昨日に続いて、ローソンファームの見学記(下)をアップする。関係者に途中原稿を読んでいただいた。その際に、前田本部長から、前回のブログ記事に対して、「各ローソンファームの社長からは”感動のメッセージ”が弊社に届いております」とあった。こちらこそ感激である。
*(上)から続く
(4)ローソンストア100への出荷開始
2012年4月から、ローソンマートに浅漬けの出荷を開始。しかし、当初2年間は、大幅な赤字が続いていた。当時ローソンの社長だった新浪氏が登場する、あるエピソードを前田さんから伺った。
2012年の春に、ローソンストア100に向けの浅漬けの試作品を完成した。1パック(袋とパックの2種類)が100円の商品である。たとえば、「減塩 ゆず白菜浅漬け」は内容量が120g。浅漬けのパックを手に持つってみると、ずっしりと重たい。試作品の浅漬けを、手に取って食べてみた新浪社長が言ったそうだ。
「これって、198円の商品じゃないの?」
全国で1000店を超えた「ローソンショップ100」に、100円以外の商品は置かれていない。この浅漬けを100円で出せば、まちがいなく売れる。
それはそうなのだが、通常売価(200円)の半分の値段で出すためには、原料の買い付けや作業工程にさらに工夫をする必要がある。通常の小売での販売商品(粗利30%前後)に比べて、製造原価が約80%を占める利の薄い商売である。
この商品のスペックで、小売価格100円で売ることができれば、美味しさと鮮度は保証できる。あとは原価の低減をどのように図っていくかが課題になる。現在の生産出荷量は、一日4000パックである。ビジネス的にはあまりに小さい規模である。
(5)加工センター間の分業について考え方を変える
ひとつの解答が、工場の移転と規模の拡大(240坪)である。もうひとつの解決法が、仕入れの仕方を、卸市場での仕入れから産地との年間契約に変えていくことである。
この後で紹介するが、現工場は78坪しかなく、すでに手狭になっている。自動パッキングマシンを導入したが、いまのやり方式では作業生産性を向上させようにも、そもそも敷地が狭すぎる。事業を拡大するときの最大の問題は、白菜や大根などの原材料をカットするスペースが取れないことである。
ローソンファームと相談して上で、平川さん親子は考え方を変えてみた。漬物工場を香取プロセスセンターの隣接地に移転すると同時に、野菜の前処理工程を香取プロセスセンターに移管する。「漬物工房 彩」としては、漬け込みとパッキングの作業に専念して、カッティングと洗浄を終えて一次加工された野菜の部材を、香取プロセスセンターから引き取ることにする。
そうすれば、移送の時間がわずか5~10分とはいえ、横持ちの運賃が節約できる。リパッキングの時間が短縮できて、鮮度管理もいま以上にやりやすくなる。もちろん、さまざまな安全管理上の対策や衛生面での作業がさらに徹底できる。
漬物工房としては、工場の移転で拡大した加工スペース(240坪)を利用して、関東圏のローソンの全店舗(4千店)に出荷できる体制を整えることができる。工場完成後の推定出荷数は、一日2万パックになる予定である(現状では日量4千パック)。篠塚社長の香取プロセスセンターは、サラダや弁当の部品の前加工だけでなく、漬物用の野菜の前処理を請け負うことになる。
両者にとって、隣接の工場の稼働率が上がることで原価が大幅に低減できるはずだ。詳しい計算方法は省略するが、漬物工場の場合だけでも、横持ち運賃で3~5%のコストカット、原料の仕入れで3%は原価が低減できるだろう。その上に、規模拡大により操業率も上がるので、野菜の加工プロセスで合理化が図れる。
少なく見積もっても、加工だけで10%のコスト低減は可能になる。規模拡大により多くの品種を扱えるようになるので、販売面(品数を増やせる)のメリットもあるだろう。平川さん親子が、ローソンファーム千葉の加工部門を担う香取プロセスセンターに出資した合理的な理由でもある。大きな小売業チェーンと若い農業者同士が緩やかに連携する理想的な姿を、ローソンファーム千葉に見ることができる。
(6)「漬物工房 彩」見学記(香取市福田)
