明るさが見えた?欧米の花事情: 坂崎さんと三好さんのメールから

先月の最終週(8月27日)に、欧州から帰国したばかりの坂崎さんからメールをいただいた。欧州の花市場について感想を送ってくれたものである。「米国については、現状がよくわからない」ということだった。そこで、さっそく三好種苗の三好社長に電話をいれてみた。米国の携帯が鳴った。夜中だったらしい。ごめんなさい!だった。帰国直後に、三好さんからもメールをいただいた。本HPに、原文をそのままアップさせていただく。



(8月27日、坂崎さんから)

小川先生、

昨日、帰国しました。
「マーケティング入門」ありがとうございました。
本文の中に取り上げていただいていたのでびっくりしました。
(*注:第8章に事例として、坂崎さんが育種した「サフィニア」を入れました)

さて、ヨーロッパの花の市場の状況について何人かの人に聞いてみました。
皆さん私と同じ分野の方ですので、切花の業界の情報は良くわかりません。
鉢物の業界は、昨年末から大量生産品目の価格下落がきつくて、倒産が相次いだようです。
ファレノプシス(コチョウラン)は、ヨーロッパで最近急速に生産規模を伸ばしてきた品目ですが、ついに12cm一本立ての価格が1ユーロまで暴落して、特徴のない品種を大量生産していた企業は破綻したようです。カランコエやポットローズなどでもおなじで、機械化ーコストダウン・大規模化ー安値大量販売の道を歩んできた品目ばかりです。これらの品目では、消費者ではなく生産ラインでコストを下げるための育種が中心になってしまったその結末です。嗜好品を安く売るためにすべてをそのために集中しているのをみて、こんなことが永く続くはずがないと思ったのは10年ほど前です。
一方、花苗を販売している企業の元気さが目立ちます。Kienzler(*ドイツの育種会社)もその例外ではなく活気が感じられました。売り上げがあまり落ちなかった理由を聞いてみると、手軽な楽しみとして家で花を育てる人が戻ってきたからだといいます。そういう意味では、不況になると花の業界は悪くないという仮説が、ヨーロッパでは今回も実証されたといえるかもしれません。会話の中に新たな投資の話が混じっていましたからうそではなさそうです。
アメリカの現状については、なかなか判り難く、生産者は安い種子系にシフトしているのは間違いないようで、種子会社の業績は悪くありません。PWNA(米国PW:プルーブンウイナーズ・グループ)は全体で10%強の売り上げダウンで、設立から続いてきた右肩上がりの成長は一息ついたようです。
地域による格差が激しいようで、カリフォルニアとフロリダの不振振りが突出しているようです。いずれも不動産バブルのひどかった地域でその反動は地域経済に深刻な影響を与えていて、それが花の消費にまで現れているようです。それでも、冬の時代にはいったというような悲観的な話は少なく、やはり不況は花業界にとって悪くないというところでしょうか?

日本は、さてどう判断したらいいのか難しいですね。

まずは、御礼と簡単なご報告まで。

有限会社フローラトゥエンティワン
坂嵜 潮

 坂崎さんのこのメールを、米国から帰国したばかりの三好社長に転送した。わたしからは、「米国の事情を知りたい」とコメントを求めたわけである。詳しいメールを、不調だった三好さんのPCが直った昨日にいただいた。以下にそのまま掲載して、米国の事情を紹介する。

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(8月28日、小川から)

三好さん

お帰りなさい。
(坂崎さんからのメールを)
転送します。米国の状況を教えてください。

小川

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(9月2日、三好さんから)

小川先生

おはようございます。
やっとパソコン復活しました。

毎年この時期に、提携しているアメリカボール社のインターナショナルマネジャーズ会議に弊社子会社M&Bフローラの株主、パートナーとして出席しています。1週間滞在したのですが率直な感想として景況感は昨年と比べると悪くないと感じました。住宅や店舗も昨年のような「ガラ空き状態」を見る機会は減りましたし、シカゴのダウンタウンには全米各地から観光客が大勢来ており活気が感じられました。

「アメリカ企業で給与カットが一服、オバマ政権の大型景気対策の効果が出始めた」といった日経記事が先日出てましたがあながち嘘ではないなと言ったところです。

さて、アメリカの園芸業界ですが私の所感も坂崎さんとそんなに変わらないのですが、小売・生産・種苗の切り口で少し情報を追記させて頂きます。

・小売
野菜苗のブーム。小売りベースで前年対比20%以上の所が多いようです。その分花はしっかりと減っていますが・・やはり園芸大国アメリカですのでそれなりにビジネスは回っているようです。花vs野菜ではなくあくまでも庭を飾るアイテムとして花壇苗と野菜苗の混植が基本です。ここに採花できるような苗(切り花苗)も推奨されています。

