【講演録】科研費「日本企業のアジア市場での事業展開とマーケティング実践の理論化」第7回内部セミナー

 科研費「日本企業のアジア市場での事業展開とマーケティング実践の理論化」第7回内部セミナーの講演録を掲載致します。今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構販路支援部参事 中島康明氏に「中小企業の海外展開の実態について~展示会出展及びフィージビリティ調査から~」と題してお話頂きました。また、同販路支援部海外販路開拓支援シニアアドバイザーの深田進氏にもコメントを頂戴しています。


科研費 アジア マーケティング移転研究 
2013年度セミナー 第7回

中小企業の海外展開の実態について
~展示会出展及びフィージビリティ調査から~

 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
 販路支援部 参事
中島 康明 氏 
販路支援部 シニアアドバイザー
深田 進 氏
日時:2014年1月17日18時30分~21時00分
於:法政大学経営大学院IM研究科303号室

講 演 要 旨

講師紹介
中 島 康 明 氏 
独立行政法人 中小企業基盤整備機構販路支援部参事(中小企業診断士)。展示会・トレードショー総括。

深 田 進 氏(コメント)
販路支援部海外販路開拓支援シニアアドバイザー。大手電機メーカー時代の豊富な海外駐在経験をもとに、海外進出企業のコンサルティングを担当。

1.概要
(1) 中小企業基盤整備機構
(中島氏)中小企業基盤整備機構は、経産省所管の機関です。中小企業の創業・起業から、IPO、経営革新、事業承継に至るまで、企業のライフサイクルに応じた一貫経営支援(ハンズオン)を展開しています。

まず私自身についてお話ししますと、中小企業診断士の資格を持ち、5年前までは不良債権処理を手がけていました。語学は得意ではありませんでしたが、国内の販路開拓の経験があるということで、海外展開支援の担当になりました。

深田さんは、海外駐在経験が長い方です。大手電機メーカーのご出身で、月に15日くらい機構に出勤していただいています。特に、タイやインドネシアへの進出について、専門的立場から販路開拓のアドバイスをされています。

中小機構の海外展開支援策について、特徴をご紹介しておきます。海外展開というと、JETEOが行っていることが多いので、なぜ中小機構が関わっているのか、疑問を抱かれるかもしれません。当機構では、JETROと連携して、中小企業の支援を行っています。中小機構は、中小企業の立ち上げから継承まで、企業のライフサイクル全体を扱うところに特徴があります。それで、海外でも、中小企業の販路開拓や投資、ネットワークづくりなどを、段階に応じてサポートしていこうということで、JETROと一緒に取り組んでいるわけです。
国内での情報収集、市場調査から、海外での市場開拓、クロージング、投資、現地販路、拠点設立まで、さまざまな段階のサポートをしています。実務では、海外でのビジネス経験をお持ちの方々にアドバイザーとして機構に登録していただき、各企業に助言を行ってもらっています。

(2) 中小企業の海外展開事例
配布冊子(50頁参照)は、昨年度(2012年度)に作成しました。ですから、事例としては1昨年(2011年)頃のものになります。
最初の事例は、沖縄の琉神マブヤーの企画開発を手がけているマブイストーンという会社です。少し前に、インドで日本の大手広告代理店が『巨人の星』をリメイクして、野球をクリケットに置き換えてリリースした話を、皆さんご記憶かもしれません。それと少し似ていますが、この会社は、琉神マブヤーというキャラクターのマレーシア版として、『琉神ジュワラー』というテレビシリーズを作り、1月から週1回、現地で放映されます。ジュワラーは、「勇者」という意味で、マレーシアではヒーローとして有名なようです。琉神マブヤーは沖縄の空港でもグッズが売られています。従業員9人という小さな会社ですが、香港の展示会に出たところ、ASEANでいけるのではないかという話になったことが、きっかけでした。インドネシアにも進出するということで、暗中模索しながら、皆で進めています。

