GMO(遺伝子組み換え作物)が、欧米間の農産物貿易に及ぼす影響は甚大?

 HortBiz(今週号)からGMOに関する記事を紹介する。欧米間の農産物貿易が、GMO(遺伝子組み変え作物)を受け入れるかどうかで、深刻な対立を生み出す可能性があることを報じたものである。日米間の農産物貿易交渉(TPP)にも影響がある論点である。



 実にうかつだった。米国とEUの間でも、TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)と類似した包括的貿易交渉が進行していたのだ。その名も、TTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership:環大西洋貿易投資交渉?)。そのことを、この記事を見てはじめて知った。
 ところが、この交渉がGMOの受容に関する欧米間の立場のちがいで、ご破算になる可能性が出てきた。現在、EUから米国への農産品の輸出は、166億ドル(約1兆6600万円)、米国からEUへの輸出額は99億ドル(約9900億円)である(1ドル=100円換算)。TTIPが合意されれば、両者にとって毎年約1000億ドル(約10兆円)の利益が生まれる。これが、GMOのせいで破談になるというものである。

 この記事とは別のところで明らかになっているのは、それどころか、両地域間での農産品の貿易額が縮小することにもなりかねないという事態である。基本的に、欧州(EU)はGMO技術に対して懐疑的である。
 実際のところ、今回の件に関しては、「グリーピース」(ドイツ)や「英国土壌協会」(チャールズ皇太子が名誉会長)のような、やや過激な自然環境保護団体に勝ち目があるように思う。欧州の市民(一般的な世論)は、GMOとTTIPは根が一緒であって、米国の穀物メジャーとモンサントが推進している「生態系を破壊する行為」であると考えている。
 TTIPのような貿易交渉は、大豆やコーン、あるいは小麦のような農産物の多くが遺伝子操作種子で作られている限りは、EUとしては受け入れが困難である。これが、EU内の貿易共通化政策を促進するとしても、それは別の問題なのである(本文でも指摘はあるが、推進派の立場は明らかに劣勢である)。
 したがって、この案件に関しては、すでに結論は出ているようなものである。GMOを「自然界に対する人間の科学的手段による介入」とみているEU側の立場と、米国の産業貿易政策は和解のしようがない。米国がどんなに頑張っても、両地域の貿易交渉はとん挫する可能性が大である。

 この交渉の行方は、TPPにも影を落とすことになる。欧米間での貿易自由化交渉が決裂すると、TPPも成立が難しくなる。あるいは、交渉内容は大幅に後退する。そのとき、これまであまり日本では話題にならなかった「GMO」が争点になるだろう。
 わたしは、日本国内のTPP反対派が、どうして遺伝子組み換え作物の輸入(実際に相当な額に及んでいる)を論点にしないのか不思議だった。うがった見方をすれば、そもそも日本農業がGMOと化学肥料を前提に組み立てられているからなのではないのかと勘繰ってしまう。
 日本の農業団体は、TPPには反対を表明している。しかしながら、EUの農業団体とは違って、GMOと農薬・化学肥料の使用には寛容である。その理由は、いまの農業のあり方(方法)で説明できるように思う。高額な農業資材、本来は不要な機械の利用、農薬や化学肥料を多投入する農業の姿が本当によいのかどうか。
 いまの農協の経営を支えているのは、そうした非効率で儲からない農業(資材調達、農地の管理技術、農産品の加工・販売方法)の経営基準である。

 そうした観点からしても、欧州と米国の間での農産物貿易交渉の行方は、いまや他人事ではなくなってきている。
*以下では、原文を引用する。もっと詳しい記事は、他にもありそうだが。

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”GMO threat to EU-US trade relationships”
(HortBiz March15, 2014 から抜粋)

The US and the EU face a gap in trade relationships. Strict EU regulations don’t let the US export GM food in the region. The EU is reluctant to buy GM or hormone food from the US. Industry groups think that the world’s biggest trade pact is under threat.

Michael Dolan, a lobbyist for the US Teamsters Union thinks that “there is an enormous gulf between the EU and US positions.” The delegates, who participated in the negotiations expressed their desire to sign the deal before the end of the year. However, low public support has underscored tensions in the issue. Plan’s supporters claim that both parties would be gaining some $100 billion profit per year. They also add that “Transatlantic Trade and Investment Partnership” (TTIP) is under threat from protesters.

In 2012, the EU exported $16.6 billion in farm produce to the US, while US farmers delivered $9.9 billion to Europe. Such big gap was caused by the EU ban to import GM food. Douglas Nelson, a CropLife America adviser thinks that the trade between two parties could be much bigger. “The TTIP is a way to normalize trade with the European Union,” he adds. This Monday, Owen Paterson, the UK’s Department for Environment, Food and Rural Affairs (DEFRA) secretary, said that he supported an EU proposal that may prompt the fast-tracking of GM crops for commercial cultivation in the country.

In response, Greenpeace, Friends of the Earth, GM Freeze, the Soil Association and GeneWatch UK signed a letter to UK Prime Minister David Cameron criticizing the plan. Helen Wallace, GeneWatch UK director, said that GM companies were “desperate to push their GM crops into other countries before the devastating impacts on wildlife and farming destroy existing markets.”

15:30 – Fri 14/03/2014 Bron: The Voice of Russia