日本のマラソン人口は20万人で、その数は増加しつつある(2010年4月10日、(株)アールビーズ・橋本治朗社長とのインタビューから)

 東京マラソン2013まで、残すところ10日と迫っている。調整は順調である。ご存知と思うが、東京マラソンのレース運営は、RBS(アールビーズ)に委託されている。月刊ランナーズを発行している会社である。社主の橋本社長と、2010年(4月10日)にインタビューをしていた。

 アシスタントの青木さんがメモをとってくれていたので、その最後の部分を紹介する。記録は、日本のマラソン人口に関するものである。東京マラソンがはじまってから3年目であった。
 インタビューの内容は、いずれ出版される「日本で一番喜ばれているサービス」(生産性出版)の下敷きになるものだが、その中でふたりで交わされた「マラソンブーム」に関するやりとりを紹介する。
 いまから振り返ってみると、橋本さんの予言はぴったりと当たっている。現在のマラソンブームにつながるランナー事情を予見していた。
 

2010年4月10日 橋本×小川対談@法政大学
*この場所は、橋本さんにとっては、なつかしい母校のキャンパスでもある。

 <日本のマラソン人口>

(橋本) 日本のマラソン人口は、調査方法によって数字は異なるが、年に1回フルマラソンを走る人が20万人、ハーフを走る人たちが200~300万人いると言われている。この部分(ハーフ以上の完走者)が、当社(RBS)のコアの顧客である。その他、レースには出ないが皇居などで走っている人は、800万人くらい。彼らが、しだいにコアのレース人口に加わりつつある(*小川コメント:したがって、人口の10分の1にあたる約100万人が走っていることになる)。
 走ったことがなかった人が走るようなり、自分で走っていた人たちがやがてハーフマラソンに出場するようになる。ハーフマラソンに出ていた人が、フルマラソンに挑戦するようになるというように、すべてのレベルのランナーがだんだん上の段階を上がってきているというのが現状である。

 ランニングがブームになっている理由は、現在の社会状況にあると思う。
 30年間ランニングを見てきたが、バブルの時には、ランニングは注目されない。世の中が不況だったり先行きが見えなくなったりするときに、ランニングに関心が集まるという傾向がある。最初はオイルショックの時がそうだった。社会保障制度、経済的不安感があるときには、「自分しか頼りにならない」、「最終的には体が資本」、というマインドになる。すると、自分をしっかりしておこうということで、時間が自由でお金がかからないマラソンに注目が集まる。

 データ的には、対人口比でのマラソン人口が1~2%くらいは、世界的には珍しくない。たとえば、沖縄のマラソン人口は2%に近い。100人に2人がフルマラソンを走る。沖縄の人は盛り上がりやすく、すぐ大会に出る。沖縄にはマラソン大会が2つあり、那覇マラソンはすでに参加者30,000人で、このままでいけば、出場者は東京マラソンよりも多くなるかもしれない。
 ハワイもそうで、対人口比で1%である。世界には、そうしたマラソン人口比率の高いところがたくさんある。ところが、日本全体でみた場合、人口1億3,000万人に対して、マラソン人口は20万人で、0.18%程度である。そこが伸びシロである。
 東京都では、男子だけでフルマラソン人口が0.5%、男女あわせて0.2~0.3%くらいある。東京マラソンはあっても出られない。数字だけ見れば、受け皿さえあれば、マラソン人口は、今の10倍、20倍は伸びる可能性がある。それを受け入れられるだけのキャパシティがあって、制限時間がゆるいことや楽しいイベントがあることなどの要素が加われば、東京が100人に1人がフルマラソンを走るような都市になっても、驚くようなことは何もない。

 世界でいちばんマラソン人口が多い都市は、はっきりしたデータはないものの、ハワイ周辺は高そうである。フルマラソンでさえ1%だから、住民の10人に1人くらいは走っている可能性がある。10キロとハーフは少し距離に開きがあるが、ハーフが(マラソン普及の)一つのポイントなのかもしれない。

 (小川) 今の皇居周辺の状況はちょっと異常である。東京は緑が多いと言われるが、自由に走れるコースは少ない。もっとマラソンコースが作れるのではないか。東京では10キロでも信号なしで走るのは難しい。一つの課題として、自治体に、公園にランニングできるインフラを整備してほしいと思う。

 (橋本) 日本では、山梨県に一つだけ、マラソン歩道橋というのがある。国道の一部が、階段ではなくスロープで渡れるようになっている。マラソン大会のために作られたゆるいスロープの歩道橋である。こういうものがあると、国道を止めないでマラソン大会ができる。
 京都でも、鴨川の橋に、橋の横から階段に降りる形ではなく、スロープから橋の下をくぐって、スロープで上がるという形で渡れるところがある。これはマラソンのために作られたスロープで、マラソン大会の迂回路になっている。道路を作るときにそういう工夫があれば、同じお金で、マラソン大会のときにわざわざ迂回路を作らなくて済むし、ふだんは自転車も信号なしで通れる。しかし、日本の街づくりのなかに、スポーツを街に組み込んでいこうという発想はまったくない。
 地下道にしても、階段でなくスロープ状にすれば、自転車もランナーも走れる。それは、バリアフリーで車いすの人も移動できる街づくりにつながる。公園があれば、信号なしで走れるので、憩いの場ができる。しかし、そういう発想は、建設省の発想にはない。建設省が作る自転車道路は子供用で、スピードが出せない。そういうものより、公園の外周に管理道路を1本作るだけの方が、よほど利便性が高い。建設資材運搬用に使った後で、ロードレースや自転車用に使えるようにしてくれればいいと思う。
 最初から河川管理用に道路を1本作り、それを残しておいてくれるだけでいい。設計の仕方次第で、特別な予算はほとんど必要なしに、マラソンや自転車のコースが作れる。そういう発想が、日本の街づくりには欠けている。

 *小川コメント
 このインタビューの2年後に、第一回京都マラソンがはじまった。それまで、わたしは3回京都ハーフを走っている。そして今年、わたしは、3月10日開催の京都マラソンに抽選で当った。偶然なのだが、鴨川のスロープを走ることになる。