2016年12月発売の『新潮45』に収録されている拙稿を全文掲載する。この論考は、同名のシンポジウム(パネラー:ローソン・玉塚元一社長、カインズ・土屋裕雅社長、青山フラワーマーケット・井上英明社長)で配布した小川のメモ(2016年1月)が元になっている。後半でローソンの躍進を予言している。
「ローソンがセブン-イレブンを超える日」
『新潮45』2017年新春号(2016年12月18日発売)
文・法政大学経営大学院教授 小川孔輔
<リード文>
コンビニが日本に上陸してから40年。業界トップをひた走るのがセブン-イレブンだ。だが、今後の戦略次第では、勢力図に異変が起きるかもしれない。
■コンビニとは何だったのか
1974年5月15日、東京都江東区豊洲にセブン-イレブンの1号店がオープンした。この記念すべき年に、わたしは大学院に進学した。いまでも鮮明に覚えていることがある。研究室はアカデミックな雰囲気に包まれており、同期生は誰一人として、豊洲にできたばかりのセブン‐イレブンの一号店を見にいこうとしなかったことだ。「コンビニエンスストアは将来、日本でも大きなビジネスになるかもしれないですよ」というわたしの主張に、先輩の院生たちは、「アメリカから渡ってきたあんな中途半端な“万屋”(よろずや)、日本じゃ流行るわけないよ」とにべもなかった。
ところが、いまでは年間約167億人が利用する店舗として、コンビニエンスストア(コンビニ)は日本人の生活にすっかり根付いた感がある。2008年に売上高で百貨店を抜き、小売業では食品スーパーに次ぐ2番目の業態に成長した。その一方で、何度か「コンビニ飽和説」(たとえば「5万店飽和説」)がささやかれてきた。現実はどうかと言えば、2014年には5万店を達成。各社の強気な出店計画が実現すれば、数年以内に6万店の到達は確実であろう。その先、国内10万店もあり得ない話ではない。
本稿では、身近になったコンビニが変わりつつある中で、その裏舞台では何が起こっているのか、今後はどのような方向に向かっていくのかを検証してみたい。これまで、わたしたち経営学者は、コンビ二ビジネスの革新的な側面にばかり着目してきた。主役は、コンビニを運営する本部だった。しかし、現場では、加盟店のオーナー店主やアルバイト従業員など多くのひとが働いている。ここでは、従来は脇役として扱われてきたコンビニ店主の生活経済的な側面なども交えて、客観的なデータでコンビ二の実像を示してみたい。
幾度かの踊り場を乗り越えたコンビニの成長は、いくつかの偶然と、経営を日々革新してきた企業家たちの努力のたまものである。とりわけ、業界リーダーのセブン-イレブン・ジャパンと、先ごろ後継者をめぐる内紛により第一線から退くことになった創業者・鈴木敏文氏の果たしてきた役割が大きかった。同社のイノベーションの核は、米国で生まれたFC(フランチャイズ)システムを日本の事情に合わせて変革し、次々に新サービスを付加していった点にある。メーカーとの協業、物流改革、情報システムの進化、セブン銀行の誕生や各種サービスの導入等は、世界の小売業の歴史に燦然と輝く鈴木敏文氏の功績である。
ところが、コンビニ各社は、このところセブン-イレブンとは異なるサービス革新とマーケティング手法を模索している。経営規模で二位につけているローソンとファミリーマートが差別化に走るのは、継続的なシステムの革新と基礎体力に勝るセブン-イレブンとの同質化競争を避けるためである。ファミリーマートは、親しみやすいブランドづくりと海外事業展開に活路を見出している。実際に、日本とは違って、台湾や上海(中国)では、現地のファミリーマートがセブン‐イレブンをビジネスで圧倒している。 ローソンは、後述するように、農業分野への参入(ローソンファーム)とマルチフォーマット展開(成城石井やナチュラルローソン)に活路を見出そうとしている。それ以外にも、先端的プロモーション手法の開発による集客で特色を打ち出している。
ところで、小売業の発展プロセスという視点から俯瞰すると、コンビニは総合スーパーの新事業として花開いた新しい業態だったと解釈できる。イトーヨーカ堂がセブン―イレブンを、ダイエーがローソンを、西友がファミリーマートを、旧ジャスコがミニストップを、ユニーがサークルKを生み出した。これまでは、基本的に大手流通グループの傘下にあったが、ファミリーマートとサークルKが伊藤忠商事傘下でブランドが統合され、ローソンが三菱商事の子会社になるに及んで、近年は大手商社の影響力が強くなってきている。ローソンの社長には弱冠46歳の竹増貞信氏(三菱商事出身)が抜擢され、ファミリーマートの新社長には澤田貴司氏(伊藤忠商事出身)がスカウトされた。若手経営者に世代交代が進み、業界としても大きな転機を迎えつつある。
■誰がコンビニを支えてきたのか
