「墓参りの花の未来」『JFMAニュース』(2018年8月20日号)

 3年ぶりに故郷の秋田に帰省した。52年ぶりに中学校の同期会に出席するためである。地元の友人たちから、「同期会もそろそろ最後になるので今回はぜひとも出席してほしい」とのリクエストに応えての帰省だった。


大正時代から昭和の初期までは、秋田杉の製材の町として栄えていた。戦後の高度成長期には住宅ブームもあって、友人や親せきの製材所はものすごい勢いで事業を拡張していた。1970年代に入ってからは、首都圏や関西圏から繊維関係や自動車・電子部品の工場が移転してきた。それなりに豊かな町だった。

 しかし、そこから30年が経過して、能代市の産業は疲弊している。製造業の海外移転、農業分野の不振、大型チェーン店の進出で商店街はシャッター通りに変わる。日本全国どこでも見られるような、絵にかいたような地方中都市の姿である。

 ところが、お盆休みに帰省すると、町は繁栄しているように見える。国道7号線から青森に向かう県道は、墓参りに行くのか観光目的なのか、車が数珠つながりに連なっている。道の駅やドライブインも客足が絶えない。食堂にも待ち行列ができている。帰省のもう一つの目的は、父親の墓参りをするためだった。地元には、TERATAとITOKUの2つの食品スーパーがある。全国チェーンのイオンやマックバリュも出店している。その日は、お墓参りの花を買うために、地元のITOKUに入った。

 普段の状況は知らないが、青果売り場の手前には、仏花のパックが山のように積みあがっている。5本入りで、580円から980円までの価格帯が主流。小菊やカーネーション、リンドウが中心で、とくに変わりばえのしない仏花の品揃えである。外は30度を超えて暑い。しかし、それらのパック花がどんどん売れている。580円のパック花を対で購入した。

 東北地方の各県は、切り花の購入金額(一人当たり、平成27年)で上位に並んでいる。宮城県(7322円)、福島県(7103円)、秋田県(6314円)である。自宅に仏壇があること、墓地が広くて花を供える空間が確保されていること、信仰心があるお年寄りが多いからだろう。東北地方の仏花需要が安泰かといえば、そうでもなさそうだ。

 私の周囲を見渡しても、中学校の卒業生のうち約半数は地元に残っていない。首都圏や関西圏で所帯を持っている。私の家もそうだが、今や生活の中心は子供から孫の時代に移ってきている。たまに家族を連れて帰省するが、孫の世代は田舎を知らない。だから、親の住宅や墓守ができなくなりかけている。あと10年もすれば、首都圏に移住した世代は、体が弱って帰省することができなくなるだろう。

 その時、仏花が確保してきたふたつの「花の座」を失うことになる。お墓と仏壇である。私たちの世代の都市生活者は、従来型の墓地を持とうとはしないだろう。散骨や樹木葬が増えている。

 だから、未来の切り花の需要を考えると、現状の形での仏花は消えてしまうと考えたほうがよいだろう。その代替需要を開拓しない限り、切り花の未来は明るくない。やはり、日々の生活とパーソナルギフトで花の需要を開拓するしか、花産業に未来はない。