「日本DIY協会」の依頼で、8年前から『DIY白書』の総括コメントを執筆している。この調査は、ホームセンター業界(HCと略記)を対象に年一回実施されている。昨年度(調査データは2010年)で22回になるが、企業合併で対象チェーン数が年々減少している。2010年度は、回答企業が50社だった(大手HC企業は76社)。
DIY白書をそのまま引用するつもりはないが、毎年注目している項目がいくつかある。(1)商品構成がどのように変化しているか(商品カテゴリーのシェア変動)、(2)立地が変動しているか(郊外から都市への移動)、(3)商品調達とPB開発のトレンド変化(PB比率の変動)の3点である。その中でも、常にコメントの最初に来るのが、(1)部門構成(シェア)の変化についてである。
ホームセンターは、住関連の商品を扱っている総合小売業である。取扱いのウエイトがもっとも大きいのが、「園芸・エクステリア」(22.3%)である。JFMA会員企業が対象とする商品分野で、花小売業にとってホームセンターは緩い競争相手ある。注目してほしいのは、HC業界の中で構成比が落ちている部門が存在していることである。長期低落傾向が顕著な部門は、「家庭日用品」(19.4%)、「電気」(8.0%)、「インテリア」(6.9%)、「カー・アウトドア」(6.5%)である。これらの部門が、ホームセンターの経営にとって重要度を落としているのはなぜなのだろうか?
結論を簡単に言ってしまう。「カー・アウトドア」や「インテリア」などの部門は、HCにとって強烈なライバルが存在しているからである。各部門の競合相手(カテゴリーキラー)としては、「家庭日用品」ではドラッグストア(マツモトキヨシ、セイジョー等)や100円ショップ(ダイソー、キャンドゥ等)、「インテリア」ではホームファーニシング・家具(ニトリ、イケア)、「カー・アウトドア」ではカー用品店(オートバックス、イエローハット)等である。いずれも専門性をもった手ごわい相手である。しかも、低価格で攻勢をかけてくるので、多くのHC企業にとっては打つ手がないようにも見える。
しかし、反撃の手段がないわけではない。それは、HCが持っている総合性(「ワンストップショッピング」の機能)や顧客(農家や建築施工業者、主婦層)に訴求できる品ぞろえをすることである。店舗立地を変えたり、独自のPB商品開発に努めることである。要するに、競争相手がわかっていれば対応も立てやすくなるのである。
それでは、わが花小売店(花き産業)にとって競争相手は誰だろうか? 花業界以外の競合は明確に見えているだろうか? 「ギフト関連企業(産業規模17兆円)と競争している」とはよく言われていることである。しかし、そうした一般的で「ざっくりとした」表現では、実際のビジネスの戦略を構築にはほとんど役に立たないことが判明した。フラワーバレンタインに取り組んでみて分かったことである。
昨年度、「2月14日に花業界を挙げてキャンペーンを打ってみよう!」と、わたしたち(のチーム)が検討を始めたとき、業界の多くの方たちは最初はずいぶんと躊躇されたものである。いまになって振り返ってみると、うそのような話ではあるが、明確に反対の態度を表明しないまでも、実効性に関しては大いに疑問の声があがっていた。反対意見や大いなる懸念の背後には、大まかにいうとふたつの理由があったように思う。
そのひとつは、競争相手の「チョコレート」(を2月14日に贈る習慣)に対抗することは極めて困難だという考え方だった。チェコレート業界は、40年以上をかけて「告白キャンペーン」を定着させてきた。その習慣を覆すことは、独立独歩の中小企業が集まったバラバラな業界の手には余るだろうという見方だった。たしかにチャレンジング過ぎる勇敢な行為ではある。
しかし、この考え方の盲点は、「バレンタインデーを花贈りの日」とすることに対して、チェコレート業界を競合とみなしたことだろう。たしかに、初年度(2011年度)は、チェコレート販売のキャンペーンを展開している百貨店は、フラワーバレンタインを大々的に実施することをやや渋った感じがあった。
ところが、実際にやってみると、チョコレートは競合ではないことが分かった。なぜならば、フラワーバレンタインが対象とする顧客は、若い男性だったからである。チョコレートの顧客は女性である。両者のプロモーションのターゲットがもともと違っていたのである。
ふたつ目の反対理由は、『新しい物日』を作るためにキャンペーンを打つために、テレビコマーシャルを打ったり、全国紙に全面広告を掲載したりなど、派手なことをしなければならないと考えたからだろう。
いまの時代は、多額のお金をかけなくとも世間の注目を獲得できる手段がある。結果としてみると、キャンペーンの告知は、基本はネットとパブリシティだけである。プロモーションにかけたお金は、二年間ともにトータルで千万円程度の予算だった。お金がないので、ワーキングチームの無償労働に頼ることになったわけだが、反対意見は思い込み以外の何物でもなかった。
二年目のフラワーバレンタインに関しては、まだ、認知率や購買率などの結果が明らかになっているわけでないが、低予算にもかかわらず、キャンペーンの効果は間違いなく出てきている。なによりも大切なことは、「チョコレートは競合ではないこと」がわかったことである。
したがって、業界を超えたコラボレーション(提携、連携)という切り口から、来年度以降も、さらに打つ手はたくさんあるように思う。