販で5千円程度)。

③ 販売什器の前を通る人の半分は、ちらりと野菜を見る。立ち止まった人の約80%は、そのまま買わずに離れる。通りかがかりの男性二人が、バジルを見て「萎びているな」と一言、買わずに通り過ぎる。確かに、トレイの底の水が切れている。要注意のこと。

 

 以下は陳列に関するコメントになります。

 スマート栽培ユニットの中は、片側4段ずつで、計8段の棚段。バジルとパクチーが半分ずつを占めている。トレイごとに生育段階が違っていて、植物が育つ様子が観察できる。生きている野菜が目の前にあるから、鮮度が伝わりやすい。

④ スマート栽培ユニットの前面に専用販売什器(常温コンテナ)が置いてある。最大陳列量は、レタス11ケース×6個=66個、イタリアンバジル6ケース×6個=36個、パクチー3ケース×6個=18個。

⑤ 手には取っても、陳列用の販売什器に戻す客が約半分。売り逃しを防ぐためには、商品を説明するポップが欲しい。上手なマネキンさんがつけばもっと売れるはず。

 

 <観察後の所見>

 総じて、来店客の反応は悪くないように感じました。したがって、もっと野菜の鮮度や香りをアピールしてみたくなります。以下は、売り場の改善提案です。3点を指摘しています。

① 店頭のプロモーションがないので、どんな食べ方をしたらいいのかわからない。たとえば、シズル感のある料理(パスタとかフォー)とかの写真があればもっとよいだろう。

② 根付き植物なのだから、家庭のキッチンの様子を写真で見せるとかの工夫が欲しい。我が家では、水を入れたグラスに3種類ともに入れてみた。バジルとパクチーは香りがよいので、鮮度感がある。生きている植物なので、それだけでも十分にインテリアになる。

③ 販売している品目が不足している。和食向けの苗があれば売れそう。例えば、本ワサビ、シソ、小さめのダイコンやニンジンなど、エディブルフラワー各種など。

 

 現状では課題が山積していますが、表題にも書いたとおり、このビジネスは大きく伸びる可能性を感じさせます。わたしの親しい友人(平石代表)と元院生(山下社長)の共同事業ですので、大いに将来に期待したいと思います。