もう一つの事例は、ベトナムのホーチミンシティーの日本式屋台横丁「Tokyo Town」です。商社との契約が成立したりすると、中小企業は「よかった、これで海外の日系百貨店に商品が並ぶかも」と思ってしまう場合がありますが、それはぬか喜びに過ぎません。日系の商社が商品を抱え込むだけで、百貨店の棚の規模が変わらない限りマーケットは広がるとは言えません。やはり、ローカルを狙っていかなければいけません。Tokyo Townのターゲットはローカル客で、価格もベトナムの日本人向け日系レストランより3割くらい安い設定になっています。進出先の宗教、文化を踏まえて出て行くとなると、この事例のように、現地の事情に通じた人が必要になります。ローカルの中小企業とタイアップして、ベトナムと日本の双方の活性化につながる企画を始めていらっしゃいます。

(酒井教授)タイアップするとき、相手側の組織は、どんなところに組むメリットを感じているわけですか?

(中島氏)組む相手は、香港なら香港貿易発展局、マレーシアなら中小企業振興公社などの機関です。中小企業振興は、どこの国でも大きな課題です。ですから、各国の機関では、先進・成功モデルとして、日本の中小企業を知りたいというニーズがあるのではないでしょうか。

(並木教授)ベトナムの日本屋台村へ出店している企業は、日本ですでに実績のあるところですか?

(中島氏)飲食店を経営している人と、マネジメント系の人が、タイアップして運営しています。出店しているのは、日本で大きな実績がある店ではありません。小さな企業の海外進出をコーディネートする人がいて、Tokyo Townのような形になったというところです。
Tokyo Townは、日系企業のマーケットリサーチの場所としても活用されています。日本から新しいものが来れば話題になりますから、メリットがあります。自力でローカルに入り込むのはたいへんですので、中小企業はこのようなところと組むわけです。最終的には、現地での多店舗展開が目的です。1つのチェーンで、6~7店舗出すという感じです。
これから先、海外展開の具体的なサポート内容については、深田さんの方からお話しいただきます。

2.中小企業の海外展開の実態について-国際展示会出展の現場から
(深田氏)私は、ずっと大手電機メーカーにいて、30年間以上海外関係の業務に携わり、17年間は、海外に滞在していました。現在は、中小機構で販路開拓支援部のシニアアドバイザーを務めています。
 私の今日の話のシナリオとしては、まず、海外展開とは何か、そのポイント、中小製造業の実態についてご説明した後、展示会に出展することのメリットや動機と、タイやインドネシアでの展示会の様子、出展サポート事業という順に、お話しさせていただきます。最後に、先月のインドネシア、先々月のタイでの展示会の写真をお見せしながら、進出企業の事例をご紹介したいと思います。
 前提として、私の話は、製造業およびB to Bのビジネスに関するものであることをご理解ください。

(1) 海外展開とは
中小企業の方々からご相談をお受けする際には、最初に、海外展開とは何かということからご説明し、経営戦略をしっかり持ってくださいとお願いしています。 
まず、売上高を何年にいくらにするという目標を設定し、例えば20%の成長を達成できるような経営戦略を立ててもらいます。その際に自社の経営の中で、海外ビジネスをどのように位置づけているか、また、海外進出後、どう現地化していくかについても、考えていただきます。製品や部品の現地の事情に応じた仕様のローカリゼーション、その次には、人材のローカリゼーション、例えば、日本の大学に在籍している留学生を入れていくとか、また現地で採用して日本で働いてもらうとか、そして最後にはマネジメントのローカリゼーションを行っていくべきか、というような事柄について、考慮に入れておかなければいけません。いずれにせよ、ベースになるのは、異文化とダイバーシティについての理解です。 

