【特別寄稿】「withコロナ/ postコロナ時代のビジネスモデル(上):日本マクドナルド、史上最高益のなぜ?」『創造の架け橋』(四国生産性本部・機関誌)2021年3月号

 四国生産性本部から、機関誌『創造の架け橋』への寄稿を依頼された。昨年末のコロナ第3波が到来する前、四国高松で講演した内容がベースになっている。3月号(上)では、日本マクドナルドが好調な理由を説明している。5月号(下)では、コロナ禍で業績が良いその他の企業の「なぜ?」を取り上げる。

 

「withコロナ/ postコロナ時代のビジネスモデル(上):

 日本マクドナルド、史上最高益のなぜ?」(*1)

 

『創造の架け橋』(四国生産性本部・機関誌)2021年3月号

 文・小川孔輔(法政大学経営大学院教授)

 

1 コロナ禍での環境変化と企業の対応

 <マクドナルドに見るコロナ禍の変化対応>

 日本マクドナルドは、2020年12月期において、創業以来最高の営業利益(300億円強)が確実になった。同社は、2013年から2014年にかけて鶏肉偽装事件などの不祥事が重なり、2年連続の大幅な赤字に苦しんでいた。ところが、他の外食チェーンが業績悪化に苦しんでいるコロナ禍で、2016年から続いてきたV字回復からさらに業績を伸ばしている。その要因はどのへんにあるのだろうか?(*2)

 同社の直近の業績推移を見てみる。既存店売上高は前年比で7%増、とくに客単価が17%伸びているのが目立っている。客単価上昇の要因は、①テイクアウトと②宅配サービスの充実である。とくにドライブスルーが好調のようだ。また、自社宅配サービスだけでなく、ウーバーイーツなどの宅配業者を利用する顧客が増えている。

 マクドナルドは、不祥事による赤字転落を受けて、③店舗改装や④商品見直しに取り組んできた。それと同時に、サービスのロジスティックスを改善した点が、コロナ禍では有利に働いていると筆者は考えている。具体的には、⑤カウンターでの商品受け渡しを「スターバックス方式」(注文と商品の引き渡しを分離する)に変更したことである。

また、⑥「スマートフォンで事前に注文や決済を済ませ、店舗で商品を受け取れる仕組みは19年1月から導入を始め、9割以上の店舗で対応する。密になりやすい店内の行列を避けられ、機会損失も防いだとみられる」(『日本経済新聞』2020年2月5日)。なお、この5年間で、マクドナルドは首都圏や関西圏で、都市部の赤字店舗を大量に閉店してきた。幸運だったのは、⑦コロナで客足が落ちていない郊外に店舗を増やしてきたことである。

 米国のマクドナルド社は、同時期の営業利益が前期比で19%も減少している。コロナ以前から、チポトレなどの新興ハンバーガーチェーンが市場を席捲している中で、会社としての存続さえ危ぶまれている。対照的に、コロナの影響を強く受ける中で、“お荷物”と言われてきた日本の業績の堅調さが際立っている。

 

 <食品市場と消費者行動の変化>

 日本マクドナルドの好調は、新型コロナウイルスの感染によって起こった環境変化への対応によって説明がつくものである。

<図表1>は、コロナ禍での環境変化を整理したものである。外部環境と消費者行動の変化(5つの要因)について、<原因:環境変化>→<結果:消費者行動の変化>→<適応:企業や業界の対応)の順に、今起こっている事象を整理してみた。

 マクドナルドに関して言えば、<要因1>(社会的距離の遵守)は、⑤カウンターサービスの変更と⑥スマホ決済や事前予約で、<要因2>(外出自粛)には、⑦郊外型店舗の増加による対応で好業績の説明がつく。<要因3>(物流コスト増)には、①テイクアウトの採用と②宅配サービスで、イートインに加えて新しいサービスを強化してきた。

 2016年ごろから力を入れてきたSNSによるプロモーションが、<要因4>(プロモーションの変化)にちょうどマッチした形となっている。企業として幸いだったのは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に早くから取り組んでいたことである。コロナ禍でのビジネス環境の変化に対して、デジタル対応に素早く適応できたからである。

 

 <図表1> コロナ禍での環境変化と消費者行動変化(5つの要因) 

 

2 ビジネスモデルの転換

 ここまでは、マクドナルドのケースを取り上げ、ポストコロナの時代におけるビジネスモデルがどのような特徴を持つべきかについて述べてみた。以下では、コロナ禍で環境適応に成功している企業の事例を、ビジネスモデルの転換という観点から、4つのカテゴリーに分けて紹介してみる。

