TGO(Transit General Office Inc.)の本社ビル@表参道を訪問

 『食品商業』の連載で取材を申し入れていた「トランジットジェネラルオフィス」(本社:港区)に、今月になってアポイントをとることができた。10月10日、オペレーション担当部長の星野天宏(たかひろ)さんにインタビューすることができた。星野さんは、コラボカフェ事業の提携先「㈱レッグス」の谷丈太朗上級執行役員の事業パートナーである。

  
 ご本人に直接会ったことはないが、 この会社のトップはかなり賢い経営者だと思った。創業者の中村氏は、どうみても”人たらし”なのである。必要な人材(駒)をいつのまにか自社に連れてきてしまう”フィッシング能力”は、いま伝記本を書いているロック・フィールドの岩田弘三会長の若かりしころを髣髴とさせる。
 これまで創業経営者をたくさん見てきた。本人に面談しなくても、会社の事業内容と表紙の写真から、そのひとの人となりがわかってしまうものだ。中村さんは、セゾングループを作った堤清二氏と、蔦屋書店を創業した増田宗昭氏とを足して2で割ったような人(かな?)と思う。
 どちらも育ちがお坊ちゃんではあるが、風貌やキャラクターから想像するに、やや増田さん寄りの経営者とみている。
 <ユニークな事業コンセプト>
 ところで、トランジット・ジェネラル・オフィス(以下、TGOと略す)の創業者は、中村貞裕氏(49歳)。会社案内(TGO、Company Book)によると、自社を「カルチュラル・エンジニアリング・カンパニー」(CEC)と定義している。かつてのセゾングループ総裁(堤清二氏)が提唱し、西武百貨店や西友、PARCOや無印良品を誕生させた「文化創造企業」の概念を連想させる。
 同社のブロシュアーは、つぎのように続く。「食、ファッション、アート、建築、デザイン、音楽、イベントをコンテンツにした「遊び場」を創造し、ユニークでエッジのきいたテイストやセンス、サービスを心がけ、常に顧客に満足を提供することを実践していきます」(英訳の文がこれに続く)。
 
 「文化」(Culture)とは、ある特定の時代に特定の場所で生きている人間たちが共有している「信念の体系」のことである(たとえば、『国際マーティング』の基礎本を参照のこと)。文化をエンジニアリングする(今ある文化に手を加える)ということは、当世になかった新しいコンテンツ・ニーズを創作することである。
 TGOが目指しているのは、わたしが想像するに、時代の先を行くテイストやセンスのコンテンツを、多分野の知識を活用し統合しながら創造することである。その対象領域は、したがって、「①食、②ファッション、③アート、④建築、⑤デザイン、⑥音楽、⑦イベント」の7つがコンテンツになる。ただし、あくまでも主対象は、①食(フード)であり、その他(②~⑦)、ユニークで美味しくて美しいフードを提供するための環境を作るものである。そして、「遊び」の文化を生み出す場所(センター)が、国際都市「東京」(TOKYO)なのである。
 TGOの事業分野は、①文化創造部門(クリエイティブ・プロダクション)、②事業運営部門(ビジネス・オペレーション)、③業務支援部門(サービス・サポート)の三部門から構成されている。以下は、わたしのTGO事業の解釈を含む)。
 ①クリエイティブ部門は、遊び場(ホテル、商業施設、カフェ、レストラン、オフィス、住宅まで)の新しいコンセプトとコンテンツを開発する部門。新規店舗(遊び場)をプロデュースする仕事は、基本コンセプトづくりから、内装やロゴなどのビジュアル提案、コミュニケーション・パッケージなどを担当するいくつかのチーム(クリエイティブチーム、PRチームなど)から編成されている。
 ②オペレーション部門は、カフェ、レストラン、ホテルなどの海外ブランドやコラボカフェなどの運営受託を行っている。TGOは、約70業態で約100店舗を運営している。多業態で少数の店舗を運営するためには、通常のチェーンオペレーションとは全く異なるノウハウが必要とされる。人材の採用と育成と派遣方法(割付け)や店舗運営に、TGO固有のノウハウを有している。
 ③サポート部門は、財務から経理、購買、労務に至るまで、企画管理を担っている。事業運営を支援する組織である。
 なお、TGOの本体以外に、子会社として、④ケータリング・イベント会社(トランジット・クルー)、⑤不動産部門(リアルゲート)、⑥人材紹介・人事コンサル会社(ディスパッチャー&パートナー)を保有している。この中でおもしろいのは、④トランジットクルーである。この会社は、レストランやイベントに、特殊な能力を持つ人材をスタッフとしてアテンドする会社である。アルバイトのイケメンの俳優(男優・女優)やワインソムリエなどを、イベントやパーティーに派遣する組織である。
      
