2027年に横浜で開催される「花博推進委員会」(事務局)からインタビューを受けた。オリジナルの議事録を再編集して、2回に渡って内容を掲載している。今回は、後半部分(下)になる。前回も紹介したが、三好副会長と道田理事にも回答にご協力をいただいた。
「横浜花博2027有識者ヒアリングから(下):箱ものは作らず、自然な環境で開催すべし」
『JFMAニュース』2022年6月号
文・小川孔輔(JFMA会長、法政大学名誉教授)
(電通)2030年以降、花き園芸産業を引っ張っていく新たなリーダーはどういう方になるか。
■異業種からの参入者がすでに業界の変革・リーダーになっている
消費者を対象にする小売業では、業態にかかわらず変化に機敏に対応できたところが生き残っている。逆に業界慣行や自社の従来型のやり方にとらわれていると衰退するリスクが高い。将来のリーディングプレーヤーは、現在業界内にいる会社や個人ではなく、違う業界から彗星のように現れて新しいビジネスモデルを構築するプレーヤーではないか(道田理事から)。
実例がある。青山フラワーマーケットの井上英明社長は、元々アメリカの会計事務所に研修に行っていた会計士志望の人である。花恋人(カレンド)の野田将克社長(https://karendo.com/?mode=f6)はカネボウ食品で食玩の開発者だった。カネボウが破綻したあと、実家を手伝っていまは30店舗以上に成長している。彼も元々は異業種の人である。
HitoHanaの森田憲久氏も、異業種出身のスタープレイヤーのひとりである(https://hitohana.tokyo/)。切り花や観葉植物を広くロングテールでデリバリーする事業を立ち上げて成功している。彼はIT企業出身で、実家が有名な森田洋蘭園(埼玉県)だ。長男が実家を継いでいるが、自分は独立して起業した。また花のサブスクで伸びているブルーミー(社名変更で「ユーザーライクに、https://userlike.jp/about-us/)の武井亮太氏は、アマゾンで物流を担当していた久保氏や、大田花き市場から女性を引っ張ってきている。10年も経てば、彼らが会社のトップになり、花業界で多くの雇用を創り出すと思う。
■届けられるまでのストーリーの価値で需要が創造されれば、自ずと若い人たちが参入してくる。ジャパンローカルなど、ビジネスチャンスを作り出すことが先決
(電通)生産者が高齢化して国内需給率が下がっている状況の中で、それを食い止められるのか、輸入に頼っていくべきか。
「輸入、国産どちらに頼るべきか」というべき論ではない。SDGsの側面も含めた消費者ニーズ(どんな商品を消費者は求めているか、商品が売り場に届けられるまでのストーリーも含めた『価値』)をとらえた商品が生き残る。その意味では、「輸入だから」「国産だから」という議論はあまり意味がない。また、生産者の高齢化による離農・耕作放棄地の増大などの課題は深刻な問題かもしれないが、誤解を恐れずに言えば、それによって農地の集約化が促進されていっている面もある。農業生産法人の参画などで、国産花きの新たな展開も期待できる。(道田理事)
現状は、輸入と国産で3:7だと思う。コロナで運べなくなっているので、輸入は2割程度にシュリンクしているのではないか(数量ベース)。コロンビアやエチオピア、ケニアで作った低価格で品質保証されたものは安く売れる。ニーズはあるが、物流コストが上がっている。調達面でも、日本が円安で海外に買い負けしている。季節感を代表するような、すこし値段は高いが良質な商品を作る産地をもう一度育成していけばいい。
プレーヤーは変わる。農業従事者のうち65歳以上の人が7割程度を占めている。彼らは10年も経てば全員いなくなる。自然と若い人がやらなければならない。花の生産部門が消える不安はあるかもしれないが、需要が創出されればやる人は出てくる。これからは日本の良いものが見直されると思っている。食べ物も着るものも、そして花き類もそうだ。ビジネスチャンスがあれば、チャレンジ精神のある若い人は自然に育ってくる。
