『デイリー新潮』の7月25日号(オンライン版)は、小川のコメントで構成されています。

 記事のタイトルは、「「東京ディズニー」に2年ぶり新アトラクション 顧客満足度“暴落”からのV字回復なるか」(2019年7月25日掲載)。3年前に『新潮45』(休刊中)に書いたTDR(東京ディズニーリゾート)の記事「東京ディズニーリゾートを蝕む異変」(2016年6月号)の復活版になっています。

 

 2010年代のはじめ、「宝塚歌劇団」や「劇団四季」とともに、「TDR」(東京ディズニーリゾート)は、毎年CSでトップを争っていました(JCSI調査、2010年から)。100点満点で顧客満足度は、常に80点台の半ばでした。ところが、ダントツの一位だったCS(顧客満足度)が、2015年~2017年にかけては、ピークから10ポイントほどスコアを落としていました。 

 舞浜のTDRを訪問した来園者からは、混雑度やサービスの低下についての失望の声があがっていました。調査のコメント欄には、多種多様な不満が書き込まれていました。同期時に筆者が発表した『読売オンライン』の記事でも、園内のインバウンド顧客の行儀の悪さを指摘する声が引用されています。

 開園30年行事以降のアクラクションの不発、サービスの低下がクレームにつながったようです。それから2年後の復活劇(2018年~)は、逆に35周年記念イベントの成功と、混雑度を解消するための施策が功を奏しているようです。

 『デイリー新潮』から、筆者のコメントなどを引用してみます。

 

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「東京ディズニー」に2年ぶり新アトラクション 顧客満足度“暴落”からのV字回復なるか」
『デイリー新潮』(2019年7月25日掲載)
 
(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/07250559/?all=1)
 永遠に完成しない場所(他の写真を見る)
 7月23日、東京ディズニーシーに新たなアトラクションがお目見えした。総額180億円を投じたといわれる「ソアリン:ファンタスティック・フライト」だ。早速、6時間待ちの盛況ぶりが伝えられるが、東京ディズニーリゾート(TDR)をめぐっては、つい最近まで不振が伝えられてきた。夢と魔法の王国、その未来を占う。
 
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 東京ディズニーランドが千葉県浦安市にオープンしたのは、1983年。以来、日本におけるテーマパークの顔として、数多くの来園者を楽しませてきたのはご存じの通りである。日本生産性本部サービス産業生産性協議会による日本版顧客満足度指数(JCSI)でも、長きにわたり、顧客満足度の高い企業・ブランドとして、トップ10に君臨し続けてきた。
 ところが15年の調査で、突如、前年の2位から一気に11位へと下落。翌年の16年も顧客満足度指数を下げ、13年から17年の4年間で、TDRはじつに10ポイント近くを下げたのだ(86.8→82.7→77.9→77.1)。
  
 これがどれほどの“暴落”かというと、
「2014年に鶏肉の賞味期限問題などが発覚し、大幅な赤字に陥った日本マクドナルド以来のことでしょう」
 と解説するのは、小川孔輔・法政大学経営大学院教授。マーケティングを専門とする教授は、JCSIの調査設計と事業運営に関わっている当事者でもある。
 先にネタバレをすれば、18年の最新調査でTDRはポイントを大きく回復させる。その理由は後述するとして、なぜ、一時、TDRはこれほどまでに顧客満足度を下げてしまったのだろうか。
 当時の新聞を繙けば、鶏肉偽装ほどの大ニュースではないにせよ、シーのホテルミラコスタでノロウイルスの集団感染(14年)、園内で販売していたカップケーキにカビが発生(15年)、シーの清掃アルバイトが転落死する(15年)など事件事故が起きてはいた。
 しかし、小川教授によれば、コトはもっと本質的なところにあったという。
「当時のTDRでは、ショーを見るときに抽選制を導入したり、パーク混雑時の入場規制を廃止したりと、運営するオリエンタルランドの売上高至上主義が目立っていました。企業として“ブラック体質”であると言われたのもこの頃で、そのキャスト(従業員)に対しても“ゲストを楽しませる”ことよりも“クレームを避ける”よう、マネジメントが方針転換されたといいます。顧客満足度は、下がって当然の状況だったといえますね」
 他にも16年までに入園料が3年連続で値上げとなり、6400円から7400円にもなった。一方、ライバルのユニバーサルスタジオジャパン(USJ)が、次々と魅力的なアトラクションを打ち出した……といった影響もあるだろう。
逆転のワケ
   
