やさしい笑顔に包まれて: 世田谷区の学童保育施設(ABI-STA)におにぎりを届ける車に同行して

 「おにぎり、ありがとうございます!」。1Fの教室に、女の子たちの笑い声が響き渡る。午前10時45分、ローソンの本部社員が、おにぎり20個(15人分)を紙バックに抱えて、玉川聖学院会館(世田谷区奥沢7丁目)に到着した。会館内にある学童保育施設「ABI-STA」は、午前中に配布を予定している全国約1800カ所の学童施設のうちのひとつだ。

 

 学童施設の運営を担当している大矢純所長(授業学研究所)が、NHKとテレビ朝日の報道取材班を出迎えてくれた。両社の報道記者とカメラマンのクルーは、桜新町2丁目店で狩野優貴さん(世田谷支店長補佐)たち、本部社員がおにぎりを仕分けするところからカメラを回していた。デリバリーの中継店として直営店を選んだのは、大変な時に加盟店に迷惑をかけたくないという本部の配慮からだろう。

 川崎物流センターからは、トレイに入ったおにぎり約100個が、朝早くに店舗に届いていた。おにぎりは4種類で、シーチキンマヨネーズ、おかか、焼鮭ほぐし、日高昆布の組み合わせになっている。こどもひとりが1~2個の設定である。

 そばから見ていて、好き嫌いがあるだろうから、奪い合いにならないかなと心配していた。しかし、まったくの杞憂だった。世田谷の施設では、子供たちがが4種類を仲良く分け合って食べていた。親たちは、それでも別におかずと飲み物を用意しなければならない。学童保育とはいえ、昼食には手間がかかることがよくわかった。

 桜新町二丁目店は、ABI-STA以外に4カ所の学童保育施設を担当している。わたしが桜新町二丁目店に到着した9時半前には、田園調布や府中など3カ所の配達担当者は、電車に乗り込んでお届けに出発していた。社員さんたちは、朝早くからの出勤だったのだ。

   

 この施設には、通常は20人が通ってきている。午前中から来ている子たちは、本日に限っては4人だけ。彼女たち(なぜか全員が小学校1・2年生の女子!)がおにぎりを受け取る様子を、タイミングよく確認することができた。みなさん、とても立派な家庭の子供たちらしく、実に屈託がない。カメラに向かって、報道レポーターの質問に上手に答えてくれている。

 おもしろかったのは、彼女たちがコンビニのおにぎりの食べ方を知らなかったことだ。ローソンのおにぎりは、1-2-3の手順で包装紙をつまんで、自分の手のひらの上で海苔を巻いていく。だから、「手巻きおにぎり×××」と呼ばれている。

 子供たちにとっては、初めて体験する図画工作のようなものだったのだろう。きっと将来、大人(高校生くらい)になったら、ローソンではじめて、手巻きのおにぎりを食べたことを思い出すだろう。ローソンにとって、絶好の「食育」になっている。

   

 全国各地で、延べ1200人のローソン社員が、おにぎりの仕分けと学童保育施設への配送を受け持っている。わたしの現役大学院生もローソンの社員である。彼は、中部地区の担当する配達要員である。自宅から電車で桜新町駅に向かっている途中で、名古屋にいる彼からメールが入ってきた。

 「わたしは名古屋市内3児童保育施設に、いまから配達に行ってきます」(10日午前9時27分)

 なぜか嬉しそうで、メールの文字も弾んで見えた。

 世田谷でおにぎりの仕分けと配送を担当していた狩野支店長補佐も、同じ様子に見えた。奥沢の施設におにぎりの配達が終わって、狩野さんはNHKからインタビューを受けていた。道端での街頭インタビューなのだが、ローソン社員として誇らしそうだった。

 子供たちへおにぎりを配布することになった経緯について、よどみなく答えていた。長めのセリフを一回で、NGなしにスパッと終わらせた。「お見事!」と、心配そうに眺めていた皆さんから拍手が沸いた。

 暗い話題が多い中で、ローソンの取り組みは、まずは社員のモチベーションアップにつながっているように思う。同社の社会的な評価はまちがいなくアップするだろう。

 テレビ朝日はお昼のニューㇲ番組の枠で、NHKは夜7時からの「NHKニュース7(セブン)」で、おにぎり無償配布の様子をオンエアすることになっている。

 

 これまで報道されてきた事実経過をおさらいしてみる。

 ローソンが、新型コロナウイルスの汚染拡大による学校閉鎖で、行き場を失ってしまう子供たちに、おにぎりを配布する案を決めたのが2月28日(金)。メディアに向けて「おにぎりの3万個無償提供」を発表したのが、3日後の3月2日(月)。配布対象は全国の学童保育施設で、当初は3回分(3月10日、17日、24日)で計3万個に達したら申し込みを打ち切るはずだった。

 ところが、おにぎりの無償配布の申し出に、想定していた13倍の申し込みが殺到してしまった。想定外の事態には、ワタミのように申し込みを締め切るはずだった。しかし、この時点でローソンの竹増貞信社長は、申し込みがあった全量を無償提供することを即決した。

 申し込みのあった学童施設全部におにぎりの配布するためには、本部社員と各地区のSV1200人を動員する必要がある。また、直営店での仕分けには、別途で社員の協力が必要になる。相談する時間も調整の手続きにも、十分な余裕がなかったはずである。それでも、竹増社長は全量対応の決断をしたはずである。

 

 本日のニュース報道に、国民はどのように反応するだろうか。残念ながら、わたしは夕方7時からの「NHKニュース7」を見ることができない。これから先も2週間続けて、学童保育施設へのおにぎりの配達は続くことになっている。

 昨日、ローソンさんから頂いた資料(9日時点)によると、本日(10日)の配布数は、14万6千個(1824カ所)。来週の17日が、9万4千個(1107施設)。再来週の24日が、8万4千個(967カ所)となっている。ネットでもリリース記事が公開されている(ローソンのHP参照)。

 かなりの無理を承知で、おにぎりの配布現場を見せてもらうことになった。運営施設の大矢先生からは、学童保育の現場の話を伺うことができた。先ほど、おにぎりをほうばりながら、笑って答えてくれたこの子たちが、日本の未来を拓いていくのだ。頼もしい子供たちだった。きっと午後から通園してくる男の子たちも、この環境の中で立派に育っていることだろう。

 今日だけで全国1800か所へのおにぎりの配布になる。無償提供されたおにぎりの数(約14万6千個)から推測すると、ローソンは9~10万人の子供たちのランチタイムを支援したことになる。ワタミが宅食を安価に配布するなど、子供たちを支援する輪がもっと広がりを見せてほしいと願っているのは、わたしだけだろうか?