平川君子さんが運営している漬物工房(彩)は、総勢10人で運営されている。従業員のうち二人がベトナムからの技術研修生である。これまでは「実習生」を受け入れていたが、3年で帰国しなければならなくなる。いまでは、それより長期の就労ビザが下りる留学生(専門学校生)を技術研修生として雇用している。
彼ら・彼女たちの月給手取りは約20万円。ベトナムで働くより約5倍の実入りになる。しかも、ここで得られた漬物の技術は、母国に持ち帰ることができる。
「ベトナム人は漬物を食べるから、きっと彼らは帰ってから商売を始めるとおもいますよ」(君子さん)
78坪の工場は、狭いながらも3つのブロック(作業工程)に分かれている。わたしがみたところ、浅漬けの主原料は、白菜と大根とキャベツなどである。
①入荷した白菜や大根をカットして洗浄する工程。
②カットした野菜を大きなプラスチックの樽で漬け込む工程
(20KGの重しを乗せておよそ一晩)、
③味付け液に浸してから、トッピング計量後にパッキングする工程(手作業)。
それぞれの工程においては、異物混入がないように金属探知などでチェックを怠らない。
最終商品の形状は、袋詰めのもの(自動包装)とプラスチック丸容器(手作業)の2つの形態がある。同じ定価100円でも、袋詰めのほうが分量は多いのだが、数量的にはパックのものが好まれる。コンビニ対応商品だからだろう。
現在の主力商品は、プラスチック丸容器のものでは、
①減塩ゆず 白菜浅漬け
②キャベツと小松菜の浅漬け
③ピリ辛大根の浅漬け
袋物上の商品としては、
④白キムチ
⑤きゅうりと大根の浅漬け
⑥枝豆の浅漬け
それ以外に、ローソン独自の開発商品として、ローソンファームで栽培されている南瓜(さかたのタネと加賀野菜を交配した希少品種)の「コリンキー」とローソンファーム千葉の小松菜をミックスした、
⑦コリンキーのミックス浅漬けや、
ローソンファーム(宮崎と千葉のリレー栽培)で栽培された
⑧丸ごときゅうりの一本漬け
などがある。
(7)将来の目標(わたしの期待)
ところで、漬物業界で最大の企業は、「(株)ピックルスコーポレーション(本社:埼玉県)である。ジャスダックに上場している企業で、売上高は約250億円(2014年)。経常利益率が5%ほどある。セブン‐イレブンやイトーヨーカドに納品している優良企業である。
ピックルスコーポレーションの話題は、わたしが夏季集中授業で静岡に滞在している間にも噂になった。キャベツの育種会社(石井育種場)の奥さん(石井智子さん)が、生徒の一人として教室に座っていたからだった。ピックルスは、静岡にも関連会社が工場を持っている。
会社のHPを覗いてみると、埼玉(大宮)、神奈川(湘南)以外にも、北海道や九州に漬物や惣菜の加工場を持っている。前田本部長が説明してくれたように、生産物流体制に関する運営形態は、セブン‐イレブンに対する弁当での「わらべや日洋」の関係である。ピックルスの各地の漬物工場が、セブン&iグループ向けの工場になっているのである。
とすると、ローソンに対するローソンファーム(グループ)の関係も、同様な分散型加工物流センターの提携関係に近づいていくのではないだろうか。セブン&iグループ(+ピックルス)とローソンの大きなちがいは、提携関係が農業部門を含んだものになっていることである。
わたしが農業FCシステムと呼んでいる原型が、「ローソン方式」(農業生産と加工の6次化)により各地でドミナントに展開できる見通しが立ってきた感じがする。補足取材で漬物工房をインタビューさせていただいたのは正解だった。
最後に、わたしの願望である。ローソンファーム千葉と香取プロセスセンター(+漬物工房)が合体して、新しい形態の生産・加工・物流センターのモデルになってほしい。そして、平川さんには、ピックルスとは違った形で「日本の漬物工場ナンバーワン」を目指してほしいと思う。
篠塚社長にも同様に期待したい。篠塚さんがベンチマークにすべき会社は、「ロック・フィールド」(神戸市)である。香取市に連なる茨城県境の生産や千葉の生産者の一部が、ロック・フィールドのために一次加工を担っているはずである。篠塚さんには、農業者の先輩諸氏よりも、そこからさらに一歩先に踏み出してほしい。