 ポストコロナ時代に上手に環境適応できている企業は、(1)業界の常識に挑戦する企業、(2)ダイバーシティー経営企業、(3)社会(ローカル・コミュニティー)から応援してもらえる企業、(4)DX(デジタル・トランスフォーメーション)に果敢に挑戦している企業である。ちなみに、日本マクドナルドは、一般的には必ずしもそのようには見られていないが、(4)DXへの取り組みを通してビジネスモデルの革新に成功した企業のひとつである。それでは、順番に解説を加えてみることにしよう。

 

(1) 業界の常識に挑戦する企業

 環境が大きく変化するとき、従来からある業界の常識が通用しなくなる。ポストコロナの時代においては、常識を覆して逆境を乗り越えていく「掟破りの企業」が生き残っていくだろう。ここでは、市場が飽和して成長余地はないと考えられていた花業界での二社のチャレンジを取り上げる。

 

 <切り花の家庭需要>

 筆者は20年前から、花産業の業界横断的な組織(日本フローラルマーケティング協会)の会長を務めている。伝統的に花き類(切り花と鉢物)に対する需要は、ウエディングや葬儀の装飾花、卒業式や入学式の贈り物、お祝い事などのギフトとパーティー需要が中心だった。最近までは、こうした業務需要が業界全体の売上高の約7割を占めていた。(*3)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、切り花の業務需要は壊滅的な打撃を受けた。とくに昨年3月と4月は、花店の売上が対前年比で半分ほどに落ち込んだ。結婚式や葬儀は小規模になり、場合によってはリモートで配信されることもあった。企業が主催する会合もオンラインになり、会場を装飾する花の需要は完璧に蒸発してしまった。

 その代わりに、花の行き先として注目を浴びるようになったのが、家庭需要である(海外では、「ホームユース」と呼ばれている)。<図表1>で示した<要因4>(在宅勤務)は、ビジネスマンや学生が自宅で滞在する時間を増やしている。一般人にとっても、<要因2>(外出自粛)は、花や植物(鉢花や苗物類)を自宅で楽しむ絶好の機会を与えている。

 業界団体の「花の国日本協議会」が実施したアンケート調査(2020年5月)によると、自宅で過ごす時間が増えたことにより、以前に比べて「自宅に花やグリーンを飾りたい気持ちになった」と回答する人が90%にも達するという結果が出ている。(*4)

 コロナ禍で新しく生まれた家庭需要に対応するため、切り花の「サブスクリプション事業」に挑戦している企業が2社存在している。花専門店チェーンの「(株)日比谷花壇」(宮嶋浩彰社長)と、5年前に創業した新興ベンチャー企業の「(株)クランチスタイル」(武井亮太社長)である。

 

 <日比谷花壇:店舗ピックアップ型サブスクリプション>(*5)

 日比谷花壇の定額購入サービスは、ブランド名が「ハナノヒ」。コロナ以前の2019年6月に、サービスはスタートしていた。通販型のサブスクリプションが多い中で、日比谷花壇の定額購入サービスは、店舗ピックアップ型である。定額プランは、申し込みから支払いまですべてアプリで完結できるように設計されている。ハナノヒのメンバーになると、実店舗へ花を取りに行き、リアル店でQRコードをスマホで読みこむ仕組みになっている。

 契約プランは、月額987円から6タイプ。例えば、月額1987円のプランは「イクハナプラン」、3987円には「サクハナプラン」と名付けられている。2021年1月現在、取扱店舗数は155店。交換回数実績は160万回となっている。ちなみに、会員数は30、519人で、課金者数は12,670人と増え続けている。

 ユーザー登録者の9割が女性である。働いている20~40代女性が中心顧客のため、平日夕方以降の来店が多いという。登録ユーザーの約33%が新規顧客である。初めて来店するユーザーが増加しているものの、後述する「Bloomee LIFE」と比べると、既存顧客の割合が大きい。したがって、ギフトなど既存の高単価サービスとのカニバリを心配する業界人も多い。

 リモートセミナーの会議で、ある一人の聴衆から、「客単価が低下して採算が悪くなるのでは」との質問を宮嶋社長は受けていた。「客数が増えて大幅に増えているから、クロスセル(関連購買)やアップセル(高単価への移行)で補えている」と宮嶋さんは回答していた。