先ほど紹介した若い人たちも、なぜ花の業界に入ってきたかというと、この産業に将来性を見ているからだ。若い人はチャレンジして働く。楽しいし儲かると思えば、やるに決まっている。育成するという発想ではなくて、ビジネスチャンスを作る。インフラを作ることの方が重要だ。議論が逆で、土壌をつくれば若い人はどんどん入って来る。
■施設は最低限にとどめ、自然の中の植物園を歩くイメージに
(電通)横浜に広大な土地があり、官民連携事業も検討中である。この地に花き園芸の将来の発展のための施設を作るとしたらどんなものがあるか。
「博覧会後の土地の活用」というよりも、研究・教育施設の開設などを起点にした博覧会の設計という発想の方が健全ではないか。その意味では、博覧会はあくまで当該施設の「オープニングイベント」的なとらえ方がよい(道田理事)。
施設(箱もの)はいらない。オリンピックの跡地利用など、結局はロクなことにならない。限りなく横浜・瀬谷区の植生にあわせた、人々が集える原生林に戻す。そこにピンポイントで日本原産、日本で育種された花きなどが植わっていれば十分と思う。イメージはThe Morton Arboretumです(https://mortonarb.org/)(三好理事)
自然の中に植物園があるイメージだと思う。USJとかTDLがそのまま植物園になったようなイメージ。その中に日本原産の植物が植わっている原野。来場者が歩いたり走ったりできる。そんな場所にしたらよい。森の中を歩く、原野を歩くというイメージ。建物を作るならば、都市型農業など極端に未来都市的なものに振ればいい。
■未来に向けて人を育てる技術を養う教育・研究機関を
花博の跡地は、未来に向けて人を育てる技術を養う教育・研究機関とする。箱モノ入らない。どうせ壊すだけだろうから辞めた方がいい。オリンピックもそうだった。宴祭のあとでメンテナンスが大変になる。箱物を作るのではなく、教育・研究の場所とする。商業施設はホームセンターに出展してもらうならば体験型店舗にする。
■早い段階にいいコンセプトを作ることが大事
(電通)総括的に博覧会の活用によって、花き園芸業界だけでなく他の業界にも寄与できることは何か。
(既に実施されているかもしれないが)これまで行われてきたいわゆる「博覧会」のレビューと検証に基づき、その教訓を生かした「博覧会マネジメント」の実行を期待したい。「博覧会の活用によるその他領域の発展」に対する答えもそこにあるのではないか。(道田理事)
大阪花博から見てきているが、時間をかけて早い段階でいいコンセプトを作らないといけない。日本の未来のために投資する。業者のためにやるのではなく、広い土地が返還されたので博覧会ができることになったわけだから。関東学院大学の岩崎達也教授と一緒に横浜の町を変えるいうプロジェクトをやったことがある。うまく行かなかった。生活する人のことを考えないと博覧会はあとで残らない。
■緑の人に対するリラックス効果(緑はサプリメント)はビジネス化しているところ
(横浜市植物ライン)大阪花博の後にガーデニングブームが起きて10年近く需要が伸びたと思うが、今回はどんなものを手掛ければいいか。暮らしの中に花や緑など室内緑化が普通にある。オフィスでも効率が上がる、メンタルもよくなるということを訴えるべきと思っている。園芸博を契機に新しい需要を起こすにはどうすればいいか。
院生が鎌倉で起業している。研究室の元学生(法政大学経営大学院卒)の小平裕氏。元々リクルートにいてMBAと中小企業診断士の資格を取り起業した。人間の気持ちがリラックスしてハッピーな状態(ウェルビーイング)を数値で可視化して測定するビジネスだ。
緑の中を歩いていると、人間がどの程度幸せな気持ちになるか?緑はサプリメントだという考え方(サプリメントP)。植物(プランツサプリ)が人間にどういうふうにプラスに作用しているかが、一つの研究テーマでもある。それをビジネスにしようとしている。
