学部を離れてから5年になった。大学院の専任教員になったので、入試とは縁がなくなっていた。が、大学のHPを見ていたら、うれしい記事を発見した。2003年に経営学部長だったころ、当時の学内誌『雑誌法政』の中でわたしが提案した「受験料割引制度」が実現していたことを知ったからである。
法政大学のHPによると、全国統一入試(当初は地方入試導入のため)で複数学部を併願すると、二学部目からは受験料が15000円になる制度が導入されていた。引用してみる。
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<T日程(統一日程)入試で複数学部の併願が可能になります>(2013年4月に配信:法政大学HPより)
1.受験科目
複数学部を併願する場合には、志望する学部(学科)が指定する試験科目をすべて受験する必要があります。数学は学部(学科)により出題範囲が異なるため、学部(学科)毎にに解答する設問を指定します。2014年度入試より、T日程(統一日程)入試で複数学部の併願が可能になります。
受験料の併願割引制度も導入します。
(中略)
3.受験料の併願割引制度T日程(統一日程)入試で複数学部を併願する場合、受験料の割引を行います。 1学部単願の受験料は35,000円ですが、併願2学部目からの受験料は1学部あたり15,000円になります。
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わたしが経営学部の学部長だった頃は、学部入試の受験料が3万円だった。「雑誌法政」に書いた提案(原稿)では、二学部目の受験料が一万円引きの2万円。現在のT日程入試の価格設定とほぼ同じである。
思い返せば、他学部の学部長たちからは、「(神聖な)大学の受験料にディスカウントなんて!」という意見をいただいた。当時、学務担当の常務理事だった文学部の堀江教授は、「複数学部併願受験値引き案」を検討してもくれなかった(「小川君らしい(笑)」と)。
わたしの提案の中には、10年後の現在ようやく実現したものと、いまだに実現していないものがある。以下では、後者のいくつかを紹介する。当時は荒唐無稽だと言われたが、その後に他大学で実現した案もある。
いまだ実現していない提案は、浪人をして翌年も同じ学部(あるいは、同じ大学=法政大学)を受験すると、同年に複数学部を受験するのと同じように、受験料を1万円値引きするというものだった。単純に、「割引クーポン」を応用した発想だった。
「受験したという証拠はどうするのか?」とか、「翌年複数学部を受験したら、二万円値引きにするのか?」など、いろいろなご指摘をいただいていた。その後は、学内でどのように議論されてきたのだろうか? 少なくとも、10年が経過して、ようやく法政大学でも複数学部の受験料割引制度は実現したのだった。
これは、マーケティングでいう「プロモーション・プログラム」のバリエーションである。世間では、ごくふつうのマーケティング実践である。NPOとはいえ、大学もふつうの組織(利益を稼がないと存続ができない)なのだということを、ようやく多くの教職員が理解してきたことの証拠なのだろう。
そうそう、その中でも突飛な案は、「両親のどちらかが法政大学を卒業していれば、その子弟は受験料を「無料」=「¥0」)にする」というものだった。これは究極の「ロイヤリティ・プログラム」なのだが、この案は全員が冗談としかとらえてくれなかった。
しかし、子弟が入学してくれれば、「寄付金」(二桁以上)をいただけるので、元(受験料=「¥0」)は簡単に取れるはずである。そんなに無茶苦茶な案ではなかったはずなのだ。わたしにとっては、しごく真剣な提案だった。
しかも、この案の背景には、大学内に同様な制度があった。2000年ごろまでは、両親が法政大学の「教職員」の場合、付属高校の全額授業料は免除されていた。この制度を利用して、ご子息を付属高校から法政大学まで、ほとんど授業料を払わずに卒業させた教職員が二桁はいるはずである。
あまりの優遇策として、いつの間にかこの教職員子弟優遇制度は廃止された。それでも、法政大学では学部から大学院に進学するときは、いまでも入学金が半額免除になる。わたしはこの制度を悪いと言っているわけではない。裏でこそこそやるのではなく、むしろオープンにして、卒業生全般に広げるならば公平性が高まると主張しているのである。
というわけで、いまどき「愛校心」に訴える施策は、意外に「素敵なこと」ではないだろうか? 私立某大学が箱根駅伝でトップに来たら、その年の受験者が1万人増えたくらいなのだから。
話はちがうが、今年の箱根駅伝往路は、かなり期待ができるらしい(IM研究科の松本教授情報)。大学の財政と受験生対策を考えたら、かつて強かったラグビーとアフリカンフットボールをもっと強化しないと。受験制度をいじるより、運動部強化策のほうが優勢順位が高いのかもしれない。