(2) 中小製造業の輸出の現状
ここで、工業統計表を加工したデータで、中小企業の輸出の現状を見てみましょう。中小製造業全体に占める輸出企業数は、全体の2.8%くらいしかありません。大企業の海外展開のスピードについていくことができず、国内に残っていた中小企業が、いま、いちばん苦しんでいます。仕事は、どんどん少なくなっています。たくさんの中小企業を見てきましたが、経営的には厳しくても、優れた技術や独自の製品を持っている会社が全国には多いです。われわれは、そういう企業の背中を押して、海外進出のサポートをしています。
データは2009年度までしかありませんが、その後、3%を超えました。タイには4,000社くらい出ています。ただし、この統計には、商社による海外持ち出し分は含まれていません。企業の製品は、統計よりもっと多く出ているはずです。

(3) 海外展開の必要条件
 輸出を開始するための必要条件として、特に重要なのは、販売先を確保していること、輸出先の市場動向についての知識があること、それから国内市場でのヒット商品があることです(中小企業庁委託「海外展開による中小企業の競争力向上に関する調査」(2011年11月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)によると、それぞれ、59.8%、46.8%、14.6%)。

企業のコンサルテーションを始める際、私は、以下の4つのポイントについて企業の方々に伺い、専門家として見極めてから、輸出戦略策定へ移るようにしています。

① 社長の強い意志・執念
経営者がリーダーシップと、絶対にやり抜こうという強い覚悟をもっていること 
② 技術力のある商品
他社にはない、おもしろい技術を備えていること
③ 組織(人材)
兼務でもいいから、海外営業スタッフや、担当の係を作ること
④ 国内市場での実績
国内市場でヒット商品があれば、いきなり海外ではなく、ニッチ市場で高シェアを狙うこともできる

(4) 展示会:中小機構の海外販路開拓支援メニュー
 中小機構の海外販路開拓支援メニューとしては、国際展示会支援、海外バイヤーとの商談会がありますが、今日は展示会に焦点を絞ってお話ししたいと思います。
輸出に踏み出せない背景には、どこに市場があるのかわからない、自社の製品・部品が海外でも通じるのか不安、代理店やパートナーをどう見つけていったらいいのかわからないという悩みがあるようです。そういう悩みを解決する手段が、展示会出展です。

 展示会出展には、①業種が選べる、②意識の高いバイヤーが集まる、③自社製品、部品、技術の市場性がわかるというメリットがあります。たとえば、シャフトの長さ一つとっても、現地の企業がどれくらいの長さのものを必要としているのか、ユーザーのニーズが直接わかります。自社製品のローカリゼーションのための情報が集まるわけです。

展示会出展の動機としては、新規ユーザー開拓、代理店発掘、市場調査・情報収集、企業・ブランドのPR、商品仕様改善などが考えられます。特に、メンテナンスサービス拠点やパートナー発掘は、よく相談が寄せられる項目です。機械のアフターサービスは重要です。たとえば、パーツフィーダーで、5㎜単位の部品に対応できる日本の機械があります。現地にはそこまで対応できる製品はありません。展示会では非常に人気が集まりましたが、メンテナンスはどうなるのかということが、問題になりました。故障の際、修理や部品の補充が必要になります。ですから、営業活動は後回しにして、メンテだけでも先に対応しようという企業もあります。

(5) 海外展開先および進出企業の状況
① 海外展開先TOP3
製造業の海外展開先として人気があるのは、タイ、インドネシア、ベトナムです。2012年のデータで人口および1人当たりGDPを比べると、タイは6,813万人、5,480ドル、インドネシアは2億3,800万人、3,557ドル、ベトナムは8,970万人、1,596ドルとなっています。これは国レベルのデータですが、1人当たりGDPについて、特に消費財では都市部の数値を参考にすることもあります。

