2日前の2月19日は、表参道で「コラボカフェ」を取材していた。場所は、表参道駅から7分ほど歩いた裏路地にある「OMOTESADO CAFF&SPACE」。レッグスの若い社員3人(20代後半~30代の男女3人)と一緒だったが、67歳の大学教授は、きわめて居心地の悪い場所に座っている感覚だった。1月5日から2月24日まで、この場所は「ハム太郎カフェ」になっている。
いまはハム太郎がこの空間の主役だが、キャラクターが変わるとカフェの名前も変わる仕組みだ。このシステムをなぜ「コラボカフェ」と呼ぶかといえば、「キャラクタービジネス(物販)」+「飲食店(サービス)」が相乗効果で誘客しているからだ。
居心地が悪かった理由は、ハム太郎のランチョンマットを敷いた席に座って、ハム太郎をモチーフにしたメニュー表を見ているのが女子ばかりだったから。それも、95%が10代から20代前半のかけての可愛めの女子ばかり。高校生か女子大生だろう。観察時間は午後13時だったから、高校生だとすると学校を休んでこの場所に来ている?
隣りのテーブルに、ちと違和感のある親父たちが座っているのだが、ハム太郎ファンの女子たちは、とくにこちらの存在を気にしているわけでもなさそうだ。可愛いハム太郎との時間を楽しんでいる。この現象を、「沼消費」というらしい。ずぶずぶだから? スマホから時間指定で前金(500円:税抜き)を支払い、座席を予約する。
席を占有できる時間は80分間だ。ちなみに、スマホの予約画面を紹介すると、次のようになっている。完全予約制なので、うまくいけば、店の回転率は7回転/日。二部制になっていて、40分単位で入れ替えが起こる。
以下は、参考までに、スマホの「予約画面」をコピーしたものである。
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タイムスケジュール
カフェご利用は<80分>入れ替え制となっております。
カフェご利用時間
①10:00~11:20
②10:40~12:00
③11:30~12:50
④12:10~13:30
⑤13:00~14:20
⑥13:40~15:00
⑦14:30~15:50
⑧15:10~16:30
⑨16:00~17:20
⑩16:40~18:00
⑪17:30~18:50
⑫18:10~19:30
⑬19:00~20:20
⑭19:40~21:00
■RESERVATION(事前予約)
WEBにて希望時間帯の事前予約を行っていただくことで、待ち時間なくご入場いただけます。
■当日席
お席が空いていれば、当日席をご用意できる場合がございます。当日、電話でのご予約などは受け付けておりませんので、事前にご予約のほどお願いいたします。
※事前予約にて満席の場合は当日席のご案内はございませんのでご了承ください。
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「OMOTESANDO BOX CAFE&SPACE」は、名前の通り、カフェを併設したイベントスペースである。いまはキャラクターをモチーフにしたカフェになっている。「ハム太郎カフェ」は、50日間で別のキャラクターに切り替わる。
店内の壁や内装も、ランチョンマットもコースターもグッズもキャラクターをモチーフにしている。スヌーピーやピーターラビットなどのようなクラシックキャラクター以外は、和製・韓国製などファンシーキャラクターならなんでもありそうだ。
わたしは、席に座るなり、速攻でオムライスとカフェラテを頼んだ。値段は、それぞれ1480円と980円。オムライスには、ハム太郎が二匹、ふわふわ卵の隣に立っている。おそらく最中(もなか)の皮を細工したものだろう。ハムスターファミリーの顔を、最中の皮にプリントしてあるのだ。これがまた可愛いく仕上がっている。
次に頼んだカフェラテの表面には、ハム太郎をプリントした「円形のシート」が浮かんでいる。日本の食品加工技術は世界に冠たるものらしい。匠の技が生みだした逸品だ。海苔の加工技術の応用らしい。欧米の食品チェーンでは、面倒くさいこのような発想は生まれてこないだろう。
興味のある方は、小川のインスタグラムのアカウント(ID=wanwanwansuke)を覗いてみてほしい。「これは食べ物なのだろうか?」と目を疑ってしまうほどに、究極の加工技術を見ることができる。たかがハム太郎にこれだけの情熱を注げるとは。ビジュアルに感激してしまった。
この業態を、レッグスの谷丈太朗氏(上級執行役員)は、「フードエンターテインメント事業」と命名している。「飲食」(フード)に「娯楽」(エンタメ)の要素を付加した新しい事業体である。ビジネスの原型は、有名歌手が出演する「ディナーショー」だろう(例えば、高額な松田聖子のディナーショー)。「俺の株式会社」が、自社のフレンチ・イタリアンのレストラン(俺のイタリアン)で、セミプロの演奏を付加価値にしているのも、フードエンターテインメントのカテゴリーに入るだろう。
通常の飲食とのちがいは、飲食の売り上げも粗利も大きいことだ。キャラクターグッズの売り上げ(物販)が、それに負けずと大きい。収益は、飲食とグッズから構成される。客単価は約4000円で、物販からの収益が約35%を占める。標準モデルは日商60~120万円。これは、コンビニの日商と同じ水準かその倍にあたる金額である。収益力が高い業態だと想像できるだろう。
お店の企画デザイン(基本設計と物販)は、マーケティングサービスの「レッグス」。レストラン部門を運営するのは、「トランジットジェネラルオフィス」。レッグスは、小川ゼミ・フィールドワークのコラボレーション先である。
この業態のおもしろさは、来年度(2019年度)の大学院の授業(マーケティング論)で、通年テーマとして扱うことになっている。このビジネスの本質は、「飲食店にキャラクターが介在する(加わる)ことで、消費者が異次元空間である種の高揚感を味わうこと」ができることだろう。
例えば、TDR(東京ディズニーリゾート)のブランド・エッセンスは、「非日常的な空間での時間消費」である。ミッキーのグッズが売れるのは、観光地のお土産物屋と同じロジックである。飲食店(カフェ&レストラン)の舞台空間に、キャラクターが投入されると、非日常的な高揚が生まれる。それと同じことが、コラボカフェでも起こっていそうだ。
さて、東京表参道での「ハム太郎カフェ」の興行は、明後日の24日まで。翌週からは、舞台が大阪に移動する。ここも何となく、劇団四季や宝塚劇場の興行に似ていないだろうか?客と店が高速回転する。「高関与消費」の一類型ではある。
ビジネスの仕組みの研究もおもしろいが、学生たちには、ユニークなコラボカフェを企画してもらいたいと思っている。
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開催期間
2019年1月5日(土)〜2019年2月24日(日)
開催場所
OMOTESANDO BOX CAFE&SPACE
東京都渋谷区神宮前5-13-2 パインアンダーフラットB1F
>Map
東京メトロ明治神宮前駅より徒歩7分
JR原宿駅より徒歩9分
東京メトロ表参道駅より徒歩9分
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