わが国の戦後商業史は、モータリゼーションの進展とともにチェーンストアが商店街から客を奪っていった歴史である。個人商店が郊外のロードサイド店に置き換わっていく中で、商店街に残った「近くて便利」のニーズを、“5分間のワンストップショッピング”で効率よく置き換えたのがコンビニである。したがって、セブン‐イレブンに典型的にみられるように、初期のFCオーナーたち(Aタイプ=土地・建物所有者)は酒屋や米屋など個人商店からの転業組だった。
データを見てみよう。バブルが崩壊する直前の1990年、全国の小売商店数は約160万店。それが2015年には100万店を切った。約60万店の小売店が25年間で消えてしまった計算になる。それに対して、当時は約2・7兆円だったコンビニの売上高はいまや10・2兆円を超えている。バブル崩壊以降、小売業全体の販売額はほとんど伸びていないから、コンビニが7・5兆円を積み上げた分と60万店の零細な個人商店の消滅の間には、何らかの因果関係があると推察できる(注・経済産業省『商業統計』、日本フランチャイズ協会『コンビニエンストストア統計調査』による)。
近年は、コンビニがファストフード店やカフェから顧客を奪っているという議論もある。しかし、それはごく最近のことで、コンビニ成長の源泉はそこにあるわけではない。 コンビニ1店舗の平均年商は約2億円(10・2兆円/5・4万店)。個人商店の年商は約1700万円。消えた個人商店60万店は売上で約10兆円に相当する。ごく粗い推計になるが、その四分の三(7・5兆円)をコンビニが吸収したということになる。
働き手という観点からこれを眺めてみよう。誰がコンビニを支えているのだろうか。標準的な30坪のコンビニでは、約20人のアルバイト店員が働いている。その半数は一年以内に離職すると言われているが、日本全体ではコンビニが約110万人(5・4万店×20人)の雇用を生み出していることになる。これは、消えてしまった60万店が提供していた雇用(120万人=60万店×2人)に匹敵する大きさである。しかし、2016年度の芥川賞受賞作品『コンビニ人間』(村田沙耶香著)で見事に描かれているように、コンビニは非正規雇用者が働く代表的な職場にもなっている点を見落としてはならない。現実は、個人商店主(夫婦ふたり)が、その10倍の数のアルバイト店員に置き換わったのである。
ところで、コンビニの運営では、直営店はほんの一握りでFCが基本である。FC加盟店(フランチャイジー)の店主は、FC本部(フランチャイザー)とは独立したオーナーである。かつての個人商店主と同じ立場で、経営的には「起業家的フランチャイジー」ということになる。しかし、経営の実態はそれとは大いに異なっている。
例えば、セブン‐イレブンのオーナー募集のやり方に見られるように、加盟店の応募条件には、本人以外に配偶者(あるいは兄弟など)が存在していることが明記されている。「開いててよかった!」(創業期のセブン‐イレブンのCM)を実現するために、24時間365日、夫婦で働けることが条件である。正月や繁忙期にアルバイトのシフトが組めないときや、急にアルバイトが出勤できなくなった場合、夫婦のどちらかがその穴埋めをしなければならないからである。『コンビニ店長の残酷日記』(三宮貞雄著)の冒頭部分は、つぎのような書き出しで始まっている。
「私は現在、ある中核都市の郊外店のコンビニ店長(オーナー)として、一日に平均12時間以上は働いている。(中略)24時間、365日営業。雪が降ろうが、嵐が来ようが店は必ず開ける。というより、閉めることは一時もない。」
■コンビニオーナーたちは苦悩する
それでは、365日休みなく、一日12時間以上は働いている店長(オーナー)の報酬はどの程度になるのだろうか。コンビニのビジネスでは、売上高の約30%を占める粗利益を本部と加盟店が契約にしたがって分配する。チェーンによって収益力や加盟店と間の力関係が異なるので、粗利益の配分方式は異なる。それでも、本部55%、加盟店45%で利益を配分するのが典型的なケースである(土地・建物を本部が準備するC方式)。 その場合は、FC加盟店の標準的な取り分は、年間2550万円(10・2兆円×0・3×0・45÷5・4万店)になる。ここから、アルバイトの人件費や光熱費、廃棄ロスなどを差し引いたのが、加盟店オーナーの収入になる。かつての個人商店主の稼ぎ(約1770万円)とそれほど変わらない手取りになるのである。むしろ重労働の分だけ、コンビニオーナーは割にあわない仕事なのかもしれない。