■植物を育てる体験は自分で育ててたべるまでのコンセプトネーミングと、ITを絡める栽培プロセスなど、ひと工夫すべき
(横浜市)植物を自分で育てる経験をしてほしい。父の日に自分で作ったひまわりをプレゼントするなら何月何日に種を蒔くということをやっている。どこで蒔いても58日で咲くということを保証する育種もしている。自分で作った野菜は食べるということもあるので、参加してもらうことは重要。
それに関連して、野菜の世界でいえば、「エディブルスクールヤード」という運動がある。自分で野菜を育てて、それをみんなで料理をすると、子供たちは野菜が好きになる。学校の校庭で野菜を作って、みんなで料理を作って食べると、野菜好きの子共になる。
花も同じ。自分で種を蒔いて花壇を作る。ITを絡めてひとひねりする。YouTubeやインスタ、SNSとかそういうものを使って栽培記録をつくる。昔なら手で書いていたが、写真でやる。それをデータとして交換する。今の子どもは最初からタブレットやスマホを持っているのでそこに引っ掛ける。でも、土を触るのは重要。
■いままでの博覧会は人工的すぎる。それを限りなく日本の原野に近くする
(横浜市)大根二段、人参三段のような漢検制度のようなことをやると受けるか。海外から、高くてもいいから安全な美味しいものが欲しいので、日本の野菜を作れる人を派遣してほしいという話はある。日本である程度のスキルを持つ人が技術の輸出として現地に入るということはビジネスとしてあるか。
樹木医などの資格がある人の資格が生きていない。そういう資格をうまく生かすような仕組みを作るといい。「デザインを始め、私も生産をやっている」(金岡又右衛門)。
(横浜市)自然の風景と都会の風景のバランスという話があったが、どんな風景を見たいか。
専門的に研究している人がいるはず。マーケティング研究者なので、ビジネスはわかるが風景はわからない。一般的には、今までの博覧会は施設を見ても人工的にすぎる。会場を限りなく日本の原野(風景)に近いものにする。博覧会の会場では、棚田や里山の水が流れている風景、湿地帯、それをダイナミックに表現してほしい。
■国際的に通用するキャラクターやアニメは入れるべき
(横浜市植物ライン)お金を払って、満足して帰ってもらうことできるか。1千万人はいけるか。
「植物の時代」は来ている。しっかりとしたものを創れば、博覧会にはたくさん人が来ると思う。集客などはほとんど心配することはない。
首都圏で3千万人はいる。横浜ならば、東海地方や関西からも人が来る。ポテンシャルとしてはあるのではないか。大阪花博はどのくらいだったか。もっと来るのではないか。
羽田も近いので、その頃にはインバウンド客も復活しているだろう。例えば、飯能市の一帯がいまは「トトロの森」になっている。国際的に通用するキャラクターやアニメは何かの形で絶対入れるべきだと思う。
■自然な環境の中で「日本の原風景を作る」という発想で博覧会をやる
繰り返しになるが、ナチュラルなテーマパークを作ること。自然な環境の中で博覧会をやるべし。「箱ものは作らないし、コンクリートは残らない」という発想で最初から会場をデザインすればよい。そうであれば、世界中から人が来てくれる。トトロの世界も日本の原風景だ。森と田んぼと住まい。それを再現すれば世界中から人が来る。
トトロ以外の風景も、実は日本にある。「鬼滅の刃」も、時代背景は大正だった。あのアニメも自然の風景で森からスタートする。そうした風景を再現していい。ジブリにもたくさんの作品がある。原風景の再現は良いコンテンツになる。
植物という括り(=花博)だけだと難しいが、日本の原風景が既にアニメの中に存在している。そこに植物や樹木を入れていく。日本の文化や自然の風景を考えれば、横浜花なくは素敵な博覧会になるはずである。