【映画・裏解説】 マイケル・キートン主演「ファウンダー:ハンバーガー帝国のヒミツ」

 映画を観終わったときの第一印象は、「ベンチャー起業家の人生は、“えぐいドラマ”の連続やなあ」でした。そうなのです。依頼された映画の解説を書いている最中も、誰か(たぶん、マクドナルド兄弟)がわたしの耳元で囁いていました。「とてもじゃないが、やつ(レイ・クロック)にはかなわなかった」と。

 さきほど、「東洋経済オンライン」(7月21日~23日掲載予定)に、映画評の原稿(3500字)を提出しました。この映画は実によくできた作品です。しかし、映画を鑑賞した後の後味は、残念ながら、あまりよろしくないのです。

 先日、仕事で米国に滞在していた友人の平石郁夫さんが、海外行きのフライトの機内サービスで、「ファウンダー」を観ていました。平石さんがメールに書いていましたが、「なんとなく後味が悪い作品」なのです。
 米国のマクドナルド本社は、「グローバルにはとくに支援しない」ことを決めて、成り行きを静観しているそうです。それはそうだろうと思います。本場米国でも、こんな評論記事も出ていますから。

 

 昨年、米国で映画が公開された12月に出た論評です(http://time.com/money/4602541/the-founder-mcdonalds-movie-accuracy/)。1990年代の中ごろから、雑誌の『TIME(タイム)』が折に触れてマクドナルドの暗部をえぐろうとしていた形跡があります。創業経営者の嫉妬心と功名心が、この記事にもよく現れています。

 映画の中では、レイ・クロックがマクドナルド兄弟の店をはじめて訪問したとき、兄弟は3店舗(サンバーナティーノ、サクラメント、フェニックス)を経営していたことになっています。しかし、実際には、兄弟はすでに6店舗のフランチャイズ経営をはじめていました。フランチャイズビジネスは、レイ・クロックが着想したものではなかったのです。
 そのほか、映画の中では、270万ドルでクロックが「FCビジネス(商標権と看板)」を兄弟から買い取ったとき、兄弟の目の前で「マクドナルド」の看板を撤収したことになっています。事実はちがうようです。FCの権利を売却する前に、兄弟はすでにリタイアしていました。カリフォルニアの店は、その二年前に長年勤めてくれていた従業員に譲っていたそうです。

 レイ・クロックは、創業者がマクドナルド兄弟であるという事実を闇に葬りたかったのかもしれませんね。しかも、レイの根気(しつこさ=Persistence)たるや、それはすごいですから。彼らの成功の痕跡をどうしても消したかった?そうなのですね。勝者によって歴史は書き換えられているのです。

 同じようなことが、わたしたちの周りでも起こっています。たとえば、二年前に、ニトリの似鳥昭雄さんが『日本経済新聞』に書いた「わたしの履歴書」なんて、”嘘八百”の可能性が高いことがこれでよくわかります。だから、脚色がすぎて、母親とのトラブルになったわけです。
 わたしも、複数の非営利組織の創業者(ファウンダー)です。そして、”ノンフィクション作家”をめざしていますので、適当に脚色するでしょうね。自分の生き様を。まあそんなもんです。レイ・クロックや似鳥昭雄さんのことを、一方的には責められないのです。