それに対して、コンビニ上位3社の年間営業利益を合計すると、3420億円になる(図表1)。本部と加盟店の間で、契約や廃棄ロスをめぐって裁判や紛争が絶えないのは、この辺の事情から来ていると思われる。コンビニのビジネスは、チェーン本部が極めてもうかる収益構造になっているが、独立経営者である加盟店オーナーの方はといえば、手取り年収1000万円を超える店主は10%~20%とも言われている。働き方だけを見ていると、近年メディアを賑わせているブラック企業の就業状態よりさらに過酷な実態が見えてくる。
もちろんコンビニ各社は、オーナー店主の事業リスクを減らす努力もしている。本部と加盟店の収益配分について、本部は加盟店の生活を守るために最低保証制度を設けている。たとえば、セブン-イレブンは年間1900万円を、ファミリーマートは2000万円を加盟店の収益として保証している。最も金額的に手厚いと言われるローソンの加盟店では、売上が達成できない場合でも、年間2200万円が保証されている。
とはいえ、コンビニオーナーたちの苦悩はさらに続く。新規出店から15年(セブン‐イレブンの場合)から10年(ローソンの場合)の後には、再契約の時期を迎えるからである。業績がよければそのまま再契約されるが、データを見るとオーナーの約20%については再契約されていない(図表1)。
もっと厳しい現実は、出店に対して加盟店オーナーがほとんど裁量権を持たないことである。チェーン本部としては、出店後に標準より業績が良い店舗立地の周辺には、競合チェーンが進出する可能性がある。競合の出店を阻止したいので、同じチェーン同士で客の取り合いは起こるが、本部は戦略的に自社のシェアを高めることを優先する。ローソンのように、多店舗を経営するマネジメントオーナー制度を導入している企業もあるが、オーナーとの契約は1オーナー1店舗が基本である。となると、本部がドミナント出店(一定の地域に稠密に店舗を配置すること)を経営方針として掲げるかぎり、FCオーナーは既存店の売上を維持することがむずかしくなる。
図表1 コンビニ上位3社の業績と加盟店の経営
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2016年2月期単体
単位 セブン ローソン*1 ファミリーマート
チェーン全体売上高 10億円 4,291 1,960 2,006
<本部>
営業総収入 10億円 794 334 428
営業利益 10億円 235 55 52
売上高営業利益率 % 29.6 16.5 12.1
期末店舗数 店 18,572 11,880 10,834
<加盟店>
店舗当たり売上(/年)100万円 231 165 185
平均日販 万円 65.6 54.0 51.6
契約更新率*2 % 94.2 79.2 72.7
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*1 ローソンのチェーン全体売上高には、連結対象となっている関連会社コンビニ3社の
売上高(820億円)とチケットなどの販売金額(3170億円)が含まれていない。
両方(2.359兆円)を含むと、店舗当たりの売上高は年間1.99億円になる。
*2 日本フランチャイズ協会
■セブン‐イレブンの評価の理由
図表1を見て明らかなように、コンビニ上位3社の中で、セブン‐イレブンが業績的には抜きん出ている。平均日販は65・6万円で、2位のローソン(同54万円)と2割以上の差が開いている。売上高営業利益率(29.6%)でも、ローソン(16.5%)とファミリーマート(12.1%)は全く太刀打ちができていない。小売業の中ではもちろんのこと、セブン‐イレブンの収益性は他業界のトップ企業に比べてもトップクラスである。
それでは、店舗の利用者の評価についても、セブン‐イレブンはダントツなのだろうか? それが、消費者の評価では必ずしもそうとも言い切れないところがある。
図表2は、コンビニ3社のCS(顧客満足、100点満点)を比較したグラフである。2009年から2016年にかけてデータ推移をみると、一度はセブン‐イレブンがローソンを大きく引き離しかけていたCSが、今年の調査ではその差が1.8ポイント差に接近してきている(セブン-イレブン70.2点:ローソン68.4点)。セブン‐イレブンは、店舗への再来店率が高く、来店客の客単価も競合2社に比べてかなり高い。 その結果、平均日販では競合2社と大きく差が開いているが、利用者のCS評価(店舗ブランドに対する満足度)では、わずか3%(対ローソン)と5%(対ファミリーマート)しか差が開いていないのである。
図表2 コンビニエンスストアの顧客満足度CS(上位3社)
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セブン ファミマ ローソン
2009年 67.6 64.1 64.4
2010年 69.6 66.9 65.5
2011年 69.4 67.8 67.4
