『農耕と園芸』(誠文堂新光社)に季節連載しているコラム記事、今回は、「仏花販売の新しい形:キュートな仏花、エコ仏花、ご当地仏花」と題して、仏花のデザインについて提案をしてみた。前半部分は、は、以前に書いたものの焼き直しである(2010年の記事参照)。
1 価格付けと取引システム
本誌『農耕と園芸』(2010年11月号)に、「仏花は不滅である。しかし物日(お盆、お彼岸)の店頭は急激に変わっている」という原稿を書いた。国内の花市場で取引システムを抜本的に見直すべきだという提言であった。仏花の取引に長期相対取引システムを導入することが、国内産地を守ることになるという趣旨のコラムだった(小川の個人ブログに、全文が掲載されている:https://www.kosuke-ogawa.com/?eid=1392#sequel)。
当時の数値を引用してみる。調査対象期間は、9月20日~26日までの一週間、場合によっては、17日~26日までの10日間である。基本的に、売上高の対前年度比で、既存店ベースのデータである(電話での聞き取り調査)。食品スーパーは、対前年比で、102%(A社)、113%(B社)、115%(C社)、118%(D社)、100%(E社)、ホームセンターでは、130%(F社)となっていた。10日間で、対前年比130%である。全国平均では、量販店の花売場が前年度比で110%程度伸びていたと推測できた。
それとは対照的に、花専門店(単独店)は、この期間に売上を5~10%程度落としていた。8月のお盆でもこの傾向は同じだった。専門店の不調の原因は、夏の暑さと供給不足にあるわけではない。仕入価格を反映させた店頭での価格付けに問題があった。わたしはそのように結論付けた。つまり、値ごろ感のある物花には、基本的に需要がある。花屋さんが不調だったのは、店頭で高い値札(国産マム)を見た従来の顧客が、輸入品で値ごろな花を訴求した量販店に流れてしまったのである。
おそらく、この傾向は東日本大震災以降も変化がないだろう。仏壇やお墓に供える仏花の需要が減ることはない。むしろ、震災後は日本人が自らの祖先や日本の信仰心を見直す傾向が見てとれる。やはり仏花は不滅なのである。
2 物花の重要性
一般に言われているようには、仏花の需要は減っていない。なぜなら、意外にも、日本人の信仰心は失われていないからである。日本社会が高齢化していること(年間の死亡者数は増加傾向にある)で、ここ数年間は、墓参りの客で首都圏周辺の道路が大渋滞になっている。このことを、具体的なデータで見てみよう。以下の販売統計は、複数の食品スーパーに納品している加工業者のデータ(約30店舗分)を修正したものである。日本の代表的な量販店の実情を反映しているものと考えられる。
図1は、仏花の納品データである(12月を100として標準化)。月別にみると、8月(+165%)と12月(+100%)に販売が集中していることがわかる。しかし、その他の月でも、12月と比較して、50%を割っている月は二か月間だけである(1-2月の約45%)。仏の花は、安定的に売れている。量販店にとっては販売計画が立てやすい商品であることがわかる。
全体の花販売の中でのシェア変動をみると、さらに仏花の安定度が確信できる。図2は、ロス調整前(納品ベース)の仏花の取り扱いシェアである。8月(55%)と12月(49%)以外では、仏花のシェアが30~45%でほぼ安定している。月別の比率も予測が立てやすいはずである。花売り場にとって仏花は収益源なのだが、そのことに甘んじて、新しい需要を開発する努力をしているように見えないことが気になるのである。
<この付近に、図1(グラフA)と図2(グラフB)を挿入のこと>
そんなわけで、本稿で仏花を取り上げた本当の狙いは、新しい仏花のコンセプトを提供し、具体的なデザイン例を示すことである。
3 仏花の新しいコンセプト(+実例)
本誌の2010年10月号で、先に示したコラムを書いてから、「仏花のカテゴリーに新しい発想を取り入れるためのヒント」を収集してきた。わたしが、友人たちとの討論や店頭観察、ネットでの情報収集から獲得したアイデアは、つぎの3つである。
(1)仏花らしくない“かわいい”仏花(キュートな仏花)、
(2)エコノミー仏花(関西仏花)、
(3)地域に特有の仏花(ご当地仏花)。
それぞれを順番に説明していくことにしよう。こうしたアイデアをもとに、新タイプの仏花をデザインすることで、まったくこれまでになかった新しい市場が開けるかもしれない。それを期待して、業界人たちにアイデアを問うことにしたい。国内の花農家や花農協が、地元(産地)で花束に加工することもできる。
