【予告】 木戸茂著・小川孔輔監修(2014)『消費者行動のモデル』朝倉書店、近日発売!

 初校の校正作業が進行中らしい。IM研究科在職中に木戸さんが残すことになる著作へ、わたしが「あとがき」を依頼されていた。本日、そのドラフトが完成した。もともとわたしが書くべき本だったのだが、ある時点で、完全に木戸さんに企画を渡してしまった。木戸さん、ご苦労さんでした!



木戸茂著(2014)『消費者行動のモデル』朝倉書店
監修者「あとがき」(ドラフト、初稿) 小川孔輔(法政大学経営大学院 教授)

 本シリーズの最後の著作『消費者行動のモデル』は、完成までに10数年を要してしまった。当初は、シリーズ編者で本書の監修者でもある小川が執筆を担当するはずだった。ところが、紆余曲折があり、未完のままに長い時間が経過していた。そして、二年前(2012年春)、小川の元ドクター課程の学生だった木戸が、母校・法政大学大学院の教授に就任したことを機会に、小川が温めていた企画を全面的に木戸に託すことになった。
 その後、在任期間の二年間、木戸の努力により、本書はシリーズ最後の「モデル本」として日の目を見ることになる。監修者としては、ようやく肩の荷を下ろしたところではある。
 いま現在、法政大学大学院の木戸教授や岩崎達也講師(日本テレビ放送網、執行役員)と一緒に、本書の第2、3章、第7、8章の成果を発展させるべく、「マス広告とSNSに関する新しいコミュニケーションモデルのプロジェクト」(2014年度、電通・吉田秀雄記念財団助成研究)に取り組むことができている。それもこれも、本書を脱稿して執筆に一段落をつけることができたおかげである。木戸教授には感謝である。

 本書の全体の構成について、直接の執筆についてはあまり貢献できなかったものとして、簡単に補足しておきたい。
 本書は、1970年代の半ばから1990年代前半にかけて、ともに大澤豊門下生だった木戸と小川が、大阪大学経済学部の大澤研究の同僚たち(大阪大学の中島望教授、元東京大学教授の片平秀貴氏、上智大学教授の上條哲男氏など)と一緒に学んできた研究の軌跡を整理した成果でもある。したがって、本書の完成をいちばん喜んでくれるのは、日本のマーケティング研究分野ではやや異色だった「マーケティング・サイエンス派」の研究者を多く育てた故大澤豊教授ではないかと思う。

 全体は、10章から構成されている。記述的なマーケティング論になじみがある読者には、「コトラー流」のマーケティング・マネジメントの基本的な枠組みに対応していることがすぐにわかるだろう。
第1章では、いまや古典となったハワード=シェスの「消費行動の基本モデル」からはじまる。第2章と第3章は、ともに広告モデルの解説である。これら2つの章は、執筆者の木戸が得意とする広告コミュニケーションとブランド論の枠組みをベースとしている。第2章は、木戸のドクター論文を反映した内容で、第3章は、木戸が約30年間勤めた職場((株)ビデオリサーチ、最後は常務取締役)での実務家としての成果を反映している。
 第4章から第6章までは、新製品やブランドの普及と採用に焦点があてられている。それぞれのフォーカスは、新製品の普及プロセス(第4章)、心理的な反応(第5章)、商品選択のモデル(第6章)である。
 なお、製品の普及理論の研究(第4章)では、大阪大学の中島望教授やニューヨーク市立大学の高田 教授、京都産業大学の山田昌孝教授の貢献が大きかった。また、第6章で紹介されている「コンジョイント分析」では、監修者の小川孔輔(法政大学教授)や片平秀貴氏(東京大学元教授)が、この分野では国際的な研究で活躍してきた。
 第7章から第9章までは、ダイナミックな消費者行動(集合的な行動)をシミュレーションとネットワークモデルで分析したモデルの紹介になっている。広告への接触と口コミ(第7章)、ブランド選択モデル(第8章)、ポジショニングマップ(第9章)の作り方は、そのルーツをあまり議論することがなくなってきている。ビッグデータの時代に、案外とこのような基本的なモデルの整理は役に立つのではないだろうか?
 最終章の「買い物行動モデル」は、日本人研究者(関西学院大学名誉教授の中西正雄氏など)が約40年前に大きな成果を残した分野である。ハフモデルなどは、GIS(地理情報システム)が普及したいまになっても、実務的も役に立つ枠組みである。

 本書が読者対象としている第一のターゲットは、マーケティング・サイエンスの分野で、消費者行動モデルを学ぶ学部生とモデル分析系の仕事をしている院生やビジネスマンである。各章で紹介されているそれぞれのモデルについて、コンピュータのシミュレーションモデルを、<付録>として付加している理由でもある。
 また、本書を上梓するもうひとつの意味としては、この40年間で進化してきた「マーケティング・サイエンス分野」のモデルを要領よく整理してあるということである。完成したひとつの体系を示すことが本書の目的でもある。
通常の「マーケティング・サイエンス」や「マーケティング・リサーチ」のテキストでは、ここまで丁寧にモデルを記述されてはいない。そのことが、もしかすると本書の最大の強みなのかもしれない。