② 製造業現地法人の財務状況(2009年度)
経済産業省『平成22年海外事業活動基本調査』のデータをもとに、中小企業のアジアにおける製造現地法人の財務状況を概観してみます。
売上高経常利益率(中央値)は、タイ2.7%、インドネシア3.6%、マレーシア2.5%です。ベトナムは0.6%と低く、加工賃しか残らない感じです((編注:アジア全体海外現地法人2,067社の平均は2.1%、中国は1.6%)。
現地販売比率は、タイ85.0%、インドネシア73.1%、マレーシア57.4%に対して、ベトナムは3.7%と低いです。

 

売上状況のうち、日本向け輸出の占める割合を比較してみましょう。タイはわずか1.3%、インドネシアは8%、マレーシアは5.2%、ベトナムは67.5%です。ベトナムの場合、多くが組立加工で、製品は日本に持ち帰りということです。自動車の場合、タイでは、自動車が250万台生産され、そのうち100万台は輸出に回ります。国内販売台数では、インドネシアの方が大きいでしょう。
現地調達率は、タイでは78.3%にのぼり、ほとんど向こうでサプライチェーンが構築されている様子がわかります。部品等は、だいたい現地で揃うと言っていいでしょう。タイでは、競争も激しく、中国企業もたくさん入っています。タイを追いかけているのがインドネシアで62.6%、一方、ベトナムは24.8%です。つまり、ベトナム進出企業は、サプライチェーンが途切れているため、ねじ一つ買うのにも苦労しているということです。中小企業にとっては、ベトナムは、今のところ、安い労賃が魅力という国になってしまっています。

 こうしたデータを踏まえて、各国の特徴を要約してみますと、まず、タイは、「サプライチェーンが整った生産拠点」と言えるでしょう。ASEAN共同体のスタートを前提にすれば、「中国プラスワン」はもう古い考え方かもしれません。いまは、「タイプラスワン」の時代です。タイは、AEC発足を睨み、地域のハブになるからです。
 インドネシアは、内需が旺盛です。自動車についても、関連産業の集積が進みつつあります。企業の間では、先行者利益を考えて、今進出しておいた方がいいのではないかという期待が大きいのではないでしょうか。
 ベトナムは、人件費削減を狙った持ち帰り加工が多いようです。ただ、ベトナム人の勤勉で親日的な国民性が、日系企業に受けているようです。

(6) 海外展開のステップ(製造業)
以上の背景を踏まえたうえで、製造業における海外展開のステージについて、お話ししておきたいと思います。後ほど、進出企業の事例をご紹介する際にも、このステップに基づいてご紹介します。

ステージ1は、輸出への取組み段階です。最初は、製品・部品完成品の形です。
ステージ2 は、モノづくりではコストとの戦いです。よって、この段階になると、一部の生産工程の現地への移管が始まります。原材料、部品の現地調達率を上げつつ、いかに生産コストを下げるかが、このステージでの重要課題でしょう。ただ、まだ、生産すべてを現地に移してはいません。コア部品は日本に残しており、輸出の形をとっている段階です。
ステージ3に至ると、現地移管がさらに進化し、現地での付加価値分が大きくなっていき、現地生産の形態をとります。とはいえ、設計、開発のR&Dについては、まだまだ本社主導という面が残っているかもしれません。

 最終的には、現地生産、現地開発にまで持っていくべきでしょう。
海外で事業を始めると、日本国内で仕事が減るのではないかという懸念もあるでしょう。しかし、現実には、現地では生産できない製品の注文が舞い込み、日本での生産も増えるという場合もあります。注文自体が増え、人材も国際化できますから、海外展開はいいことばかりです。最近では、役所も、海外生産に対して、非常にポジティブになってきたと思います。

