【ビジネス・エスノグラフィー実習】 エアライン搭乗観察調査

 「スターフライヤー」(九州市)の協力を得て、先週末に(11月30日~12月1日)「マーケティング実行論」でサービス経験の観察実習(エスノグラフィー)を実施した。添付資料は、同社に対して提出した企画書である。同様の実習を試みるときに参考になると思い、実施方法やタイムテーブルなどを公開することにした。

 以下の資料は、提案段階のものだが、実際の現場でもほぼ企画書通りの実習が実現できた。
 30日(土曜日)に、羽田発~北九州行の午後便(69便)から順次、学生は5チームに分かれて、スターフライヤーに搭乗していった。1チームが3~5人である。チェックインから降機まで、一連のサービス提供と機材設備をチェックした。
 翌日の午前中は、班ごとにグループワークに時間をとった。午後のプレゼンに備えて、サービスチェックのまとめと提案企画のスライドを作るためである。北九州空港に隣接してるスターフライヤー本社の会議室を、二室お借りすることになった。

 午後には、同社のCS担当者、役員・社員向けてプレゼンテーションを行った。大学院生は4班に分かれて、各班が15分から20分のプレゼンである。(1)搭乗時のサービス評価と(2)新興エアラインとしての戦略提案の二つが、プレゼン時のガイドラインであった。
 スターフラーヤー社からは、本社スタッフの20名の方が参加してくださった。CS担当者、役員だけでなく、整備責任者や客室乗務担当の方も学生に発表を聞いてくださった。
 <Q&A>が予定よりも若干延長になった。帰路の16時30分の便に間に合わなくなりそうになったので、名残惜しかったが、途中で質疑の時間を終わらざるを得なくなった。「今度はじっくり、また東京で!」ということで閉会になった。

 実習の準備段階から、スターフライヤーさんには、本当にお世話になりました。ありがとうございます。学生の皆さんも、ご苦労さんでした! プレゼンはどの班も「A」でした。
 とくに、最後の班が提示したサービスコンセプト=「Quiet&Clean」は、最高によかったですね。スターフライヤーのサービスの本質をついています。目指すべき方向性が明確になっていました。

 以下は、事前の提案内容です(スターフライヤー社向け)。ほぼ、この線に沿って、実習とプレゼンが実現しました。

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「スターフライヤー: ビジネス・エスノグラフィーによる、サービス評価、サービス改善のための提案プロジェクト(案)」
 2012年10月16日(作成)
 法政大学経営大学院 小川孔輔(授業担当教員)

1 調査目的:
 スターフライヤー、顧客満足3年連続№1の秘密をエスノグラフィーの観点から競争要因を見つけ出し、サービスの改善提案につなげる

2 調査対象と調査主体
(1)対象(サービス業務): 11月30日(土)午後~夜間(羽田~北九州/福岡便) 
(2)評価者(調査員): 法政大学経営大学院・社会人学生チーム(3~5班)=最大18名(実際は17名)
(3)搭乗からタクシー下車まで、一連のプロセスの参与観察とその評価(今回はタクシー乗車は無しに)

3 (解説)「ビジネス・エスノグラフィー」とは?・・・

 通常の消費者調査(マーケットリサーチ、コンシューマーリサーチ)では、消費者から直接、ブランド認知や製品への態度、購買心理などをたずねる方法がふつうです。サービス利用者に対するアンケート調査である「JCSI」もそのひとつです。また、実際の購買行動の結果をシステムとして収集する方法(POSデータ、消費者パネル調査など)も、市場調査では頻繁に利用されている手法です。

 ただし、こうした手法には、大きな欠点があります。すなわち、
(1)消費者は自分の意識や行動を正確に伝えることができないこともある(消費者行動の実際を決定づけるのは、心理の深い層で95%を占める潜在意識であるとの説:大脳生理学の最新理論)。
(2)定量調査だけでは、消費者心理の機微をうまくとらえることができない。

 そのために、従来からの「定性調査」を補うための手法として、「グループディスカッション」(グルイン)や「深層面接法」(デプスインタビュー)などの手法が開発されてきました。しかし、こうした対面での調査手法を用いたとしても、消費者の真実やマーケターにとって有用なオペレーション対応(良いサービスの提供)に対して、有益な知見(インサイト)を得ることができないこともあります。
 そこで、現場で直接、消費者の行動やサービス提供者の振る舞いを観察する技法が開発されました。それが、文化人類学に起源をもつ「エスノグラフィー」です。文化人類学者が、未開人の生活に入り込んで意識や行動を観察したことから、「参与観察」とも呼ばれます。

4 調査方法
 スターフライヤーのCSがなぜ高いのかを、サービスの提供プロセス(SQI手順:提供前、提供中、提供後)にそって、大学院生たち(MS:ミステリー・ショッパーの役割)が評価していきます。主たる調査手法は、前述の「ビジネス・エスノグラフィー」に準拠するものです。

(1)御社のサービス設備(例:機体やシート)やその運営手順(例:運行方法)、
(2)現場でのサービス提供(行動観察による:JCSIでも調査はなされている)。

 
5 参与観察(エスノグラフィー)から期待できること

(1)両調査の評価マッチング
 JCSIの諸指標(6指標+SQIデータ)は、学生に事前に開示しておきます。そこで、現場での観察データとJCSIのデータを突き合わせます。
(2)サービスのグループ評価
 搭乗がいくつかのチームに分かれてなされますから、フライトごとに提供されているサービスのバラつきを見ることができます。
(3)サービスの改善提案
 12月1日の午前中に、体験したサービスと観察結果をもとにして、もっと高いCSを達成するための気づきをシステム的に議論してもらいます。

6 プレゼンテーション・ミーティング
(1)搭乗(11月30日)の翌日午前中(12月1日)に、グル―別に分かれて学生内での議論。
(2)12月1日の午後には、御社の社員の前で、グループ別に発表を行います。
(3)最後に、わたし(小川)と御社のCS責任者がコメントして、社員の皆さんからは学生に質問を受けます。