2013年4月17日(火)午後5時20分。上海高島屋に客の影がない!

 個人のblogにこれほど直裁な印象を述べてよいのだろうか。一晩、おおいに迷ったのだが、意を決して事実を明らかにすることにした。本当に申し訳ないのだが、この街に進出を決断した高島屋の責任者と現経営陣は、同社にとって歴史的な失策を犯してしまったようだ。

 小売業関係者のかたがこのblogを読まれているならば、新興市場へ進出する際にやってはいけない過ちのひとつとして覚えておいてほしい。2012年10月(12月暫定オープン?)に開業した「上海高島屋」のことである。
 先ずは結論を述べる。この場所から即座に撤退すべきである。あるいは、テナントと商品コンセプトを抜本的に変えるべきである。選択の余地はない。

 午後5時からの20分間。上海高島屋の5階から地下1階まで売り場を歩いてみた(6階はレストラン、地階は惣菜とスーパー部門である)。

 5階、電気製品、食器などの住関連用品売り場、客数、6人。
 4階、女性向け衣料品売り場、客数、3人。
 3階、紳士服売り場、客数、2人。
 2階、服飾品売り場、客数、1人。
 1階、化粧品売り場、客数、ゼロ!!

 ちなみに、地下の食品売り場は、日本人のベンダーさんなど商品をチェックしていた。関係者がほとんどのように見えた。客かどうかは見分けがつかない(データからは除外してある)。

 ごく短い時間だった。階数と売り場構成は正確ではないかもしれない。しかし、40億円を投資して、鳴り物入りで始めた高島屋の中国一号店がこの有様である。1~5階までの客数は、12人である。客が12人に対して店員は約200人。ありえない光景を見てしまった。

 暗澹たる思いで、呆然と立ちすくんでしまった。暗い気持ちのまま、2階までを見たところで、二カ所に電話を入れた。高島屋関係者の友人と地下1階に入店しているロック・フィールドの社員に。これはたいへんなことになっている。

 一緒に見て歩いた元院生とこの原因を討議してみた。彼は、2009年から2010年にかけて、この辺りに住んでいた。大手メーカーで駐在員をしていたから、周辺住民の様子がよくわかる。

#1 テナントの構成が、日本橋高島屋とほぼ同じ。このランクの商品で、いまの上海人の富裕層に驚きを与えることはできない。上海伊勢丹が現地で20年近くの歴史を持っている。高額なファッションブランドが買える場所は、市内のいたる所にある。そういえば、欧州の有名ブランドはほとんど入店していない。

#2 推計で日本人駐在員家族が2万人。海外駐在員5万人が、この近くに住んでいる。しかし、駐在員の家族は、虹橋空港から羽田まで3時間で帰れる。日本橋高島屋に同じ商品が置いてある。値段も高いから、ここで買う必要性はない。中国人の富裕層は、ここには来ないだろう。

#3 売れていないのは誰が見てわかる。だから、かつて成都に進出して苦労したイトーヨーカ堂のように、どうにかしようと社員達が「もがく姿」が見えるものだが。この売り場からは、そうした必死さが伝わってこない。どうしたことなのだろう。現場が方向感覚を失っている。

#4 中国の政治状況と環境変化を読み違えている。習近平体制になり、政府は腐敗防止に神経質になっている。贈賄にあたるギフト需要は冷え込んでいるのだ。中国都市部の高級百貨店の売上の半分は、「賄賂」需要である。景気の悪化ととも、「袖の下」の売り上げは消えかけている。高島屋の経営陣は、この現実を見ていない。

 事態はかなり深刻である。平日の日販は100万円以下。これは店売りの推計値だが、外商にまじめに取り組んでいるのだろうか?心配になる。
 これでは、土日でも、せいぜい300~400万円。年商3~5億円のレベルだろう。予算は50~100億円ではないだろうか?(*関係者に聞いたところでは、計画段階では初年度80億円となっているらしい。)

 さて、この百貨店はどうしたものだろうか? ここに至って、もはや打つ手はないように思う。