(7) 現地拠点の機能と、現地パートナーの役割
現地拠点には、主に、営業、メンテナンス、生産という役割が考えられます。輸出にも、現地機能が問われるようになっています。営業機能は、営業マン、ショウルーム、ソリューション、在庫機能、メンテ機能などさまざまです。
私が中小企業支援の際に気を付けていることの一つは、その進出企業が、現地パートナーに対して、何をどこまで求めて販路開拓するかという点です。現地パートナーには、2通りあります。一つは、代理店として、コミッション・エージェント的に、あっせんだけするパターン、もう一つは、在庫機能を持ち、決済・代金回収まで行うディストリビューターです。進出企業自身にとってどちらがいいのか、最初にある程度考えておかなければいけません。業種や商品部品、日本の企業の事業の形態などにより、判断は異なります。

(中島氏)生産財(BtoB)やパーツだけでなく、消費財でも、基本的に同じでしょう。現地拠点にメンテナンス機能があるかどうか、現地では、やはり気にするものです。

(深田氏)後の事例で説明しますので、今ご説明したステージ1~3の段階について、イメージを持っておいてください。

3.海外展示会
(1) タイ展示会 メタレックス METALEX
最初に、タイの展示会「メタレックス METALEX」について、ご紹介します。昨年11月20~23日に開いた「METALEX 2013」では、4,000社が出展し、来場者数は7万人を超えました。
出展品は機械、部品、金型、切削工具です。機械関連の展示会としては、ドイツのエモ(EMOハノーバー世界工作機械展)、シカゴの世界工作機械見本市(IMTS)、日本のJIMTOF(日本国際工作機械見本市)に並んで、このメタレックスが、世界四大機械展示会の一翼になっています。最近は、JIMTOFに出ている企業が、メタレックスにも来ているケースが多く、メジャーな展示会が徐々に地盤沈下していく一方、メタレックスはJIMTOFを脅かすくらいに伸びてきました。ASEAN人気で、毎年活況を呈しており、新規ブース確保は難しい状態です。今年度、来年度も、ブースが取れないくらい、申し込みが多いです。

通路の写真を見ると、工場で働いているユニフォーム姿の人たちが来ていることがお分かりいただけるでしょう。最近は、特に、FA関連の機械の展示が増えてきました。溶接関係の多軸ロボットなどが多くなり、労働コストを削減できる部分に関心が高まっているようです。 
 展示は、本来、製品カテゴリー別ですが、国のパビリオンがある場合、その中ではカテゴリーが混じった状態で展示されています。

(2)インドネシア展示会
インドネシアでは、「Manufacturing Indonesia」という名で、機械、部品、金型、切削工具の展示会が開かれています。2013年は2,400社が出展し、来場者は3万1,000人以上に上りました。この分野ではインドネシア最大で、アジアでは、タイのメタレックスに次いで、人気が高い展示会です。インドネシアは、GDP成長率が6%台に下がりましたが、日本の常識からすれば、まだ高い経済成長率と言えるでしょう。内需が旺盛ですから盛況です。特に、インドネシアも人件費が高騰していますので、ここでもFA展示が増えてきました。企業だけでなく、地方自治体からのグループ参加も多いようです。

(3) 出展効果最大化のために
① ポイント
出展効果を最大化するには、事前準備がすべてです。ポイントは、①出展目的の明確化(顧客ニーズの把握、ユーザーの新規開拓、代理店探しなど)、②製品コンセプトの設定(自社の強みの確認、SWOT分析)、③ターゲットの明確化(使うシーンの差別化、FABE法)です。

