日曜日の夕方7時すぎ、老舗うなぎ屋は二軒とも売り切れ!

 両国から森下にかけては、老舗のうなぎ屋や蕎麦屋が軒を連ねている。どぜう鍋や桜鍋などの店もある。この頃は浅草近辺でも見かけなくなった店が、この界隈では元気に生きている。若い客は多くはないが、どの店でも白髪まじりの常連さんが、店主や女将とおしゃべりしながらお座敷で寛いでいる。



 そんな下町に「五月雨式」に引っ越してきて、昨日は2日目だった。わたしが不器用な年寄りであることを知ってか知らずか、元ゼミ長の山口くんが、「引っ越しの手伝いをしましょうか?」と携帯メールからやさしいメッセージをくれた。いつもは頼りにしている新幹線坊やの次男は、連休中で忙しいそうだった。
 お言葉に甘えて、山口に彼のワンボックスカーを出してもらった。仕事で配送をしているからだろう。彼の車には、宅急便やさんが使っている特別仕様の台車が積んである。プロはさすがに手早い。朝10時に千葉の自宅をスタートして、午後1時には森下のマンションの部屋までテーブルと本棚などを運び入れてしまった。
 書斎となる予定のマンションから、市ヶ谷の研究室までは車でも20分。運び込んだ本棚を組み立てる前に、大学まで車をもっていって、研究室の棚からあふれ出ていた本を段ボール4箱分を詰めた。台車ごとマンションの五階まで運び上げて、北側の部屋にまとめて納めた。時刻は午後3時。

 早めに作業が終わったので、追加の照明器具(フロアスタンドとシーリングライト)を買いに、秋葉原の電気街と豊洲のビバホームまで足を延ばした。ところが、どちらの場所でも、イメージ通りの照明器具を見つけることができなかった。電気屋と家電売り場なのに、まともな照明器具は置いていない。
 「品ぞろえが少ないんです」とは秋葉原オノデンの店員さんの言葉。申し訳なさそうでもない彼に、目指す照明器具が置いてある場所を尋ねてみた。「家具屋さんには置いてあると思いますが」との返事。むかしは、秋葉原のヤマギワで照明器具を選んだものだった。いまやニトリや無印良品で照明器具は買うものらしい。
 それにしても、照明器具の品ぞろえの貧弱さにはびっくりした。フロアースタンドなど、数種類して置いていない。あとは、カタログで選ぶのだろうか。店員さんがいないので、それもわからない。

 というわけで、昨夜は、電気スタンド一本で、ひとりさみしく夜を過ごすことになった。照明なしの夜というのは、気持ちが悪いものだ。はじめての場所で心細かった。慣れないせいか、夜中に何度も目が覚めた。
 何度もトイレに立ったのは、山口とふたり、森下駅前の沖縄料理の店で泡盛を飲みすぎたせいでもある。本来は、沖縄料理になるはずではなかったのだった。引っ越しのお手伝いのお礼に、江戸時代創業(創業の地は静岡らしい)の老舗鰻屋の川勇(@石原3丁目)で、いちばん高いうな重をごちそうするつもりだった。
 夕方の7時ごろ、本棚の組み立てもそこそこに、タクシーを捕まえてマンションがある立川(たてかわ)から、うなぎ屋がある石原に向かった。ワンメーター走って、川勇の前で残念な看板を発見した。「本日は、売り切れました」
 日曜日で暮れ始めているが、7時をまだ少し回った時刻だ。そういえば、前回は早々と5時に店に入ったから、わたしたちは最初の客だった。それが、今回は予想だにしなかった事態に遭遇してしまった。がっくりだが、仕方がない。タクシーの運転手さんには、森下の駅前まで戻ってもらった。
 
 戻る途中の両国駅付近に、タクシーの運転手さんが知っている鰻屋さんがあるらしい。少しだけ期待をしたが、この店は連休中はお休みになっていた。結局は、森下駅前の交差点で降ろしてもらった。タクシー代に、無駄な1500円を支払った。痛い教訓だった。
 山口がスマホでうなぎ屋を検索している。ここであきらめたくはない。夕方に備えて、昼ごはんは簡単に終えていた。清澄白河のデニーズで、ふたりとも冷やし中華にしていたからだ。
 森下駅前に一軒だけ、うなぎ屋が検索に引っかかった。清澄通りの反対側にあるらしい。危険な信号を無視して、片側二車線の道をふたりで斜めに渡った。なにせ、気持ちが急いている。
 看板には、「藤田屋」(ふじたや)とある。しかし、またしても、「本日は営業を終わりました」の文字を発見。でも、明かりがついた店の中からは、うなぎを焼いたいい匂いがする。あきらめきれないわたしは、動かない閉店後の自動ドアのノブに手をかけた。手動で扉を横に引いて、中を覗き込んだ。お座敷に座っている常連さんらしき4人組が、わたしの方を見た。
 状況を察してくれたらしい。わたしに向かって、「もう終わりみたいだけど、女将さんに尋ねてみたら?」。おかみさんが、台所の方からすぐに現れた。やはり、でも丁寧に。「もうしわけありません。今日はおしまいなんです」

 一日に二回。うなぎ屋に振られてしもうた! 残念無念。教訓である。日曜日のうなぎ屋は、6時前には店に入るべし。
 そして、あきらめきれないので、「リベンジうなぎ会」を開くことにした。次回は、明後日4日の夕方5時から。無理くりに集合をかけられたのは、またしても山口本人、前の秘書さんの福尾さん、わたしの同居人(かみさん)、そして、わたしの四人だ。絶対に、藤田屋でうなぎを食べるぞ!
 ちなみに、昨夜も、厳密にはうなぎが食べられた。沖縄料理の店は、かわいそうなわたしたちに、島風の味付けの”うざく”を出してくれた。もずくにキュウリに、そして、細切りのうなぎが絡んでいた。とりあえず、山口には、うなぎもどきで満足して帰ってもらった。われながら、性格がしつこいなあ。