小諸そばめぐり「井泉庵(せいせんあん)」

 信州こもろそば振興会が出しているリーフレットに、おいしいおそばやさんのリストが掲載されている。中棚荘の近くに、井泉庵というそばやがあることは、この宿をしばしば利用しているある女性から聞いて知っていた。


ただし、いつも時間がなくて、タイミングがあわない、パンフレットの中だけの、まぼろしのそばやになりそうだった。

 ようやく本日、千曲川ロードレース(15K)を走ったあと、この店に立ち寄ることができた。ちなみに、ロードレースは、1時間18分22秒。一般男子99位(264人中)だった。暑い割には、まずまずのタイムである。

 築100年の民家を、そのまま蕎麦やに改装した店である。懐古園から坂を降りた道の中腹にある。うっかりしていて、車が店の前を通り過ぎてしまった。看板も手づくり風である。駐車場らしきものも見当たらない。

 しかし、日曜日の午前12時前なのに、下駄箱の半分は埋まっている。入口をあがって、すぐ右側が台所である。部屋に通される前に、天ぷらやそばをあげている様子がちらっと見えてしまう。ふつうの家の住人が、お祝いで客寄せをしているふうでもある。案内のおばさんも、まったく気取ったところがない。朝方、畑から野菜を採ってきて、そのまま天ぷらにしているのかもしれない。そんなふうに想像させてしまう。

「お座敷にしますか?テーブル席になさいますか?」と聞かれたので、迷わずテーブル席に案内してもらう。走り終わったばかりで、足の筋肉がまだ硬いからだ。

 喉が渇いていたので、まずはビールを頼んだ。ノンアルコールビール、キリンのフリー。天ぷらせいろが来る前に、小瓶を二本、空けてしまう。ギンギンに冷やしてあるコップに注ぐ。うまい!ふと庭を見ると、白とピンクのコスモスが風にそよいでいる。

 小さくない庭だが、手入れがほとんどされていない。庭の奥に土蔵がある。これも、生活感がある作りで、そばを食べにきた客が庭を眺めながら、ビールで一息入れるのを想定していない。自然のままに、ほったらかしにしてある。

 大正期に建てられた建物のせいなのか、天井が高い。この部屋はニ席。6人使用。当時の家具や置物が、壁きわなどに、雑然と配置してある。時代ものなのだが、この場所にあるからだろう、古い時間に溶け込んでいて、懐古の味をだしている。

 一本目が空いたところで、天ぷらが先に来た。大満足である。リーフレットにあるとおり。地元産のモロコシを薄切りにしてあげた天ぷらがいちばん上に。う~ん、甘くて、絶品。長く曲がった軽井沢いんげん、シシトウにエリンギの天ぷら。

 二本目がほぼからっぽになると、頃合いを見計らったように、手打ちそばのせいろが運ばれてきた。そば粉がやや多いように感じる。これもすこぶるうまい。井泉庵を紹介してくれた女性にメールを打つ。「大満足でした!」と。

「信州信濃の新そばよりも、わたしゃあなたのそばがよい」とは打たなかった。問題メールになりそうだから(笑)。

井泉庵、小諸駅より徒歩15分、小諸インターより車で7分。火曜定休。
営業時間、11:30~21:00。電話、0267223594