1月の欧州旅行の途中から、上の奥歯に痛みを感じていた。固めの牛肉などをかむ切ると、歯肉の奥のほうでギクッと痛みが走る。この数年で二回、近くの歯科医院でマウスピースを作ってもらったのだが、一向に埒があかない。病院を変えてみようかと思っていた。
そこへ「良い歯医者さんがある」とのかみさんからの情報。どうやら女医さんだけの病院らしい。
病院の名前は、「かわすみ歯科医院」。院長さんは、河角小枝子先生。場所は、中央区八丁堀2-21-5。地下鉄日比谷線の八丁堀駅北口(A5出口)より徒歩1分。
駅の階段を上がって振り向くと、「かわすみ歯科医院」の看板が見える。ファミリーマートの隣である。
昨日、訪問する前にHPをのぞいてみた。わたしは、歯医者の治療は全然怖くはない。麻酔(気が遠くなっていく感覚)や切削(頭に響くかなづち音)などは、むしろとても好きな方だ。
歯医者が好きな人間はものすごくめずらしいが、それにしても、いまの治らない痛みはもうたまらない。なんとかしたいと思っていた。
かわすみ先生の説明(HP)によると、
・ひとりひとりの歯の悩みは違うものです。
・痛みや金額、時間などのいろんな不安もあります。
・多くの方にとって、歯医者とは
仕方なく行くところではないでしょうか。
だからこそ、問題を解決して笑顔になっていただきたい…
わたしたちは「やさしい歯医者さん」として
あなたを笑顔にする治療にこだわります。
いわく、かわすみ歯科の治療方針は、以下の3点に要約されます。
1.痛くない治療
2.極力、歯を削らない・失わない治療
3.ご自分の歯を将来も大切に守る治療
小さな歯医者だからこそ、患者さんひとりひとりとじっくり向き合います。
あなたの笑顔が生まれる歯医者を目指します。
この文言、何気に説得力がある。なんとなく歯医者が怖いな!この病院、治療方法が信頼できないのでは?という疑問にやんわりと答えている。行く前から説得力があった。
とはいっても、当日(2月5日)はそれほど期待もせずに、地下鉄日比谷線・八丁堀の駅を降りた。午後4時20分ちょうど。渋谷でJCSIの戦略会議を終えて、市ヶ谷駅の大殺界明けパーティにつなぐ「隙間時間」を利用しての病院訪問である。
エレベーターを降りて、ビルの2F入り口がそのまま病院である。病院のフロアに上がろうしたら、「ちょっとお待ちください!」。ぴっぴーと警告。受付の女性から、理由がわからずにどまどっているわたしに声がかかった。
入り口からちょっとだけ床面が高くなったフロアに、そのまま土足で上がってはいけないらしい。わたしは、すでに受付の前に立っていた。やばい、、、
一瞬だけ”ウォーターサーバー”に見えた”タワー”は、「スリッパの自動供給マシン」だった。治療後に脱いだスリッパを、そのタワーの上に二足ペアでぺたと戻すと、そのまま殺菌されて一番下の出口から「はい、どうぞ」。するりと二足そろって出てくる。わー、おもしろい。だが、びっくりするなあ。
女性たちに大笑いされて、待合室のソファーに、よっこらしょとコートを脱いだ座った。よく見ると、すてきな女医さんとアシスタント(歯科技工士さんと事務)のチームではないか。たしかに、待合に座っている患者さん以外には、男の影がない。女性だけの医院である。なんとなくふわっとした雰囲気で、くつろいだ気持ちになるものだ。
院長は、河角小枝子先生。受付の女性から渡された問診票を書いてから、うがい用の水がコップに自動給水される治療椅子に座らされた。手荷物を目の前において置くのは、近所の歯医者さんと変わらない。
室内の雰囲気が違う。それは、ここには変に近代的な設備でないことだ。ほっと落ち着くよなあ。かみさんも、そんなことを言っていた。「きっといいわよ」が、その通りだった。
先生の治療目標は、HPの記述によると(実際に治療の時も同じようなことを言っていた気がする)、
