ロシア訪問日記#番外編: モスクワの街角から+ただのガイド事件

 モスクワ空港に向かうバスから。クレムリン宮殿の観光を終えて帰り道にいる。またまた渋滞中。バラの値段が高いのは、昨日のblogに書いた。1本300~500円でも、街角や空港で男性がふつうに花を抱えて歩いている。決まっている。



 ロシアでは、素敵なカップルには花束がつきものだ。例外はない。白いバラや黄色のスプレイマムを女性に送る習慣があるらしいのだ。日本では考えられないアイテムだ。つまり、白は葬儀の色だからだ。常識はここでは通用しない。

 ロシアの町並み(カフェ文化)や建物の作り、男性が花束を抱えて歩く様など、フランス的な感覚である。なんとも羨ましいかぎりだ。
 空港で見かけた風景。ゲートから出てきた女性に、男性が近寄っていく。手には花束を抱えている。手渡した花束を女性が小脇に抱えて、男性は肩に手を回す。
 これに近い情景を町でごくふつうに見かける。だから、町の通りや空港には、そのための花屋さんをたくさん見かける。ロシア向けの花が、オランダからの輸出で唯一伸びているのが、よくわかる。
 そして、思っていた以上に、花束のセンスがよい。とくに百貨店やショッピングモールに入店しているフローリストは、パリかアムステルダムで経験を積んでいるのではないか。これだけ花のレベルが高いのを見ると、モスクワには、かなりの数の富裕層が存在していそうだ。

 さて、余談である。昨日のこと。花博への入場切符が予約されていなかった。クレームを受けた女性ガイドさんは、松島さん(JFMA専務理事)の抗議に対して、「わたしは聞いてません。自分達で入場券は買ってください」と答えた。
 「そんなはずはない! 日本の代理店に電話してくださいよ」という二回目の苦情にもめげず、彼女の頑なな抵抗は続いた。(ロシア人女性は)頑固そうだ。思い余って彼女は、「わたしは、ただのガイドですから」と言い訳をはじめた。
 ツアーメンバーからは失笑が漏れた。彼女の手配の間違いだったことがあとで判明するのだが。本人から、11人分(本人代金も含む)を返金してもらうことになった。ひとり300ルーブル。約1千円である。

 このあと、昼食から夜の酒盛りまで、「ただのガイドです」がツアーでは流行り言葉になった。彼女は、本名では呼ばれず、いまも「ただのガイドさん」で通っている。
 さらに、たとえば、わたしは、「ただの教授」と呼ばれはじめていた。夜中に松島さんの部屋に、ワインオープナーと氷(水割用)を持ってきてもらおうとして、レセプションに電話する役回りを引き受けざるをえなくなった。

 フロントの受付に、水谷さん(ベルディ社長)が電話した。通じるかどうか?と訝るので、わたしが英語でワインオープナーを依頼することに。電話に出てきたフロントの女性は、「ワインオープナーは持って行く(BRING)が、氷は1Fのバーに取りに行くように」と。例によって、かなりそっけなく答えてきた。
 広島組(宮本さんと坪原さん)が、袋を持って1階のバーまで降りた。氷を持参して、すぐに部屋にもどってきた。しかし、ビールが全部あいても、シーバスリーガルの封が切られても、ワインオープナーは部屋に届かない。すでに20分は過ぎている。

 わたしの心臓は、どきどきものだ。英語が通じてないとなると、「本物の教授」になれないかもしれない。ただの教授の恐怖に苛まれながら時間が経過していく。
 電話から約30分後、#2363のチャイムがなった。メイドさん(ボーイさん?見えない!)がドアの外にワインオープナーを持ってあらわれた。
 「おめでとうございます!」。拍手がわいた。ただの教授になりそうなわたしが、本物の教授として認められた瞬間だ。