 先述した通り、ここからTDRは逆転を果たしたわけである。今年3月に発表された18年の調査では、17年の77・1から81・1ポイントへと、一気に顧客満足度が上がったのである。
 復調のほどは、TDRの年間来園者数にも見て取れる。14年に3137万7000人だった来園者数は、顧客満足度が低迷し始めて以降、3019万1000人(15年)→3000万4000人(16年)→3010万人(17年)と推移してきた。これが18年に3255万8000人と、やはり一気に来園者を増やしたのだ。
 こうした好調の理由も、やはり本質的なところにあったようだ。小川教授が続ける。
「公表データではないので詳しい数字はお伝えできないのですが、18年調査の細かい数字を見ると、簡単にいえば“パークの雰囲気”そして“アトラクションやイベント”が評価され、顧客満足度を引っ張りあげたようです。前者については、複数のレストランやアトラクションエリアがリニューアルされ、綺麗になった点。後者に関しても、たとえば18年4月に『イッツ・ア・スモール・ワールド』がリニューアルオープンし、『アナと雪の女王』などディズニーの人気作品のキャラクターが登場しています。なにより昨年はTDRが開園35周年のイベントが行われており、これらの点が評価されているようです」
 蓋を開けてみれば単純な話……。とはいえ、これは大幅な赤字に陥り、その後V字回復したマクドナルドにも通じるものだという。
「マクドナルドも一時の顧客離れから見事に復活を果たしたわけですが、同社には『QSC+V』という企業理念があります。それぞれ、Qualityすなわち投入する新商品の満足度の高さ、Service(サービス)、Cleanliness(清潔さ)に加えてのValue(付加価値)を指します。日本マクドナルドを見ても、最近は次々と新商品を投入しクオリティ高め、オーダー後に番号札で待つようサービスを改善してきたことが、復活につながりました。これは外食産業の考え方ではありますが、TDRに当てはめれば、ヒットした35周年イベントがクオリティ改善につながり、設備改善が清潔さにつながった、といったところでしょうか」(同)
    
 永遠に完成しない場所
 そこでいえば、今回の「ソアリン」登場はどう影響するか。ハングライダーによる飛行シミュレーションを体験でき、17年の「ニモ&フレンズ・シーライダー」以来となる新アトラクションだという。『ニモ』はファンの間でも評価が芳しくなく、先の話に照らせば『クオリティ』改善を果たせず、顧客満足度の底上げは叶わなかったといえる。その点、「ソアリン」はすでにカリフォルニアや上海のパークで導入済みの人気アトラクションだというから、不安はないといえるか。
 新アトラクションが稼働し、さらに2020年春からは大々的なパークリニューアルがお披露目される――が、さらにその先は。マクドナルドが次々新商品を発表したように、新アトラクションを導入するというわけにはいかない。近年のキャッチコピーで〈ここは、永遠に完成しない場所〉と謳ってはいるけれども……。
  
 「そこはテーマパークというビジネスの宿命でしょうね。USJのほかにも、ムーミンバレーパークやナガシマリゾート、レゴランドといったテーマパークが現れてきて、これらと比較しての評価がなされる環境ではあります。今回、施設やアトラクションの『ハード面』の改善が進んだわけです。今後は、『ソフト面』。すでにまたUSJでは、時期によってチケット価格に差をつける“季節変動性”が始まっていますが、これはTDRでもゆくゆくは始めるはず。IT面で改善の余地もあるでしょう。今回、ファストパス(優先搭乗)のスマホアプリ対応も始まりましたがこれを応用すれば、来園者を誘導する形でアトラクション毎に分散させ、混雑緩和の仕組みも作れます。こうした点の改善が、さらに顧客満足度を上げることになると思われます」(先の小川教授)
 今後は“夢と魔法とITの王国”を目指すということだろうか。
   
 週刊新潮WEB取材班