・生産
格差が広がっている。今回テキサスA&M大学のDr.Charlie Hall氏のプレゼンを聞く機会があったのですがその中で、ここ数年で全米の花卉生産者の下位15%位は‘毎年’廃業しておりそれを大規模生産者がさらに規模拡大の為に吸収しているとの事でした。ビッグボックスと呼ばれるWalmartやLawsなどが花苗の仕入先を絞っている状況を考えるとその流れと一致してます。もちろん大規模生産者の中でも競争はあるのですがターゲットを明確にし、顧客ニーズ(顕在・潜在)にたいして訴求出来ている生産者だけが生き残っているしますますその傾向は強まるようです。その生産者に対してのアウトプットを担っている種苗会社の役割は大きいですね。

・種苗
坂崎さんの御指摘の通り栄養系から種子系へのシフトは顕著です。ただ栄養系が減った分種子系の花が増えているというよりも野菜苗がカバーしていると言ったほうがいいかもしれません。アメリカでも栄養系を基礎としたブランド苗は完全に成熟しました。先述しました野菜のシェアアップは種苗会社へのオーダーでも顕著に表れており前年対比20%以上です。ちなみにこの傾向は全ての先進国の種子販売でも表れてます。

切り花について少々・・・昨年秋口からのリセッションで壊滅状態に近かった南米(コロンビア、アクアドル)ですがここにきて回復基調です。弊社の秋口以降の予約にも数字で表れ始めました。南米の生産者の淘汰がここで落ち着き、販売先であるアメリカ経済の回復に呼応し明るい兆しが出てきました。

シカゴのダウンタウンが賑わっていたと申しましたが、とにかく町に花が植えられています。玄関口であるオヘア空港も本当に花がいっぱいで素晴らしいです。シカゴ市では緑花(緑化ではありません)に年間予算約2億円を計上しています。また花を植える事によって犯罪件数が減り、観光客が増えているとの事。

日本に帰ってきまして東京の街を見ますと本当に味気ないなあと感じます。
(花の有る生活を推奨するにしても、もう少し視覚で訴えるべきでしょうね。)

三好

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「ふたつのメールに関する小川の感想」

 花産業のプレイヤーたちの市場への適応に関しては、欧米ともに、市場が成熟期に入り、ふたつの動きが顕著であることがわかる。
 ひとつは、経済不況の一年を通しても、価格の下落はあっても、町から花が消えることがなかったということである。20年前から始まった、花苗(ガーデニング)と切花(フラワー)のブームは、完全に定着しているということである。生活の中に、花を取り入れることが人々の気持ちを和ませる効果があることが、当たり前のように欧米のひとびとは理解するようになった。日本を除く先進諸国では、常識になったのである。これは、坂崎さんのコメントにも、三好さんのメールのなかにも、町の様子を表現したくだりを読むと、証拠がたくさん示されている。
 今年の冬に、わたしたち(JFMAツアーグループ)が、英、独、仏、オランダを訪問したときも、同じ印象だった。単価の下落はあっても、切花や花苗の消費が数量として減った印象はなかった。オランダの最近の統計でも、欧州圏内での花や、とくに鉢物の販売が伸びてきている様子が伝えられている。

 二番目の観察である。ただし、坂崎さんの観察に見られるように、コモディティ化した商品分野では、生産者の淘汰かなり激しく進んでいる。日本はその点、もしかすると中途半端なのかもしれない。花の市場が成熟化するまえに、経済不況に陥ってしまった。産業としては不運である。ひとびとが花のよさを知る前に、商品の価格に目を奪われてしまっている。イベントで町に花が溢れた20年前に、欧米のようにふただび戻れることができるだろうか?

 しかし、世界的な野菜苗ブーム(園芸ブーム)は、まちがいなく到来している。野菜と花をどのように産業として融和させることができるのか。花の産業のど真ん中にいて、食(オーガニック野菜やフードビジネス)をも扱う研究者として、ものすごく頭が痛いところではある。それでも、花(植物)の持つ可能性に賭けてみたい。すべてがきびしくみえる状況のなかでも、そのように思う。