日本人が忘れているヨーロッパの現実: 統合されたEUは、新しい国と民族から構成されているらしい

 極東にいると、世界の中心で起こっている現実を忘れてしまう。中国大陸と朝鮮半島との間での紛争に日本人が粉骨砕身しているすきに、欧州の危機は先に進んでいるらしい。国内のメディアだけを眺めていると、西側諸国からのサインを見落としてしまう。

 EUの基本問題は、同盟国同士の枠組みを超えはじめている。それぞれの国内で、独立や分裂の動きがはじまっているらしい。”Business Week(ブルンバーグ)”(2012年9月30日号)によると、スペインのカタロニア地方やドイツのババリア地方では、独立運動の機運が盛り上がっているという。
 ヨーロッパの統一どころか、EU国内では、異なる民族間での南北問題(所得格差)が顕在化している。経済問題をきっかけに、200年~300年来の独立運動が再燃しているらしいのだ。ギリシャやスペインに見られるように、公務員給与のカットや低所得者層への所得補填は、もはや中心的な関心ごとではない。
 一部の欧州人は、グローバリゼーションに嫌気がさしている。現実的かどうかは別にして、小さな政府による地方の独立を求めている。民族的な独立がそれに拍車をかけているのだろう。
 英独仏などのヨーロッパの中心国は、ファシズムの台頭に対する反省として、また防衛策として、地方文化の重視と所得階層の下位部分の人々に配慮をしてきた。
 この枠組みが、EUの経済危機で崖っぷりにさらされている。その点では、経済成長の踊り場にいる中国も韓国も同じである。長い停滞の時代を過ごしている日本についても、同様な民族主義と右傾化を恐れるのはわたしだけだろうか?

 日本は、単一民族の安寧の中にいる。もちろん、アイヌ民族問題や国内にも移民問題がないわけではない。しかし、欧州諸国は、最近になって統合された小さなローカルな国の連合であることを、わたしたち日本人は忘れてしまっている。与えられている現実は、かなり違うことも事実なのだ。
 東西のドイツが統合してから、まだ20年も経過していない。スロバキアとチェコは分裂したが、少し前まではひとつの国だった。ソビエト連邦だったロシアの一部も、旧共産圏のポーランドも、いまや別の国である。
 離散集合。現実は、思った以上に複雑である。極東の領土問題など、彼らから言わせれば、大海に浮かんだ芥子粒をめぐる争いに見えるかもしれない。