10年後も、自分の歯でおいしくご飯を食べられるようにする。
つまり、自分の歯で食べらること。にっこりきれいに笑えること。
歯の事に悩まなされないで、みんなで食事ができる楽しい人生。
これが、わたしたちの願いです。
早速、歯科技工士の女性の方が、レントゲンを撮ってくれた。つぎに、かわすみ先生が登場。入念にわたしの痛んだ歯を検診。診断結果は、氷水で滲みるのは、上の奥歯の根元(たぶん歯肉)に二か所、削れている部分があること。それと、虫歯の後を削ったところに埋めた金属の根元が黒くなっている。これも疑わしい。虫歯がある可能性がある。
以上、丁寧に説明してくれた。ふつうの歯科医院では、そこまで詳しく痛みの原因については説明しないものだ。だから、わたしのほうも、ふだんは自分の痛み方やその原因に関して、自分で症状を詳しく説明することもない。
河角先生は、わが詳細な既往歴を聞いてくれた。「患者さんが一番じぶんの痛みがわかっているから。そのような情報が治療には貴重なんです」。歯医者はレントゲンを撮ってパネルは見せてくれるが、先生のようにカメラで撮ったデジタル画像を鏡越しに見せることはなかった。
たしかに、奥歯の付け根が痛んで白く空白になっている。そして、前歯の下の歯茎がピンク色に腫れあがっている。二か所が治療が必要だった。
とりあえず(最初の日)は、二か所の穴をふさいだ。どのような薬を塗布したのかはわからない。説明してくれるといいが、、、まあ、最初だからしつこく質問はやめておこう。
「疑わしい部分がほかにもあるので、時間をかけて(痛みの)原因を突き止めていきましょう(ね)」。なんとはなしに、探偵物語だ。時間をかけて痛みの犯人を追いつめていくのだ。わたしも学者の端くれなので、探索の論理に納得した。
それはそうだろう。痛みの原因には、複数の候補があるのだ。原因を究明するのには時間がかかる。そのことは当然なのだが、時間がかかる理由を説明してくれない。だから、面倒くさくて途中で治療をやめてしまうことが起こるのだ。そのことも、かわすみ医院のHPに書いてあった。
経験に裏打ちされた丁寧な説明だ。かわすみ先生が、わざわざ初診で来てくれたわたしに、そのように説明してくれた理由がわかる。患者さんは、なんで時間がかかるのかを説明されないと、歯医者が利益目的で「何度も通院してください」と言っているとしか思えないのだ。
再度HPから、いわく:患者さんの痛みやコスト、時間などの不安や負担が少しでも軽くなるよう、やさしい診療を心がけています。あきらめず、一緒にキチンとなおしていきましょう。虫歯や歯周病は、治療途中でやめたり、あきらめたりするケースが少なからずあります。(中略)。患者さんの痛みやコスト、時間などの不安や負担が少しでも軽くなるよう、やさしい診療を心がけています。
治療が終わった先生からは、「次回(一週間後の木曜日)ここに来るまでの一週間は、冷たいものや熱いものは、極力控えてください。お薬が効いてくるかどうか。わたしたちは、患者さんの自然治癒力を信頼して治療法を選択していますので」。
ビールや水割り、熱いラーメンなど、刺激物は控えなさい。そういうことなのだろう。しかし、昨夜も今晩も、アルコールで口腔を消毒をしている。具合がよい。とりわけアルコールの消毒液が効いている。今晩はまた、大好きな幸楽苑で、禁断の熱いラーメンと新餃子を頼んでしまった。わたしは、とても素行が悪い患者さんだ。
だが、不思議なことに、もう上の奥歯の根元は完全に治癒している気がする。先生の治療のおかげだ。しかし、先生は何歳なのだろうか? わたしよりは若い気がする。女性は年齢がわからないからな。趣味で音楽をやっていると言っていた。法政のコーラス部と関係があるらしい。次回に聞いてみよう。間接的に謎かけで。