(1)仏花らしくない“キュートな仏花”
別の表現をすると、仏事に使うとは思えないような「キュートな(かわいい)花束」である。花束に入れる素材としては、定番の菊にこだわる必要はない。なんでもありである。最近は、葬儀の花でも、亡くなった方の好きな花(バラやラン)を使うことが特別ことではなくなっている。だから、仏花に、スプレイバラやヒマワリを入れてもおかしくはないだろう。気持ちがこもっていれば、むしろかわいい仏花もOKである。
この「キュート発想」のヒントは、写真1の「ひぐらしブーケ」から来ている。青山フラワーマーケットの日暮里店(「ecute日暮里」の駅ナカ店舗)では、数年間から、このブーケを置いている。駅近くに谷中霊園があるからなのだが、もともと経営者の井上英明社長は、「青山フラワーマーケットでは仏花を置かない!」と宣言していた(カスミソウと仏花は、同社のMD禁止アイテム)。なので、はじめて「ひぐらしブーケ」を見たときは正直、この「掟破り」にびっくりしたものである。需要があるのだから、青フラでも仏花はありだろう。ただし、「どうせうちで扱うのなら、もっとおしゃれにしろ!」と、井上さんから檄が飛んだと想像できる。
というわけで、青山フラワーマーケットのひぐらしブーケには、仏花であることを示すすてきな「タグ」がついている。スリーブも通常のものとは異なっている。これも、すてきなデザインである。山手線内の駅売りなので、ちょっとお値段(788円)が張るのだが、よく売れている。病院にお見舞い用に持参してもおかしくないで残である(不吉だが)。
<この付近に、写真1を挿入のこと>
(2)エコノミー仏花
「エコ仏花」=背丈の短い“コンパクトな”仏花を提案したい。日本の仏壇のサイズが小さくなってきている。お墓の形も、従来の墓石とは異なるデザインのものが登場している。それならば、小さなサイズの仏花や丈の短い仏花が、そうした仏壇やお墓には似合うだろう。短い花材でもよいとなれば、規格外品を利用したり、一本のスプレイマムやスプレイカーネーションを分解してパーツを増やすことができる。結果として、部品点数が増えてバリエーションを増える。それでもトータルのコストは安く仕上がる。一石二鳥である。
このアイデア(丈が短いパーツを用いる)は、従来からある「関西仏花」からヒントをいただいたものである。写真2は、「㈲薔薇園植物場」(本社:兵庫県宝塚市)で、食品スーパーに納品している関西仏花の一例である。部品点数は、6点(サカキ、マム白、マム黄、デンファレ、スプレイカーネーション、スターチス)である(写真3)。いずれも、丈は短く30~40センチである。小売売価は、標準品で498円に設定されている。通常は、一対で購入される。
関西仏花を応用して、関東のホームセンターが試験販売している仏花の事例を紹介する。写真4は、6月27日に開店した「カインズホーム本庄早稲田店」で、新たに導入された「創作関西仏花」(298円)である。丈そのものは短いが、花束のパーツとしては、サカキに大輪のスプレイマムとカネーションを用いている。
<この付近に、写真2~写真4を挿入のこと>
(3)ご当地仏花
そのむかし、「キリンアグリバイオカンパニー」から、地名を冠した花束が販売された。たとえば、山形県おきたま農協の「だだちゃ百合」(山形県特産の“ダダ茶豆”に由来)、高知産の「四万十マム」(高知県を流れる清流“四万十川”からブランド名を借用)など25ブランドであった。アイデアは、この産地ブランディングのバリエーションである。地名を冠した仏花(ご当地仏花)を販売したらどうか、という提案である。
そう思って、学生とネットでサイトをチェックしたら、実際に「ご当地仏花」が存在していた(「オーシャン貿易」のご当地仏花マップ:http://www.oceantrading.co.jp/flower/link/bukka_map/index.htm)。産地は、北海道、秋田、宮城、群馬、東京、富山、岐阜、愛知、京都、島、香川、熊本、沖縄の10県である。
ただし、問題点が二つあった。各県で使用されている仏花の実物そのものであるため、デザインとしてはあまり新規性がないこと。そして、ほぼ似たりよったりの花束で、アイデアとしては面白味がないこと。もうすこし工夫の余地があるように思う。
たとえば、県花を花束のパーツに用いるとか、花束の名前を「グラバー邸のカネーション」(長崎県)などのように、著名な各地の建造物にご当地の花束を関連付けるとか。
以上、工夫次第で、仏花の新たな需要が生み出せるように思うのだが、生産者の読者のみなさんはどのように感じられるだろうか?