『週刊朝日』(4月8日号)に、自民党の村上誠一郎衆院議員が、野党・民進党について談話を載せている。国政の話なのだが、わが組織の運営についても身につまされる思いで、この記事を読んだ。健全な批判勢力が不在だと、組織全体が誤った方向に進んでしまう可能性が高くなる。
村上議員のコメントは、他人事ではない。どのような組織であれ、それが健全に維持運営されるには、ある種の緊張感が必要である。全員が主流派になってしまった組織は危険である。村上議員の言葉を引用すると、「こんな緩みきった自民党(組織)は初めてです」となる。反対勢力を完全に封じ込めてしまうと、ろくなことにならない。
自己評価をすると、わたしは組織人としては「Bランク」の人間である。つまり、組織の代表者(トップ)としては、パフォーマンス(トラック・レコード)があまり高くない。しかし、40年間にわたる数々の失敗経験が教えてくれるのは、反対意見を自由に堂々と述べることができる組織風土を醸成しておくことが大切だという「痛い教訓」である。
世界の国々を眺めてみると、一党独裁がどれほど国民に大きな負担を強いており、誤った方向に国を導いているかは明らかである。権力を掌握した為政者がしばしば陥りがちなのは、異議を唱える人々を完全に排除してしまう独善である。長い目でみると、まちがった決断を監視する”有能な批判者”を内部に抱えておくことが絶対に必要だと思う。
なぜならば、意思決定の正しさは、反対意見への反論によって確認できるからである。たとえ激論になったとしても、この過程は必要である。このプロセスを踏まないような決定は、どこか「甘く」なってしまう。
村上議員の危惧は、日本の政治のいまについて、実に的確な論評である。
何度も繰り返すが、これは他人事ではない。政治家のレベルが落ちると国政がいまのような状態になる。同様に、大学運営や業界組織の未来は、建設的な批判精神を持った人々を、組織内でどのように育てられるかにかかっている。そのような人材のプールを持っておかないと、将来を担う中心人物たちの能力を磨くことができない。それは、組織にとって不幸なことである。
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自民・村上誠一郎衆院議員「自民党がおかしいのは野党も責任」
(週刊朝日 2016年4月8日号掲載) 2016年4月1日(金)配信
民主党と維新の党が新党「民進党」を結党した。「迫力不足」とコケにするのは簡単だが、頼れる野党の不在が続けば、日本はまるで一党独裁国家。自民党衆院議員の村上誠一郎氏は、与党も野党もたるんでいると危惧する。
私は自民党結党60年のうち30年間、衆議院議員を続けています。こんな緩みきった自民党は初めてです。
若手議員は異常なスキャンダルが止まらないし、大臣は失言や失態が続き、質問にまともに答えられない人もいます。昔なら国会が何日も止まり、内閣が倒れているところです。
自民党がおかしくなってしまったのは、野党にも責任の一端があります。民主党は原発事故の対応などで政権運営に失敗し続け、国民から忌避されてしまいました。それが今も続いているために、自民党がおかしなことをしても支持率が落ちない。それは自民党への消極的支持であって、実体のない支持率。政治の状況としては実に危険です。
しっかりした野党がいないと国会での議論も深まらず、特定秘密保護法のような重要法案が大した議論もなく通ってしまいます。このような丁寧でない政権運営では、自民党はいつか高転びをします。 野党も、社会党の時代は今より戦い方を知っていた。牛歩戦術や審議ストップ、証人喚問など、あらゆるテクニックを駆使してきた。議員もそれぞれの分野のスペシャリストがいて、もっと的確な質問をしていた。
今の議員は原発事故にしても集団的自衛権にしても報道レベルの内容しか調べず、質問に鋭さと深みがない。
あまりにも勉強不足です。例えば、「マイナス金利」など奇策ばかりの経済政策で財政と金融が傷み続けている現状を野党はもっと追及すべきでしょう。なぜやらないのか。
もっとも、財政・金融政策については与党も同じで、党内がイエスマンばかりになり、かつてのような党内での侃々諤々(かんかんがくがく)の議論がなくなってしまった。国会審議が大した議論もなく終わっては、国民には何が事実でどこが問題点かが伝わらない。これは民主主義の危機です。与野党問わず、襟を正す必要があります。
※週刊朝日 2016年4月8日号