キャラクターのつくり方と育て方: 井上ヒサトさん(元サンリオ)のzoomの講義から

 学部ゼミのレッグス班が、先日、井上ヒサトさんから「キャラクター開発」について特別講義を受けました。わたしもオンラインで傍聴させていただいたので、気づいたことをメモに残しておきます。先日は、「午前中の特別セミナーが終わったら、内容をここに追加することにしたい」と言いっぱなしになっていました。ごめんなさい。遅まきながら、講義内容を補足しておきます。

 

 開口一番、井上さんが学生に伝えたのは、「キャラクターは作ることも大切だが、生んだあとで育てるプロセスが重要」というメッセージでした。たしかに、キャラクターのヒットは、偶然の要素が大きいらしいのです。生み出したあとの育成の仕方が、キャラクターの成功に影響が大とのこと。単に運に頼るだけでなく、運を生かすも殺すも育て方しだいとのことでした。

 井上さんがサンリオ時代に開発したキャラクターの代表例は、「ハンギョドン」と「バットばつ丸」、そして「こらしょ」(ベネッセ、福武書店)です。わたしは、ハンギョドンは知らなかったですが、ばつ丸のキャラクター(絵)は知っていました。それと、4人も孫がいるので、学研の「こらしょ」もよく日常的に見かけるキャラクターでした。

 井上さんは、ご自身が開発したキャラクターを例に挙げて説明してくださいました。

 

 <事例1> バッドばつ丸

 サンリオのピューロランドで活躍することを前提に開発されたキャラクター。キャラクターミュージカルで演技するためのキャラクターですが、当初から意地悪な悪役に設定されていたそうです。なので、名前が「バッド(Bad)ばつ(×)丸」。対照的ないい子役は、したがって、「グッド(Good)はな(◎)丸」。

 演技をするときの着ぐるみの色は、悪役なのでブラック。ペンギンのキャラでしたが、言われないことには、見た目だけではわからないでしょうね。当初まったく売れず。しかし、当時の辻社長に慰留されて、継続することになりました。キャラクターも、ときには後見人が必要なのかもしれないです。

 

 <事例2> こらしょ

 見た目は、うさぎに見えますが、ランドセルが「こらしょ」の原型。うさぎの「耳」に見えるのは、ランドセルの「ベルト」なのだそうです。名前の由来は、ランドセルを「よいこらしょ」と背負うところからきている(らしい)。絶対わからないですよね、このストーリー展開は。

 ベネッセの通信教育に登場するので、露出が多い。自然に知名度が高まったようです。わたしが知っているくらいです。そうしたキャラクターは、世の中にたくさんあるそうです。

 

 <キャラクターの開発原則>

 キャラクターを開発するには、コツがあるとのこと。これを「開発原則」と呼ぶことにしましょう。井上さんの話を、わたしなりにまとめるとつぎのようになります。「雑誌とかに開発心得のようなものを、ご自身でまとめて書かれたことはありますか?」というわたしの質問に対して、「いやとくにないですね」と井上さんが答えられたので、わたしが勝手に整理しました。

 

 原則1:シンプルであること 

 世界でもっとも絵柄が単純なキャラクターは、「ミッフィー」(フィンランド生まれ)だそうです。シンプルなキャラクターが優れているのは、①視認性(簡単に同定できる)がすぐれていることと、②2次創作(絵柄の改ざん)がしやすいからのようです。アイデアなどでも、シンプルな方が理解がしやすいですね。シンプルなキャラクターは、シルエットがわかりやすい。

 *注:ブランドでも、色彩やデザイン柄を外しても(白黒だけにする)、そのブランドがなにかわかるときは、優れたブランドと言えます。

 

 原則2:テーマとコンセプトが明確であること

 たとえば、「ハンギョドン」は、「夏」がテーマがだったそうです。漢字で書くと、「半魚人」。このキャラクターは、口が大きくて、頭に蛸が乗っかっています。中国生まれで、津波にさらわれて深海に行ったという背景設定になっていました。ファンシーキャラクターには、必ずストーリーがついていることが特徴です。生まれた場所や生い立ち、父母や兄弟など。そういえば、サザエさには家族が出てきますが、「ファンシーキャラクター」も同様なようです。

 *注:ちなみに、ピーターラビットやミッフィーのような絵本から出てきたようなキャラクターは、「クラシックキャラクター」と呼ばれています。あまりキャラクターを操作することが許されません。対照的に、キティーのようなファンシーキャラクターは、二次創作などがわりに自由です。

 

 原則3:ブランド創りのようにキャラクターを考えよ‼

 キャラクターは、ブランド論ではブランド要素の一つとして出てきます。そのせいか、キャラクターを創作するときは、ブランドを作るときのように考えるとやりやすいです。①ネーミング、②色彩、③デザイン、④音(しゃべり方)、⑤背景(物語)。原理は同じです。シンプルに親しみやすく、キャラクターに独自の主張や個性を持たせること。

 

 以上、1時間の講義で学生が得られた学習効果は、結構大きかったのではないでしょうか?

 井上さん、ありがとうございました。クライアントとの著作権問題(IP)があるので、キャラクターの管理には神経を使いそうです。その点も、ブランドのマネジメントと同じです。