② ブースづくり
ここで、少し実務的な話をさせていただきます。何万人も来場する会場で顧客を獲得するには、まず魅せるブースづくりが大切です。私は「30秒囲い込み作戦」と呼んでいますが、通路側ではデモ機、バナーの「キャッチコピー」でアイキャッチングして来場者の足を止め、そのまま来場者をブースの中に呼び込みます。ブースではソリューションを訴求し、納入実績や使うシーンを効果的に展示する手法をいろいろ提案して、アピールする魅せ方のサポートを行っています。
また、出展企業には、「ロードマップ」を作ることを勧めています。出展の目標、チームの組み方、特に、海外出店に関する中長期の目標、社長が自社の経営戦略として、5年後、10年後、自分の会社をどう考えているのか、パートナーとの契約はどんな形にするのかというようなポイントについて、あらかじめよく考えておいていただくためです。その上で、展示会準備フォローのスケジュールを作ってもらっています。
『出展戦略の栞』も作っています。名刺交換する際には、営業の人なのか、製造か、生産技術の人なのかの職種、そしてどんな業界かを聞いてメモする管理シートを渡しています。後でフォローするときに、優先順位が立てやすいからです。企業の担当者のお役に立てるようにこの栞を渡しています。栞には、名刺管理シート等実務的なツールとなるテンプレートを入れており、企業の方に、けっこう使っていただきました。

③ 展示会出展前
出展にあたっては、情報提供や資料作成、ワークショップなど、専門家からさまざまなサポートを行います。事前準備について特に効果があるのは、翻訳支援です。出展者には、英文ホームページや現地語カタログの作成を勧めています。日系企業へのアプローチだからといって、日本語だけでいいわけではありません。現地社員は、日本語がわかったとしても、文章は苦手ということもあります。ですから、中小機構が翻訳料を部分的に負担して、カタログを作成してもらうようにしています。現地に行けば、商談のサポートも行います。貿易実務や、輸出入のノウハウ提供もしています。売買契約書なども、国内では作成したことがない企業が少なくありません。ですから、中小機構でひな形を用意します。また、現地で組む相手が、エージェントなのか、ディストリビューターなのかに応じて、代理店契約のサポートも行っています。

(小川教授)タイやインドネシアのエキスポでは、隣国の企業の人たちも来るわけですか?

(深田氏)だいたい10%くらいは、海外から来ていると思います。特に、タイの展示会では、海外からの参加が多いようです。自国でのビジネスのために出展したり、来場したりするようです。日系企業では、社長クラスは最終日に来ますが、最初から来るのは、タイ人幹部・担当者に、タイのローカル企業の人たちです。

(小川教授)タイ人の所属会社のうち、日系比率はどれくらいですか?

(深田氏)出展4,000社のうち、スペースで見ればシンガポール、台湾が一番多いと思います。日本は、スペース的には少ないです。 

(小川教授)7万人来場するうち、マジョリティはタイ人のようですが、その人たちの所属は、どうなっていますか?

(深田氏)バイヤーという点では、いまはローカルの企業が多いです。シンガポールなどからもたくさん来ています。

(小川教授)出展補助は、どれくらい出るのですか?

(中島氏)中小企業については、費用の3分の2くらいは、補助しています。

(岡本教授)展示会の費用は、国ごとに差があるのですか?

(深田氏)展示会費用は、リードジャパンの場合、海外のバイヤーを呼んだりしますので、他社の3~5倍取ることがあるようです。しかし、一般的に言えば、ブースの単価などは、どの展示会でもだいたい同じくらいの水準だろうと思います。
 大きな企業は自分で出ており、昔から進出している企業の場合は、中小企業であっても、ジャパン・パビリオンには出ないというところもあります。そういう会社は、他の日本企業と一緒にされないようにしているようです。

4.展示会出展企業事例
 最後に、タイとインドネシアの展示会の出展企業事例をご紹介したいと思います。(企業情報ため割愛)

質疑応答
(司会:小川教授)どうもありがとうございました。ここで、質疑に移らせていただきたいと思います。

(酒井教授)ローカライズの話が出ていましたが、こういう基盤産業の場合は、ローカライズは、それほど気にしなくてもいいのかなと考えていました。具体的に、どんなニーズの違いがあるんですか?

(深田氏)電圧は、もちろん変えなければいけません。また、もっと大きな材料を切りたいというニーズがあれば、デバイスを変えるような工夫もいるでしょう。カスタマイズは必ず必要です。

(酒井教授)国内の企業と比べて、海外の場合、カスタマイズの幅に違いがありますか?

