ヤマト運輸労組の「宅配便の引き受け抑制要求」について、日経新聞からコメントを求められています

 ご存知だと思いますが、ヤマト運輸労組が会社に対して宅配便の引き受けを抑制することを求めています。ネット通販の拡大で宅配便の個数が大幅に増大して、モノが運べない状態に陥っています。春闘のテーマが宅配便の引き受け抑制だそうで、労使が協議交渉に入っています。

 

 東洋経済(3月4日号)に続いて日経でもこの問題を特集するらしく、サービス業に詳しい識者としてコメントを求められています。本日午後、流通経済部の記者がインタビューに研究室にいらっしゃいます。特集記事は、来週の木曜日朝刊に出るようです。

 この問題に対するわたしの考えは、だいたい次のようにまとめることができます。

 

1 労組からの宅配便の抑制要求は、ヤマトの経営陣に対してもプラスに作用するだろう。ひとつには、実際にモノが運べない状態なので、労組の要求はネット通販などからのリクエストを断るための抑止力になるから。ふたつめは、実質のコスト負担を求めてメーカーや流通に対して値上げを求める口実にもなる。 

 *注1: 日本の物流コストは、諸外国に比較して異常なくらいに低い(売上高に占める物流費は4.7%。米国ではこれが9.3%:2014年実績)。なお、物流会社の売上高人件費率は約40%。道路貨物運送業の労働者は低賃金(現金給与総額=月額29万円、2014年厚労省)で、この部分を負担している。

 

2 宅配便に限らず、日本のサービス業の生産性を低くしている理由の一つが、消費者の要求に丁寧に対応しすぎていること。具体的には、全体の20%と言われる再配達が社会的なコスト負担を強いている大きな原因になっている。この点に関しては、海外の事例(常識)に学ぶべきである。アマゾンに見られるような「無料配達」(昨年、一部廃止)は、そろそろやめるべきだろう。無料配達は、競争の手段をして設計されたものだが、社会的なコスト負担をあいまいにしているだけ。

 *注2: 消費者庁(2015年度)が実施した「消費者に対する宅配の受取についての調査」では、「追記料金がかかるなら最速のタイミングで受け取らなくてよい」が、60.8%もいる。「品目や状況で使い分けたい」が、32.8%。合計では、93.6%になる。確実に最速のタイミングで追加料金がかかっても受け取りたい」は、わずか5.4%しかいない。消費者にコストを意識させれば、もっとゆっくりのサービスが普及して、社会的なコストを低くすることができる。

 

3 米国(UPS)では、再配達にはコストを負担してもらっている。ブラジル(ローカル)では、スーパーに宅配ボックスが置いてあった。中国では在宅率が低いためなのか、通販で購入した商品は職場に届けられる。日本の佐川急便(日通)やヤマト運輸も、中国ではこの方式をとっている。その際に必要なのは、全社共通の宅配ボックスを「社会インフラ」として設置することだろう。

 

4 生協の共同購入やネット宅配システムでは、不在の場合には、宅配ボックスを使ったり玄関に置いていくことを容認している。それができるのは、生協はクラブ会員組織だからで、本部と消費者が信頼関係で結ばれているから。そろそろ、宅配便でも生協のようなクラブ組織を構成すべきではないか? ヤマト自身も、ネットで登録できる会員(クロネコメンバーズ)を組織している。

 

5 コンビニでの商品の受け取りがいまひとつ普及が進んでいない。逆に、物流会社に食品(弁当)や総菜(クール便)などの宅配を請け負わせている。これでは、ますます社会的なコスト負担は高くなる。そのコストは誰が負担しているのだろうか。かつてCVSがB2Bで導入した「共同配送システム」に近い形を、B2Cでも模索すべきではないか?(*一部の企業がマンションなどで取り組みを始めてはいる。) 

 

6 国内の宅配市場と通販市場は寡占状態にある。上位集中が進む一方で、運ぶ手段としての代替的な方法が存在していないため、当然のように上位企業がコスト負担をその他大勢に押しつけてくる。さらに物流費の値上げが簡単に通ってしまう。社会的なシステムとしての物流を政策的に再考すべき段階にあるのではないのか?

 

(補足)ヤマトがなぜ宅配便市場で50%のシェアを維持できているのか?それは、サービスの満足度の違いに由来している。わたしが開発主査を務めてきた「日本版顧客満足度調査(JCSI)」によると、ヤマトは8年連続で宅配便市場でダントツの一位を続けている。二位との差は5点近くある(ヤマト79.9、JPが74.0、2016年)。

 

以上