大学院生たちが考える「食の未来」

 昨日は、プラネットテーブルの菊池紳社長さんを「マーケティング論」の講師としてお迎えした。約60分間で「農産物(野菜)の物流プラットフォームビジネス」について講義を拝聴したあと、<テーマ討議3>「あなたたちの考える理想の食の未来はどのようなもの?」について、学生発表のコメンテーターをお願いした。

 

 学生たちの発表は、5つの班に分かれて、それぞれの持ち時間は10~15分。菊池さんは、全グループの発表にすべて真摯にコメントをしてくださった。どちらかといえば、荒唐無稽と思われる発表に、より高い評価を与えてくださっていた。

 独特の視点からのコメントが、とてもおもしろい。そして、どのグループに対しても、すべてのコメントが前向きだった。注文をつける場合でも、決してネガティブな印象を与えないのはさすがだった。これは、わたしもおおいに見習うべき点だと感じた。

 

 自己紹介ではじめて知ったのだが、菊池さんはパイロットの息子さんだった。今年39歳。現役のベンチャー経営者ながら、どことなく大陸的な雰囲気を漂わせている。伸びやかな雰囲気があるのは、オーストラリアのブリスベーンと米国カリフォルニア州のナパバレー(パイロット訓練施設)で、子供時代を過ごしたためだろう。

 気候が温暖で空が澄みわたっている。どちらもわたしの好きな町である。そういえば、その昔は、ワイナリー(醸造所とブドウ畑)をはしごしても、車のハンドルを握ったままで問題なかったよね。1980年代は、とても牧歌的な時代でした。、、、

 

 ところで、<テーマ討議>の課題を、再掲してみる。

(Q1)あなたたちの考える理想(あるべき姿)の食の未来はどのようなものですか? たとえば、10年後、20年後の家庭の食卓(テーブル)を妄想してみてくだい。何を作って、何を食べるか、誰とどのように食べるのか? 荒唐無稽と思われるアイデアでもよろしいです。そして、

(Q2)それ(課題=未来の食)を実現するための農と食に関わる商品やサービス、新しいビジネスモデルとして、どのようなものが必要だと考えますか? 現状にとらわれずに、自由に考えてみてください。

 

 学生たちの発表を聞いて、わたしが受けた感想を簡単にまとめてみる。

(*発表内容は、実際にはもっと多岐にわたっていた。)

 

1 食べることに関して時間貧乏

 若くて専門職であるため(キャリア志向で共稼ぎもあり)、院生のほとんど全員が、食に対して費やせる時間が欠乏している。ひとつのチームを除いて、ほとんどのチームが「簡便性志向」だった。そのため、なんとなく食事があまり楽しくなさそうに見えた(個人的な印象)。もちろん、BBQキャンプやシェアキッチンなどの構想もあったが、将来にわたってひとびとが「食に対して時間貧乏」であることに対する、根本的な解決法を考えてほしかったなあ。

 

2 個食もまたよし(目から鱗)

 わたしは、「皆で一緒に」楽しく美味しいものを食べる! それが当たり前で、未来の理想の食卓だと思っていた。しかし、あるチームが、「ひとりで食べるのもまたよし」と発表していた。それを聞いて、当たり前のことなのだが、それもそうだと納得した。食事にもいろんなシチュエーションがある。ひとによって好きな食べ物や、好きでないメニューもある。それをいつも一緒に食べるのは、たしかに面倒くさいところがある。

 

3 一緒に食べるための情報技術の応用

 遠隔で映像を見ながら、一緒に食べる(食べた気持ちになる)ことが将来は可能になるだろう。2と反するのだが、VR(仮想現実)の技術を使って、まるで一緒にいるように同じものを食べるとかは、近い将来には現実になりそうだ。そのほかにも、AIやIoTを活用した食卓の風景を企画したチームもあった。でも、なんかわたしには違和感がある。

 

4 自宅に植物工場が出現

 身の回りに(家庭レベルで)、植物工場が登場すると予見したチームもあった。わたしも菊池さんも、このチームの住宅環境は実際にそうなるだろうとコメントした。さらに、菊池さんから高評価をもらったチームの発表は、バベルの塔のような「世界の農場を集めた高層ビル」の構想だった。屋内で気候をコントロールして、世界中で造られている農産物を、ひとつの屋根の下に集めて「地産地消」で世界の農産物を目の前で販売する。このチームの発表は、「おもしろい」と絶賛されていた。  

 

5 日本の農業の未来

 国産やナチュラル&オーガニックにこだわるチームが、ごく少数派ではあったが存在していた。わたしは、このチームの発表について、若干のコメントをした。農産物の争奪戦争が始まるのか?それとも、「第三次グリーン革命」と「フードロス削減努力」によって、世界の農産物供給にボトルネックは以前発生しないのか。100億人が食べられる食料が、引き続き準備できるのか。その歴史的な分岐点にわれわれはいる。

 

 この前提は、わが国の農業がどのように変われるのかの試金石でもある。日本の農業は、サイコロがどちらに振れるかによって、その行く先が変わってくる。このあたりは、8月から始まる予定の『食品商業』(商業界)の連載(農と食の革新、仮)で詳しく議論してみたい。

 いずれにしても、菊池さんの講義内容は、連載の第一回目で登場することになる。