【書評】 渡辺米英(2012)『無印良品 世界戦略と経営革新』商業界(★★★★)

 本書を、良品計画の事業の歴史と重ね合わせて読んでみた。本書の評価はなかなか難しい。というのは、無印良品の国内事業を立ち上げた創業メンバーを、個人的に知っているからである。彼らが、1990年代の起業時と2000年代の事業の転換点で苦闘していた時代は、遠くに過ぎ去ってしまったようだ。



 渡辺氏が前著『無印良品の「改革」』(商業界)を上梓してから6年が経過している。本書の執筆テーマは、「良品計画が2006年以降に行った経営改革の内容と成果について(まとめたものである)」(「あとがき」より)。ーしているのは、主として海外事業である。
 その中間点の2009年春に、わたしは、研究室の大学院生たち(頼くん、本間くん)と一緒に、本書の冒頭にも登場する上海市の正大広場にいた。このショッピングモールの3階には、「ユニクロ正大広場店」が出店していた。当時としては、上海で最大規模のユニクロだった。
 そして、その隣に、売り場面積598㎡の「MUJI 無印良品店」が出店していた。ユニクロと比べると規模は半分で、品ぞろえも日本と比べるとかなり絞り込んであった。正直に言えば、「商売が厳しそう。この価格だと、中国人の価値観にはまだ早いのではないか」との印象をもった。
 
 ところが、本書によると、2010年以降は、上海地区の2店舗では売り上げが大きく伸びている。わたしたちの当時の印象とはちがって、当時も今も黒字で経営されているらしいのだ。 
 どうやら、わたしの判断ミスのひとつは、家賃比率(の推計ミス)にあったようだ。当時から、上海は建設バブルで、都心部のSCでは賃料が高騰していた(と思っていた)。ただし、MUJIに関しては、家賃交渉により、売り上げの10%以内に賃料を抑え込んでいたらしい。
 「客数が足りないのでは?」とわたしが懸念したのは事実だった。中国の無印良品は、二等立地に出店する戦略を貫いてきた。だから、正大広場の店も、小ぶりで3階の奥まった場所にあったのだ。その基本方針は納得できる。
 少数だが、上海人の中でも、無印のコンセプト(「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」)を理解してくれる「目的買い」の顧客を相手にした商売だった。「この場所でも、ボールペンの値段がやたらと高いな」と思ったのは、杞憂に過ぎなかったわけである。

 家賃以外に、無印良品の海外事業、、とりわけアジア地区でのビジネスが好調な理由は、商品の調達面でも物流の効率が良いからである。中国で製造した商品を中国内の店に直接運べば、物流費は低減できる。もっとも、多店舗化ができなければ、それはできない相談である。
 店舗運営にも現地人を積極的に関与させている。人事面での現地化と人件費のコントロールが進んでいるようだ。結局は、現地化の推進が、収益基盤を強くしていることになる。中程度のブランド浸透率(ニッチな消費者をつかめる)で、ある程度のスケールメリットを生み出すことに成功しているのだである。
 絶妙ともいえる海外事業の展開は、6年前までに成し遂げた「国内改革」のアジア版である。本書の第二部(前著の要約)で、2006年以降の国内改革が解説されている。2006年前の経営改革の本質は、店舗立地や規模の選択、物流コストや管理費(家賃と人件費)など、細かなオペレーションコントのコントロールが中心である。その同じ経営手法が、アジアでも採用されてきたのである。それも、日本での経験を踏まえているので、スピードが速いのだ。
 結論を言えば、無印の世界戦略は、国内改革の経営面での移転作業そのものだったようだ。本書は、この内容を上手に伝えている。