【日経MJヒット塾】「地方発の元気印」(2015年3月23日)

 昨年度に引き続き、【日経MJヒット塾】を担当させて頂いた。今回は、地方に基盤を持つ中小規模の企業についてである。


「地方発の元気印」
法政大学経営大学院教授 小川孔輔
大胆に配布、新市場創る

 地方ブランドが元気だ。
 その1つにスナック菓子「バリ勝男クン」がある。静岡県の老舗かつお節メーカーが引き出物用に販売していた商品のパッケージとコンセプトを変えて2010年に売り出したところ、4年半で500万食以上売る大ヒットとなっている。
全国有数の水揚げを誇る焼津港で代々続く老舗かつお節メーカー、シーラック。現社長の望月洋平氏(38)が父親から事業を継承した08年当時、同社の主力商品は贈答用のかつお節など業務用が中心だった。しかし、少子化や晩婚化で年々婚姻数が減少、引き出物のかつお節市場は縮小していた。
 業務用から転じて一般消費者向け商品の発売を考えていた望月社長が着目したのは、結婚式でよくかつお節と一緒に配られていた「かつおぶしチップ」。かつお節を厚めに削りチップ状にし、しょうゆとみりんで味付けしたおつまみだ。
 参列者に喜ばれる人気商品だったが、一般向けに販売するには問題があった。まず、かつお節をイメージさせるパッケージが地味で目立たなかったこと。業務用販売が中心だったため、一般向けの販路を持っていなかった。かつおぶしチップ自体があまり知られておらず、何らかの方法で認知度を上げる必要もあった。
 望月社長はパッケージのデザインを刷新しようと、地元のマーケティング企画会社に協力を仰いだ。シーラックと一緒に商品企画に携わった販売促進研究所の杉山浩之社長はパッケージを変更する際に「バリ勝男クン」というカツオのキャラクターを創案。これがのちにテレビ局のコマーシャルに登場して静岡県内での認知度は70%となり、地元の人気者になった。
 一方で、望月社長はオリジナル商品の組成にも手を加え、ボリューム感を出すため、ピーナッツを混ぜて食べやすくした。ブランド名はキャラクターの「バリ勝男クン」を採用。小売価格は1袋143円(税抜き)に設定した。
 10年10月の発売に際して、県内のサークルKサンクスでの扱いが決まった。「がんばる貴方を応援、新食感鰹節(かつおぶし)チップ、コンビニで売ってるよ」。こんなキャッチコピーがテレビCMで流れた。
 大ヒットのポイントは地方ならではのプロモーション戦略の創意工夫にある。
 1つは、サッカーJリーグの清水エスパルスの試合で実施した大量のサンプリングである。発売の前月の全試合で、チームが試合で「勝つよう」にと縁起を担いで、スタジアムで1万食のバリ勝男クンを無料配布した。もうひとつは、発売日の前日に偶然に起こった「ラジオジャック」事件である。地元のFMラジオ局が3時間の放送枠を使って「バリ勝男クンという面白い商品が明日発売されます」と放送してくれた。
 放送の終了直前に、望月社長から番組のパーソナリティーに短い携帯メールが送られてきた。「放送を聞いているリスナーの皆さん全員に、当社からバリ勝男クンをプレゼントします!」。このメッセージをきっかけに大ブレークした。
 発売後の約4年半で、バリ勝男くんは累計575万食、直近1年間でも167万食売り上げている。現在では、静岡のおみやげとして、駅構内のキオスクや東名高速道路のパーキングエリアでも売られている。いまや販売は神奈川県や愛知県に広がり、つぎは全国ブランドとしてデビューする段階を迎えている。

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地方(ローカル)ブランド=LB
地方に基盤を持つ中小規模のメーカーが製造販売するブランド。近年、大手小売業がプライベート(PB)商品を開発するとき、LBメーカーと組んでOEM(相手先ブランドによる生産)で全国発売するケースが増えている。