「200円カレーの原価率研究所(下)」『日経MJ新聞 ヒット塾』(2016年8月15日号)

 原価率研究所(下)の副題は、「店効率化、常連づくり工夫」。後編では、原価率研究所の低価格販売の仕組みを解説している。大学院生には別のちょとしたブームになるかもしれない。最後の段落に、前編で出した宿題の答えが書いてある。

 

 今回は200円カレーの原価率研究所が、競争の非常に激しいカレー市場で成功できている要因を整理し てみよう。一般的な格安外食店にも、この考え方は応用できるかもしれない。

 カレーライスは自分で作れ、コンビニや持ち帰り弁当店でも買え、ファミレス やファストフード店に行けば座って食べられる。だから、この〝超〞成熟市場で、 味や具材やサービスで差別化することはもはや不可能なように見える。原価率研究所がカレー市場に乗り込んでくるまでは確かにそうだった。超低価格販売(200円カレー)という切り口での参入を考えた経営者がいなかったからである。

 成功のポイントは1杯200円を実現するための、徹底したコストカットとオペレーション上の工夫であ る。順番に整理してみよう。

 テークアウトの客はもちろん、イートインの客もすべてプラスチック容器で食事をしてもらう。使い捨て容器のため水道代がほぼゼロになり、皿洗いの時間と作業スペースが大幅に圧縮できる。キッチンは2坪(6・6平方㍍)だ。

 食材も合理化が徹底している。大手食品メーカーと共同開発したルウには細かく刻んだタマネギが練りこんである。鶏肉(1人前4切れ)と一緒に大なべに放り込むだけ。10分で50人分 のカレーができあがる。

 立地の選択にも工夫がみられる。シャッター通りにある居ぬきの店舗ならば、賃料は通常の3分の1から5分の1程度。しかも、主たる顧客は、複数個テークアウトする目的買いなので、商圏は意外と広く取ることができる。顧客の回転率が高いのも、リピート率と商圏が広いからである。

 税込み200円の価格付けと店舗オペレーションは密接に関係している。釣銭が不要なのだ。自動販売機の飲み物の値段も100円だ。単純な作業環境だから、誰でも店に立ち、すぐに作業を始めることができる。

 さらに工夫が凝らされているのが大中小3種類のク ーポン券の発行である。1枚が200円分。大は28枚綴りで4千円(8枚お得)。中は13枚綴りで2千円(3枚お得)。小は6枚綴り1千円(1枚お得)。1回の最大使用枚数は5枚で、有効期間は1カ月。  一番よく売れるのが13枚綴りである。約8割のクー ポン購入客がこれを選ぶのは、消費者の「妥協効果」を狙ったものである。再来店を促す手段としての微妙な枚数設定などよく考えられたスキームである。

 味は「10点満点の5点でよい」と菅野優希社長は話す。日常食を特別においしく作る必要はないからである。ラーメン店「日高屋」を展開するハイデイ日高の神田正会長は「多くの人に繰り返して来てもらうには、こだわりの味を追求しないこと。食べた人の6割においしいと言ってもらえる味にしようと考えた」と同様のことを述べている。

 では最後に、先週の㊤の質問(200円カレーはどこから顧客を奪っているのだろうか? ①コンビニ② 総菜店③ファストフード④ その他)の答えをお教えしよう。正解は④その他(食品スーパー=内食)である。ルウの家庭消費量の多さと テークアウト比率の高さがヒント。主婦らしき女性がカウンターに並んでいる姿 が目立った。

 

 

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【妥協効果】値段と品質にトレードオフがある3つの選択(例えばすしの松・竹・梅)を与えら れたとき、人間は真ん中を選ぶ傾向があること。最も安い梅が選ばれないのは品質が魅力的に映らないからで、松は最も値段が高いので避ける。結局は、中間の竹で妥協することになる。