JFMAニュース(5月号)の巻頭言を転載する。2013年5月20日号のために準備した原稿であるが、学部生や大学院生にも、モノ主体のサービス業について、利益の元に関する事実を知ってもらいたいので、転載することにした。JFMAの会員には、すでに配布されている資料である。
「モノとサービス:どちらで収益を獲得すべきか?」
日本の大手自動車会社のほとんどは、円安で業績が好調である。2013年度の初めには1ドル=90円前後に為替レートを設定していたから、為替差益だけで20%~30%の増益である。それに加えて、隠れた要因としては、中国以外のアジアの新興国(インド、タイ、マレーシア、インドネシアなど)で小型車の販売が順調に伸びていることがあげられる。富士重工や日野自動車、ダイハツなどの中堅メーカーの経営状態は、リーマンショック直前の2008年の決算を上回るほどの活況を呈している。
ところが、ものごとはそれほど単純ではない。話題を国内に限定すると、先々の見通しはそれほど楽観を許されないのである。来春4月に予定されている消費税の5%から8%への増税。その後に到来する消費税10%時代。直近では、原料・資材のコスト増。政府主導の賃金上昇圧力など、コスト的にきびしい状況が待ち受けている。それだけでない。経済不況で貯まっていた買替需要が一巡すると、基本的には、人口減少社会である。もっとも人口が多い高齢者層(65歳~退職準備世代)は自動車の買い替えをしないどころか、運転免許を返上して車を運転しなくなる可能性が高い。その分は、自動車に対する需要が純減してしまう。
そうしたモノづくり産業に対して、経営学やマーケティングの理論家たちは、モノづくり一辺倒から脱して、サービスによる付加価値の向上を推奨している。わたしの仲間たちは、研究テーマを製造業からサービス業の生産性向上にシフトさせてきている。
それでは、モノづくり研究(たとえば、QC活動による品質向上、作業動作観察を応用した生産性改善運動など)を、単純にサービス産業の研究に応用できるものだろうか?結論はまだ見えていないのだが、これまでの取り組んできた経験から、ひとつだけ確実に言えることがある。それは、モノづくり産業とは異なり、サービス業では顧客と接客従業員がサービス提供過程に同時に介在することで、製造業にはないふたつの課題に直面することである。
花の専門小売業やインショップの惣菜売り場を考えてみるとよい。
ひとつ目は、切り花やデリカの品質だけでなく、従業員が提供するサービスが品質を決めてしまうことである。顧客の買い物に対する満足は、商品を手渡しする瞬間の従業員の笑顔にしたがっていか様にでも変わりうる。
ふたつ目は、売り場に最終製品の在庫をすべては持てないために、現場での加工が必要になることである。客の顔を見ながら、売れ行きを見ながら、需要への対応を微調整する。工場で事前に仕様が決まった車を完全な形で作りこむ製造業とは、決定的に経営のやり方がちがうのである。
さて、それでは新車を販売するのと車検や故障で車を整備するのとでは、どちらが利益率が高いのだろうか?事実を述べると、大手自動車メーカーの国内収益の源泉は、新車販売による利益が20に対して、車検・整備サービスや部品販売による収益が80である。もはや代表的な製造業である自動車会社の収益モデルも、サービス部門によって支えられているのである。
考えてみるとよい。なぜ、ソニー、パナソニック、シャープの家電御三家が、円安が進行するつい先ごろまで減収減益に苦しんでいたのかを。サムスンやアップルとの戦いに敗れたとも言えるのだが、メーカーとしてサービス社会への転換に失敗したのだとも言えるのである。
花産業も同じである。良い花を生産していればよかった時代は終わった。販売の現場を想定したモノづくりを考えないと、豊作貧乏に終わるのである。
高品質の花をどれだけ上手に作っても、利益を生み出すことはできないかもしれない。店舗でのサービスや花束加工、品質管理を含めた物流改革にこそ利益の源泉を求めるべきである。