憎らしい演出: 石川康晴さん(クロスカンパニー社長)、岡山マラソンを制限時間ぎりぎりでゴールイン

 週末は、プロジェクト中間報告会で101講義室に缶詰めになっている。教員はA・Bの2組に分かれて、50人の院生全員の発表にコメントをする。学生ひとりの持ち時間が30分。二日間、終日の6時間半、テーマも形式もばらばらのプレゼンをじっと座って聞いているのは、けっこうな苦行である。



 さて、午後の1番目のセッションが終わりかけたころ、手元に置いてあるスマホのメール着信音が小さく鳴った。岡山まで出張に行っている友人から、ショートメールが届いている。マラソン仲間の彼女が経営している会社が、岡山駅近くでセミナーを開催しているはずだった。
 「午後に岡山マラソンを見てから東京に戻るつもりです!」と朝方に東京駅からメールがあったからだった。
 掌の中のスマホの画面で、ショートメールが2本、確認できた。
 「岡山マラソンでゴールした原田さんとすれ違いました。ベネッセのTシャツを着てました」
 ”原田さん”とは、元マクドナルド社長で、現在は地元企業のベネッセでCEOをしている原田泳幸氏のことだ。2月に刊行した『マクドナルド 失敗の本質』を、書籍が発行される前に彼女に贈っていた。原田さん情報は、わたしへのサービスなのだろう。
 それに続くもう一本のメッセージは意外だった。
 「クロスカンパニーの石川社長は、制限タイムぎりぎりでゴールしました」
 クロスカンパニーは、スポーツや音楽など、地元岡山のさまざまなイベントに協賛している。そのことを知ってはいたが、石川さんご本人がマラソンを走るとは。これまで何度も雑誌でインタビューさせてもらっているが、本人からご自身がランナーだとは聞かされていなかった。

 最後の学生の発表が終わって、10分間の休憩になった。事実確認のため、石川さんにメールを入れてみることにした。フルマラソンを完走したばかりで、さすがに疲れてはいるだろうが。アスリートは疲労回復が早いものだ。
 「石川さん、こんにちは。岡山マラソン、完走おめでとうございます。さきほど、たまたま岡山に出張していたランナー仲間の友人から、石川社長のゴールを知らせるメールをいただきました。初マラソンですか? 小川より」
 つぎのセッションが始まって20分ほどしてから、本人から返事が戻ってきた。着替えていたのだろう。
 「ありがとうございます。マラソンは趣味で色々な地域で走っています」
 そうだったのか。またひとり、”走る経営者”を発見してしまった。石川さんもマラソンを趣味にしているらしい。間髪を入れずに、わたしから”探りの”メールを入れてみた。
 「わざわざぎりぎり6時間でゴールしましたね。笑」
 石川さんからは、確信犯らしき返事が戻ってきた。
 「5時間54分でした。注目を集めました。笑」

 マラソンを走ったことがない人のために説明をすると、42KMを制限時間(岡山マラソンは6時間)で走り切ることはそれほど難しくない。ふつうのひとがゆっくり歩くと、一時間に4~5KMのペース。すこし速足で歩けば、時速6KMくらいにはなる。だから、スタミナさえ失わなければ、42.195Kを6時間以内で完走することはふつうにできるのだ。
 マラソンを趣味にしているひとならば、42KMを5時間で完走すること難しくはない。だから、石川さんはわざと制限時間を目いっぱい利用したとしか考えられないのだ。
 友人の女性が、帰りの新幹線の中からメールを送ってきてくれた。石川さんからのメールを、彼女にも転送していたからだった。 
 「(石川社長は)インタビューに答えてビジョンに出てました。特別協賛は、クロスカンパニー1社。協賛は、ベネッセ、ローソン、ポカリスエット」
 笑ってしまった。やはりこれは、地元TV局の視聴者とスタジアムまで来てくれた観衆に対する、特別協賛企業の社長としてのサービスではないか! 石川さんは、マラソン会場を盛り上げるために、はじめから6時間ぎりぎりでゴールインするつもりで走っていたのだ。