2012年 70.7 65.8 67.8
2013年 70.3 64.8 64.6
2014年 69.7 65.3 67.0
2015年 70.9 64.9 64.9
2016年 70.2 66.1 68.4
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【出所】サービス産業生産性協議会:
日本版顧客満足度調査(2009年~2016年)
もうひとつ重大なデータを示すことにする。図表3は、今年度(6月)に実施した調査の「感動指数」と「失望指数」の平均値である。感動指数とは、その店を利用して「びっくりした」「うれしい」「楽しい」「興奮した」などの合成指標で、失望指数とは、ブランドの経験に対して「がっかりした」「失望した」などの合成指標である。図表3には、ローソンのサブブランド(業態)であるナチュラルローソンと成城石井(後述)についても、同年8月実施した結果(3つの指標)を並置してある。
ナチュラルローソン(140店)と成城石井(127店)は店舗数が少なく、立地も首都圏に集中している(2016年9月末)。また、成城石井は、ローソン傘下ではあるが、プレミアム食品スーパーに分類されているので、セブン‐イレブンとの直接的な比較はできないかもしれない。
しかし、店舗での買い物体験を表す2つの指標を見る限りでは、セブン‐イレブンがローソンやファミリーマート比べて、顧客から絶対的に支持されているわけではないことがわかる。また、ローソンに関していえば、ナチュラルローソンと成城石井は、より大きな感動(46.7点、52点)とより小さな失望(22.2点、16.2点)を与えている点でセブン‐イレブン(41.6点、23.1点)に勝っている。
JCSI(サービス産業生産協議会)のデータを扱ってきた経験によれば、感動指数が上昇すると、その1~2年後には顧客満足度が高まる傾向がある。 さらに、CSが上昇した翌年か翌々年あたりに、今度は売上や利益などの業績が好転する場合が頻繁に見られる。それとは逆に、日本マクドナルド(2013年~2015年)や東京ディズニーリゾート(2014年~2015年)は、その期間に、感動指数が落ちて顧客満足度が翌年から大幅に下落した。 コンビニ上位3社にも、その法則が当てはまるとすれば、現状では揺るぎないシステムで他社を圧倒しているように見えるセブン-イレブンだが、一般に信じられているほどには、不動の地位がそれほど盤石ではないのかもしれないのである。
図表3 5ブランドの感動指数と失望指数(2016年)
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セブン ファミマ ローソン NL 成城石井
顧客満足 70.2 66.1 68.4 69.3 72.6
感動指数 41.6 39.2 39.8 46.7 52
失望指数 23.1 23.7 21.8 22.2 16.2
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【出所】サービス産業生産性協議会 日本版顧客満足度指数(2016年6月実施)
*ナチュラルローソンと成城石井に関しては、JCSIと同じパネルを用いて8月に実施
■コンビニの未来
2011年の東日本大震災以降、日本社会の中でコンビニの位置づけが変わった。これまでコンビニの成長をドライブして来たものは、「近くて便利」を実現するための事業革新への取り組みだった。だが、全国津々浦々に店舗網が拡大したことで、コンビニに期待される役割は便利さだけではなくなってきている。
少子高齢化が進展する中で買い物弱者に対応すること、災害発生時には市民の拠り所となる場所を提供することなど、コンビニには、①社会のインフラとしての機能を果たすことが求められている。さらに、生活に欠かすことができない存在になったコンビニには、つぎの3つの役割が期待されている。②地域社会への貢献と環境への責任、③食の安全と健康を守る役割、④ローカルの農業者や食品加工業者との関係性の構築。
近未来のコンビニの役割を担えるチェーンはどこだろうか? コンビ二業界の雄で革新性と効率経営に勝っているセブン-イレブンだろうか? 経営統合で売上規模と店舗数でセブン-イレブンに追いつこうとしているファミリーマートだろうか? 誤解を恐れずに言えば、現状の取り組みの中で近未来の理想のコンビニに最も近いのは、ローソンである。その根拠を以下では簡潔に説明してみる。
ローソンの強みは、チェーン内に異なる4つの業態(ローソン、ナチュラルローソン、ローソンストア100、成城石井)と農業生産部門(ローソンファーム)をもっていることである。
