JFMAドバイ、ナイロビ、ロンドンツアー#10:君臨するも、統治せず。

 ブラックチューリップGのドバイ支店を訪問した。ケニアにある自社農場250haの他に、インドにも農場を所有している。いわゆるフラワーコングロマリットだ。資本と生産技術はインド。経営者もインド人である。


海下さんによると、約30年前にオランダ人がインドにバラ栽培の技術を移植した。私たちの友人であるインドの航空会社などが、租税の優遇措置を受けてバラ生産に参入している。IFEXに売り込みにやってきていた。
 その後、税金に関する特別措置がなくなって、インドのバラ生産は減少に転じた。しかし、花の栽培技術と農園経営の経験は残された。そんな事情から、栽培の適地であるケニアに、インド人マネージャーが移籍する。
 彼らは、オランダ人やフランス人の下で、バラの農場管理をまかされる。一部のインド人は、ブラックチューリップグループのように、インド資本でお抱えのマネージャー丸ごとがケニアに移り住むことになる。
 ヨーロッパの経営者が、花の栽培方法を現地人に直接指導するのは難しいらしい。地元の労働者とのコミュニケーションが上手に取れるのはインド人だ。だから、彼らを農場のマネージャーとして雇用することになる。白人ができない仕事をインド人が補うことに。
 英国人やオランダ人から見れば、間接的な管理ではある。しかし、これは植民地時代からの方式そのものである。君臨するも統治せず。資本は白人が出すが、現場はよく勝手を知ったインド人に任せる。
 ブラックチューリップ社のようなインド資本が、その間隙を縫って台頭しているのは、世界貿易の縮図のようにわたしには見える。インド人は旧植民地時代の歴史的な事情があり、欧州列強国、とりわけ英国とは相性が良い。長い間の植民地経営で役割分担を心得ている。資本と管理の分業が自然に成り立っているらしいのだ。

 そのように考えると、英国がEUから離脱した後の国際的なグループ再編のシナリオを描くことができる。地政学的に欧州としてまとまるのではなく、旧大英帝国の宗主国として自国を位置付ける戦略である。
 考えてみるがよい。ケニアもインドも旧英国領だ。オーストラリアもニュージーランドも、カナダまでエリザベス女王に敬意を表すると大英帝国の一員である。再び経済的に結びつくこともありえないことではない。
 地理的な国境はすでにない。残るのは、心理的な壁である。それを繋ぐのは、文化的な近さだから、旧宗主国でつながっていることは、大きな意味を持つだろう。TPPや各国間のブロックEPAでは、地政学的な経済性が共通の利害だった。しかし、大英帝国のような歴史文化的な近親性による合同は、また、別の連携や形をもたらす。

 英国人は、来週にはEUからの離脱に投票しそうだ。そのあとに来るのは、大英帝国の復活である。イギリスとて、経済的に孤立するわけにはいかない。同盟国を募るに違いない。ケニアもインドもオーストラリアも、その候補地であることは間違いない。
 別の形で、国際的な合従連衡がはじまる。そうなれば、フランスは、ドイツは、イタリアは。国際貿易の形は、明らかにブロック化に向かう。
 米国はメキシコやカナダなどの周辺国と結ぶのではなく、フィリピンや日本と近くなるのではないだろうか。一般に信じられているように、国際政治は動かないと思う。新しい形で、連合鎖国時代が始まる気がする。
 今度の旅行で、英国とケニアとドバイを通りすぎてそう思った。