特別講演@ローソンファーム社長会 「21世紀の農業者、その社会的な使命」

 ローソンファームの社長会で、講演を依頼されている。特別講演のテーマは、「21世紀の農業者は、社会の中でどのような役割を期待されているのか?」とした。午後からの講演には、全国各地のローソンファームの社長さん23名が集結する。

 

 コンビニエンスストアのローソンが、北海道から九州まで、全国23カ所に「ローソンファーム」という自社農場を展開していることはあまり知られていない。実際には、ローソンの社員が農業に従事しているわけではなく、農場を運営しているのは、比較的規模の大きな地域の農業者たちである。正確にいえば、ローソンが15パーセントを出資して、地域の農家が75%を出資するジョイントベンチャーである(10%は、関連の卸会社などが出資)。
 ローソンファームの第一号は、2010年5月に千葉県の香取市に誕生している。新浪剛史氏(現在、サントリーホールディングス社長)が、ローソンの社長に就任して始めた新規事業である。ローソンファームの売上高は、平均で約一億円。農業経営体としてはかなり規模が大きい。農場主の平均年齢は30代の前半で、経営者が若いところが特徴である。
 ローソンファームの社長さんたち23人が、年2回、全国各地から集って開催される「ローソン社長会」に特別講演者として招待された。講演を依頼された理由は、わたしがローソンを応援しているからである。とくにローソンの農業部門「ローソンファーム」と、健康志向のコンビニ業態「ナチュラルローソン」に肩入れしている理由を、ファームの社長会では話すことになっている。
 以下では、講演の内容を、簡単に紹介する。農業とフードビジネスが担うべき役割は、つぎの5点だとわたしは考えている。その実現に対して、ローソンの二つの部門(ローソンファームとナチュラルローソン)が大きく貢献できる可能性が高い。それが、個人的にローソン(ファーム)を応援する理由である。
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ローソンファーム・特別講演会                   
テーマ:「農と食のイノベーション」
講師:小川孔輔(法政大学経営大学院)
日時:2017年5月19日
1 自己紹介にかえて:
(1) わたしの社会活動・研究活動
 ①1976年~ 法政大学に就職
  研究助手からスタート、現在は経営大学院教授
 ②4つの事業創業(農業分野のみ)
 ・2000年 日本フローラルマーケティング協会
 ・2005年 子会社のMPSジャパン創業(花きの国際環境認証会社)
 ・2006年 生命科学部植物科学科(植物の“お医者さん”の養成課程)
 ・2016年 NOAF(「農と食のネットワーク組織」)設立
(2)なぜ、ローソンとローソンファームに肩入れするのか?
 ①21世紀型の「農と食の理想的なネットワーク」のモデルになりそうだから
 ②研究対象として、ローソン(ファーム)はとても興味深い
 ③ローソン(元ダイエー、今商事)の社風が、わたしの肌に合っている
2 講演:食と農のイノベーション
 テーマ1: 21世紀に、農と食の分野でわたしたちが実現すべきこと
 テーマ2: この10年間で、新しい食ビジネス(商売)がどのように出現したのか?
 テーマ3: 商人(流通)は、農業生産と加工段階に、どこまで関与すべきか?
      21世紀の農業者は、社会の中でどのような役割を期待されているのか?
(1)農と食の21世紀に向けての目標(課題)
 ①フードロスの削減(食べ物を粗末に扱わない)
 ②地球温暖化対策(CO2排出量の大幅な削減)
 ③働き方を変える(人手不足の解消と人間らしい働き方の実現)
 ④食の安全と健康の確保(環境保全型農業、食品添加物の削減)
 ⑤農業と加工業と小売業の提携(チャネルスチュワードシップの実現)
(2)産業革命がもたらした20世紀のビジネスシステム
  「マスマーケティング」の仕組み=大量生産、大量流通、大量販売、マスコミ
   このシステムを支えてきた前提条件は、
 ① 豊穣の時代
  エネルギー革命 = 化石燃料が有り余るくらい、ふんだんにあること
  グリーン革命 = 品種改良と農業技術の革新で農業の生産性が飛躍的に高まった
  消費の民主化 = だれでもどこでも自分の好きなものが買えて消費できる
 ② 組織労働者のプール
  マルクスの原始的蓄積
  農村から都市への人口移動
  豊富な食料の供給(農業技術のイノベーションがもたらしたもの)
(3)私たちの子孫が住まう21世紀の世界は
 ① 不足の時代 ~ 買えない、作れない、運べない、雇えない、食べられない
 ②「動物(人間主体)の時代」から「植物の時代」へ
 ③働き方が変わる時代 ~ 「大学教授」のように皆がフリーランスになっていく
3 ローソンファームの社会の中での位置
(1)いま農と食の世界で起こっていること
 <5つのキーワード>
 ① セレクトMDと「自主MD」
 「食のSPA」(製造小売業)~ 従来は、生産と販売を分業(分離)するシステム
 ② チェーンストア理論と「個店経営」(図表参照)
 ③ F1種子(GMO、遺伝子組み換え作物)と「在来種」(地域の固有種)
 ④ ファストフードと「スローフード運動」
 ⑤慣行農法と「環境保全型農業」
  例示:フードビジネスと企業事例
 ① 日本のホールフーズ 「福島屋」
 ② 100種類の100円パン 「アクアベーカリー」
 ③ 食品ロス削減に挑む地方スーパー 「エブリイ」
 ④ ローカル&ヘルシーの食材をヒットに結び付ける 「ナチュラルローソン」
(2)ローソンがセブン‐イレブンを超える日
 ① なぜ?の回答は、「5つの目標」が、ローソンが取り組んでいる「課題」だから
 ② ローソンとセブンのビジネスモデルの比較(図表参照)
 ・セブンイレブンは、20世紀に成功したビジネスモデル
  21世紀型の食ビジネスにはフィットしない
 ・ローソンの挑戦は、この先10年を見ると、成功確率が高い
  SPA(製造小売業)志向、自主MD、MO制度、調達革命、農業参入
(3)ローソンファームの革新性
 ① 福島屋、エブリィ、ナチュラルローソンのビジネスモデルと連携している
 ② 資本の出資形態(ローソン15%、農家75%、その他10%)
 ③ 事業リスクの取り方(全量買い取り、準ローソンファームの存在)
 ④ 分散型農業FCと加工段階への関与(地域内での自己完結MD)
 ⑤ 近代的農業(GAP、中嶋農法、オーガニック)