(深田氏)国内でいろんなカスタマイズに対応できておれば、海外でもだいたい大丈夫です。

(酒井教授)機械の仕様より、むしろ、販路の開拓の仕方などの違いについて、ローカライズが効いてくるのかなと思ったんですが?

(深田氏)販路開拓については、ユーザーに直接アプローチするチャネルを展示会で開拓したり、機械専門の商社を使う方法があります。そういった方法は、国内であれ、海外であれ、あまり変わりがありません。最終的には、売れるようになれば、現地に海外営業拠点が必要になってきます。それを、パートナーの代理店にやらせることもあれば、次の国への進出を考慮して、自分たち自身で主導して行こうという考え方もあります。小さい会社ですと目先のことに目が向かいがちですが、ここは、経営戦略の観点から考えるべきでしょう。たまたま引き合いがきたから海外に出ようというのでは、絶対だめです。最初に、進出に際しての4つの条件についてお話しましたが、この条件を満たしていない企業に対しては、国内で市場開拓することを勧める場合もあります。

(中島氏)機能を100項目くらいに分けたとしたら、それ自体は世界共通なのかもしれません。しかし、機能をどう分類するか、その分類方法が、各国別に違うように思えます。それぞれ商習慣などが違いますから、カスタマイズ、ローカライズの必要があります。アジアでも、タイ、インドネシア、ベトナム、それぞれ、微妙に違います。
 海外の場合、展示会で名刺だけもらっても、いったい何の企業なのか、わかりません。そこで、いろいろ模索しながら、何を、どこまで手がけている会社なのかを聞き出さなければいけません。インハウスで、金型まで自分で製作しているような企業もあります。相手の企業が、何を、どこからどこまでやっているのか、それを調べるのに時間がかかります。質問しても、向こうも、なぜこちらがそう尋ねるのか、意図が伝わらないことがよくあります。

(深田氏)海外展開の4 条件を満たす企業は、海外市場進出に向けて背中を押していく値打ちがあります。

(小川教授)中国、台湾、韓国の状況は、どんな感じですか?

(中島氏)JETROは、分野と進出国については、まんべんなく取り組んでいます。ただ、政府の機関ですから、国同士がもめると、出展しにくくなってしまいます。

(深田氏)中国に新たに第2,3工場で出ているのは、大企業が多いようです。自分たちで経営し、管理できるからです。中小企業は、合弁会社などを作って出て行ったものの、いま、みんな苦しんでいます。「チャイナプラスワン」と以前は言われていましたが、今は、「タイプラスワン」になっているのではないでしょうか。

(小川教授)私たちは、「中国ハーフアンドハーフ」という言い方をしています。中国はリスクが高すぎるので、タイとインドネシアに企業のアジア進出の重心が移ってくるということです。

(岡本教授)展示会では、中国・韓国企業が出てきていると思いますが、こういう部品産業の場合、どんな状況ですか?

(深田氏)タイでは、中国勢のパワーが大きいです。日本の中小企業がいきなり出ていっても、技術に特に特徴がなければ、価格の面で、中国企業に負けてしまいます。

(中島氏)展示会にかける日本の予算、例えば出展規模を1とすると、韓国は2、中国は韓国の2倍で4、という比率でしょう。ASEANの展示会のイメージは、だいたいそんな感じです。ただし、企業のレベルとなると、また別の話です。技術力、品質では、値段は高いが品質はいいのが日本製です。しかし、すぐ壊れてもいいようなものなら、中国製を選ぶ現地企業が多いと思います。ローカルのニーズに対して、日本企業のオーバースペックの品質が合うかどうか、考えてみないといけません。高品質のものを求める富裕層は、展示会にそもそも来るとは限りませんし、出会えるとも限りませんから、そこにミスマッチがあると言えるかもしれません。

(小川教授)今日は、長時間にわたり、ありがとうございました。