これまで日本の小売業が信奉してきたチェーンストア理論によれば、単一ブランドの標準型店舗をできるだけたくさん作ることがよいとされてきた。しかし、規模の経済を求めて、全国一律の品ぞろえとサービスを提供することは、もはや競争優位をもたらさなくなっている。
「マチの健康ステーション」を標榜するローソンの竹増社長は、雑誌のインタビューで、自社ビジネスのローカル対応について、次のように述べている。
「立地によって店の在り方は変わってきています、本部で店の形を決め、全国同じ店にすることは、ニーズに合わない時代です。われわれは商品の幅を広げることで多様なニーズに対応し、町になくてはならない存在にならなくてはいけません」(『週刊ダイヤモンド』2016年10月29日号、69頁)
コンビニに対する批判のひとつに、健康と食の安全への対応がある。たとえば、コンビニで売られている弁当には、賞味期限を長くするために必要以上にたくさんの添加物や保存料が使われている。チュラルローソンでは、商品選択に他社よりきびしい健康・安全基準を設けている。具体的には、商品の選定にあたっては、合成着色料を使用しないことや不必要な添加物を用いないことを品質管理基準にしている。弁当などにも一日の摂取塩分に上限(3.0g)を設けたり、幕の内が合計650kcal未満になるよう設定している。
成城石井の特徴は、国内外から美味しく商品を調達してくる仕組みを持っていることである。成城石井の目利きのバイヤーが仕入れてくる商品の一部は、ナチュラルローソンの店舗にも置かれている。また、ナチュラルローソンブランドの“グリースムージー”のようなヒット商品は、通常のローソンにも横展開されている。同一チェーン内に複数のブランドを展開していることで、グループ全体にビジネスシナジーが生まれているのである。この事業構造(二番目の強み)は、セブン-イレブンにもファミリーマートにもない仕組みである。
ローソンの3番目の強みは、全国23箇所に直営農場(ローソンファーム)をもっていることである。2010年に農業分野に参入した動機は、①青果物の安定調達、②若い営農家の育成、③計画生産・計画販売の仕組みを構築することだった。基本姿勢は、直営農場や加工センターを丸抱えすることではない。地域の有力農家の子弟が社長を務めるファーム事業に、ローソンとして15%出資することである。ローソンファームをハブにして、近隣農家とのネットワークをづくりに邁進するとともに、勉強会を通して栽培技術を農場間で共通化している。2015年の実績では、ローソンファームとその近隣農家が供給している農産物は、ローソングループ全物量に占める売上高の約10%になっている。農場で生産された野菜や加工品は、東名阪を中心に展開する「ローソンストア100」(799店舗)などで販売されている。
ローソンの4つ目の特徴は、商品開発部門の女子比率が高いことである。ローソン全体で、女性社員の比率は16.3%である。ところが、商品本部の女子比率は27.1%と2倍弱に高まる。これが女性向け商品の多いナチュラルローソンとなると、一挙に64.3%になる。ここから生まれてきたのが、スーパーフード(一般の食品よりビタミン、ミネラル、クロロフィル、アミノ酸といった栄養素や健康成分を多く含む植物由来の食品)やグリーンスムージー、健康を訴求したPB(プライベート・ブランド)シリーズのナッツ類である。若い女性たちが、健康や美容を意識しているターゲット顧客と共通目線で商品開発に携わっているのである。
■セブンを超える条件
今年1月、玉塚元一会長(当時、社長)が「1000日全員実行 次世代CVSモデルの構築」という計画を説明する場に立ち会う機会があった。計画の骨子は、①売り場強化(セミオート発注)、②商品力強化(スーパーマーケットの代替機能強化)、③加盟店支援(新FC契約前倒し)だった。3年間(1000日)で、ローソンがセブン-イレブンを超えるために、どのような道筋を描くことが必要ろうか。具体的に数値計算をしてみたのが、以下のシナリオである。
単純化のために、ローソンの日販(店舗当たり一日の売上)を55万円、セブンのそれを65万円とする。平均客数では、ローソン823人、セブン986人である。両社には日商で約10万円、来店客数で約160人の開きがある。3年間(156週)でローソンがセブンの日販で追いつくためには?
答えは、一日100円、一週間で700円(セブンの客単価)、ローソンが売上を増やしていけばよいことになる。つまり、一店舗当たり一週間で1人ずつ、ローソンが固定客を増やしていくことが条件になる。あるいは、2週間に1人ずつ(客単価700円)、ローソンがセブンから客を奪えば、3年間でセブンを日販で抜くことが可能になる。ローソンには、それを叶えるために、4つの強みと4つの飛び道具(複数業態)が準備されている。