個別企業の特定部門の事情を紹介するのは、一般的にはやや問題があるだろう。だが、ヤオコーの花部(門)についていえば、長期的な見通しを持った組織作りが、現在の花販売の好調につなっていることは明らかである。その理由を公にすることは、大手量販店や地方スーパーが今後、花部門の改革に取り組むときの参考になるだろう。
*以下の文章(事例1)は、10月に発売される予定の『花屋さん仕事 基本の”き”』(誠文堂新光社)から、小川の担当分の一部を抜粋、再編集したものである。ヤオコーの花部が、なぜ現在のような好調を維持できているのか。その理由を、花販売への組織的な取り組みから説明したものである。
「第一章」 第一節より。
食品スーパーのヤオコーでは、もともとパート従業員(パートナーさんたち)が、自主的に経営改善の提案をする体制ができている。実際に、店舗の現場を支えているのは店員さんたち(ほぼパートさん)である。売り場を管理する権限は、店長や部門長にあるのだが、実際に販売現場で売り上げを造るのはパート社員である。
したがって、売り場や商品のどこに問題があるのかを考えるように、パート社員の訓練できているかどうかが、売り場改善のカギになる。店長や売り場のチーフだけでは、売り場は進化をしていかない。それでどころか、売り場の維持さえおぼつかないことになる。
そうした仕組みを、花部門の全員がチームとして取り組む体制づくりをすることが大切である。また、チームとして取り組むべき課題を、きちんと実行可能できるように組織が編成されていなければならない。
日本のスーパーマーケットではじめて、この仕組みの導入に成功した「食品スーパーヤオコーの花部門」の組織について紹介してみる。
事例1:食品スーパーヤオコー「花部」
食品スーパーのヤオコー(本社:埼玉県川越市)は、ローカルのスーパーマーケットとしてはめずらしく、2001年に花を専門に担当する部門(「花部」)を設けました。生鮮3品(青果、精肉、鮮魚)に続いて惣菜(デリカ)部門の強化に成功したことが、今日のヤオコーの増収増益を支えてきた要因でした。デリカ部門に続いて、欧米の流通事情に詳しい川野幸夫社長(当時、現在会長)が5番目の“生鮮部門”として育成しようと考えたのが花部門でした。欧米の優れたスーパー(英国のテスコや米国のHEBやホールフーズ)は、優れた花売り場に特徴があります。花部門の育成強化が、日本一のスーパーマーケットづくりに欠かせないポイントだと川野社長は考えたわけです。
日本の食品スーパーでは、青果バイヤーが花部門のバイヤーを兼任していることがほとんどです。また、個別の店舗においても、青果部門のパート従業員がついでの仕事として花を担当していることがほとんどでした。本部要員を増やしていきながら、店舗側でも花を専門に担当する「パートナーさん」(ヤオコーでのパート従業員の呼称)を増やすことにしました。また、ヤオコーは、従来のセルフサービス・フォーマットにこだわらず、一部の店舗(2013年現在、45店舗)では、対面の花売り場を自社で運営することにしました。
せっかく独立させた部門でしたが、結果にはすぐに結びつきませんでした。転機となったのは、2010年に全店舗に導入した「花持ち保証販売」(切り花が5日間以内に枯れたら全品交換)でした。同時に、商品の調達と花束加工をそれぞれ一社に集約して、品質のコントロールに努めました。2011年からは売上が徐々に伸び始めました。そして、2012年には、ヤオコーの全商品部門で、花部門は、既存店の対前年度比売上が最大に伸びた部門(前年対比で108%)になりました。
現在、ヤオコーの花部は、本部の部長1名、バイヤー1名、トレーナー4名、アシスタント・パートナー3名の計9名体制で運営されています。日本のスーパーではもっとも充実した花部門です。ヤオコーの全123店舗の中でも、とくにインショップで運営されている16店舗とセミセルフ(午前中のみ担当者がいる売り場)で運営されている29店舗については、本部のトレーナーがきめ細かな指導をしています。花専任のパート従業員が、日々の売り場と商品の改善に努力できる体制を作ることができたことが、今日のヤオコー花部門の成長を決めた要因だったと考えられます。