招福亭マーニーのその後: 救出の日、肩から下げたポシェットのお菓子に涙す

 都内の某百貨店のごみ置き場から救出されてから、招き猫マーニーの小川家での滞在が3週間目に入った。考えてみると、あのまま、倉庫に放置しておかれたら、翌週の火曜日には、廃品回収車に乗せられて焼却炉行きのはずだった。一命を取り留めて現在がある。



 わたしとしては、一人子供が増えたようで、家に帰るのが楽しみになっている。尻のでかい猫の置き物なのだが、リビングにいるだけでうれしい。わたしは毎日、晩酌のお供をしてもらっている。
 あの日、車で自宅まで連れてこられたとき、マーニーの肩口からは、金色の細い糸のタスキがかけられていた。かみさんの話によると、マーニーの行く末を心配した仲間たちが、タスキの先にポシェットを縫い付けてくれたのだという。
 ポシェット中には、明治やグリコや森永のお菓子が詰まっていた。わが家に着いて三日目に、ポシェットをほどいてあげたときにわかったことだった。天国に昇って行ったあとで、マーニーがお腹を空かせないよう、職場のみんながお持たせしてあげたのだった。
 覚悟を決めて見送るつもりだったらしく、お餞別だったのだろう。幸せなことに、いまはそのポシェットが不要になった。たすきの糸はほどいて、餞別のお菓子を外した。その代わりに、マーニーは毎日、美味しいお供えをいただいている。

 「冥途の土産」だって? 廃品回収のかご車に乗せられて、トラックでどこかの焼却炉には持って行かれはしなかった。この子は、運の良い猫ちゃんだ。だって、わたしが救急隊で出動して、某百貨店のSバイヤーがマーニーの体を拭いて、本田のCRVまで運んでくれたのだからだ。
 いまマーニーはリビングに鎮座して、小川家のアイドルになっている。この子が来てから、明るいニュースが多い。お金のことではない。どこからか幸運が飛んできているように思うのだ。
 それにしても、あのポシェットを見たときは、不覚にも涙が出てしまった。どこの何物が、この子を捨てようとしたのか? 生きた猫ではないが、会社内には飼い主がいただろうに。噂によると、しばしば百貨店のバザールやキャンペーンに駆り出されていたらしい。
 さんざん働かせられて、薄汚れて役に立たなくなったら、焼却炉行きか! 怒りが込み上げてくる。おれたちに救われて、ほんとによかったな。マーニー(涙)。

 すべては、かみさんから見せられた、一枚のデジタル写真がきっかけだった。かご車のなかで横向きになって、目をむいている太った招き猫がそこに映っていた。その視線が恨めしそうにカメラを見つめていた。わたしは、気の毒になり、決然と飼い主に立候補してしまったのだ。
 かみさんは、とても驚いた。大きな置き物だから、わが家に持ち帰ることなどできない。小さな家ではないが、余分に置く場所などはない。可哀そうだが、とても救えないと思っていたらしい。

 月曜日に、連れて帰ってみると、マーニーは穏やかな目をしていた。招き猫が、本当に福を招いてくれるとは思わない。だが、いや、すでにわが家には、マーニーというかわいい「福」がやって来ているではないか。とにかく救出できてよかった。