 <トランジット・ジェネラルのはじまり>
 以下は、オペレーション担当部長の星野部長さんから伺った話である。1990年代前半、創業者の中村氏は慶応大学の学生だった。卒業後に三越と経営統合する前の旧伊勢丹に就職。伝説のバイヤー藤巻氏に弟子入りしていた。伊勢丹で数年働いたのちに、30代前半で独立開業している。
 カフェの流行しはじめた頃に、父親がレストランを営業していた外苑前のビルの倉庫(階段でしか行けない5階)を改装しカフェを開いた。そのカフェは「office」という名前で、仕事をカフェでするというコンセプトの店舗だった。中村社長は仕事場としても使えるカフェ(ノマドカフェ)のブームを作ったひとりだ。
 TGOの創業は2001年。来年2020は創業20周年にあたる。インタビューさせていただいた星野部長(39歳)がTGOに参加したころ、中村社長はすでに、感度の高いカフェ(Signなど)を10店舗ほど運営していた。店舗のマネジメントは中村社長が自分の人脈で優秀人材を雇用し任せていたらしい。時代の最先端を行くコンセプトカフェだったので、結構評判にはなっていたが、事業的には赤字の店舗もあったらしい。
   
 <星野さん、TGOに入社する> 
 2006年、星野さんがTGOに参加することになる。わたしは知らなかったが、時代は「HoReCafe」(Hotel Restaurant Cafe)のブーム真っ最中。現在でも、TGOが業務の中心に据えているのが、カフェとレストランとホテルであることから、HoReCafeが事業領域であることは自然に思える。
 TGOを有名にした「Sign」は、そのころは代官山と外苑前に2店舗。星野さんはイタリアンや創作和食系の店で働いていたが、Sing外苑店の運営で困っていた友人に誘われ、最初はアルバイトからTGOに入社した。星野さんは笑って答えてくれたが、不思議な縁でTGOに入社、創業者との関係で内部昇進をしていった異才である。わたしは、星野さんを「Operations Creative」の技能に長けた人材とみている。
 なぜなら、料理人の血筋を受け継いでいる星野さんは、短期間で赤字店だった外苑前店を立て直すことができたからだ。基本的な手法は、「店舗を広告媒体にすること」。いわゆる「プロモーション・メディア」として店舗(Sign=看板:まさにサイン看板!)を位置づけることだった。キリン(ビール)とのコラボでは、①店内の装飾から、②メニュー設計までをトータルでプロデュース。③オペレーションも自分で組み立てることに成功した。
 その後は、ハーゲンダッツやスターフライヤーのPRカフェにすることで、カフェの売り上げと広告収入(雑誌タイアップ企画)を同時に獲得するビジネスモデルを完成させた。
   
 <新しいカフェの創造>
 これらは、「ラッピングcafe」と呼んでよい業態である。それまでのカフェとの違いは、企業タイプアップによって、店舗をメディア化することである。ついでに、メニューにも工夫を凝らす手法が開発され、これが現在のコラボカフェの原型になる。
 外苑前店は、60席数で月商1200万円、年商で1.5億円を達成。客単価1500円で客数300人(5回転、日販45万円)。2店舗だったSignを、五反田、霞が関、立川に拡張展開(5店舗)。当初は料理人として採用された星野さんは、店長からエリアマネジャーに転身する。しかし、1店舗のカフェは不成功に終わる。立地(イケていない場所)が不適だったことは素人でもわかりそうなものだが、勢いというのは怖いものだ。
 ところが、さらに、お台場地区に出店して9店舗に拡大。統括マネジャーに昇進した星野さんは、通算で13店舗を任されることになる。この先の「TGOの成長モデル」は、連載の原稿で発表することになる。お楽しみに。