 創業144年の老舗企業が、単価の安いホームユース市場に果敢に乗り出していく姿勢は感動的でさえある。コロナ禍がもたらした家庭需要の広がりに、業界リーダーとして花産業の未来を見据えて業態転換にチャレンジしている。

 

 <クランチスタイル:宅配型サブスクリプション>(*6)

 若きベンチャー起業家の武井亮太氏が、エンジェル投資家などから資金を調達してITサービスを始めたのは2015年である。1億円を調達してはじめた最初の事業がうまくいかず、ピボットして始めたのが、切り花の定額配送サービス「Bloomee LIFE」だった。

2017年に事業転換して花の定期宅配サービスをはじめたころ、「花のことをよく知らないIT出身者が、お客様に満足がいくサービスを提供できるはずがない」とコメントする業界人がほとんどだった。直接会って話を聞いたところ、花の定期便を運営しているのは32歳の若者だった。サービス開始から2年半で、会員数が1万5千人を突破していた(2019年3月時点)。

 サービスコンセプトは、「お花のある暮らしで、毎日にちょっとした感動を」。毎週あるいは隔週で、自宅のポストに封筒入りのお花が届く宅配型の定額サービスである。顧客層の実像を知って驚かされた。PCかスマホから定期宅配のサービスに申しこむ人の8割が、初めて花を購入する若い女性たちだった。花業界にとって画期的なのは、この層はいまや消えてしまったセグメントだったからだ。

 申し込む時に、花のボリューム(本数)と支払価格の違いで、3つのプランから選ぶことになる。送料250円は別途にかかる。①レギュラープラン(800円、4本以上)、②プレミアムプラン(1200円、5本以上)、③体験プラン(500円、3本以上)。全体の6割が③番目のプランを選んでいる。

 花屋さんから届くのは、少し大きめの封筒(縦35センチ×横18センチ)である。保水しているとはいえ、花を封入した封筒が郵便ポストに投函される。夏場の高温などを考えると、日常的にクレームに悩まされている花屋さんにはできないサービスだろう。常識にとらわれないからできたビジネスモデルだった。

 2020年4月現在、関東圏で25軒の花屋が「Bloomee LIFE」の「花のお届けシステム」に加盟している(全国で150軒、2020年3月末現在)。集客方法は、ネット広告ではなく、インスタグラムなどを使ったネット上の口コミを通してになる。「アンバサダー」と呼ばれるボランティアの女性たちが、新規顧客を獲得する役割を担っている。

 月間の顧客の純増は約5%で、単純計算では年60%の成長率になる。女性客が9割で、年齢割合、は20代12%、30代~40代70%、50代18%(2019年の実績値)。

 コロナ禍の2021年4月には、累積で5万人弱が加入している。オフィス向けのサービスのために、虎ノ門に実店舗も設けている。花を買わない若い女性の比率が高いことが、業界にとっては福音である。

 

 <前半(上)のまとめ>

 日比谷花壇とクランチスタイルとでは、社歴もビジネスモデルもちがっている。しかし、狙っているターゲットは近いものがある。事業に対する強みの活かし方や方法論は違っても、二人の企業家には共通の挑戦者魂を感じとることができる。常識にとらわれない革新が業界の構造を変えようとしている。

 なお、(下)では、(2)ダイバーシティー経営企業として、「物語コーポレーション」(本社:愛知県豊橋市)と(3)社会から応援してもらえる企業として、「ココファーム」(本社:群馬県足利市)を取り上げることにする。

 

<注>

*1 本稿は、2020年12月15日に開催された「第4回例会:事業開発研究会」(四国生産性本部)における筆者の講演を元に、とくに前半部分を加筆修正したものである。

*2 「マクドナルド、コロナ下で営業最高益 20年12月期」『日本経済新聞(オンライン版)』(2021年2月5日配信)

*3 JFMA編(2013)『お花屋さんの仕事 基本のき』誠文堂新光社

*4 「(一般社団法人)花の国日本協議会」のHP(https://hananokuni.jp/info)参照。

*5 本項の記述は、宮島浩彰氏(2021)「講演:DX戦略に基づいたアプリを活用したホームユース需要拡大について」『JFMAニュース』(1月号)を要約して、筆者の解釈を加えたものである。

*6 本項は、拙稿(2019)「花の定期便(Bloomee Life):花屋ではないからできたサービス?」『JFMAニュース』(4月20日号)に加筆して情報を新しくしてある。